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4章23話『半身のゲームオーバー』

 ゼロの後ろのヴィクティマはクスクスと笑っていた。


「あなた単騎で、私のリメイクに勝てるとでも思ってるの?」


「あぁ、勝てる」


 俺はそう言い放った。半分ハッタリ、半分本気の一言だ。というより、勝てるかどうかなんて今となっては些細な問題だ。

 たとえ勝てない相手でも勝つしかない。最初から選択肢(逃げ道)なんて断ち切っている。


「ティリタ……この対決、お前は俺に何もするな」


「え…………?」


「アイツとの決着は、俺が俺の力だけで成し遂げなければいけない。だから、お前には民間人の避難やさっきの人の回復を頼みたい」


「でも、君とゼロのLvはほとんど一緒だ。だとしたら、君のPOWの低さは大きな敗因となりうる…………」


「あぁ、分かってる。だが大丈夫だ、その程度のハンデだけなら俺はゼロに勝てる。それに……」


 言うべきか否か迷ったが、言った方がティリタも納得してくれるだろう。


「ゼロの最期を、お前に見せたくない」


 ティリタはハッと目を見開き、小刻みに震え始めた。ゼロのその姿を想像してしまったのだろう。やはり言うべきではなかったか。そう後悔し始めていた頃、


「わかった」


 ティリタは決意にみなぎった表情に戻り、折りたたみ式の杖を展開した。


「ただし約束して。たとえゼロが死ぬことになっても、君は絶対に死なない、と」


「あぁ、約束しよう」


 ティリタはそれを聞くと頷いてゼロに襲われた人に近寄った。そのまま彼は路地裏へ消え、俺からは見えなくなった。


「………………………………」


「………………………………」


 俺とゼロは一定の距離を保ちながら睨み合っている。円を描くように横歩きしながら相手の出方を伺う。歩いて、止まって、逆向きに歩いて…………それを何度も繰り返した。


 ここはあえて攻めるべきだ。俺はそう判断し、ゼロに急接近した。ティリタのバフがない今、遠距離から魔法を放ってもまともな火力にはならない。以前やっていたように至近距離で密度の高い魔法を叩き込むしかない。

 俺の右手は炎に包まれている。正直なところ、これを制御するのもやっとだ。少し気を抜けば暴発してしまう。


「うぉぉおおおらぁああ!!!」


 俺は開いた手を拳に変え、ゼロの腹目掛けて思いっきり振りかぶった。強く足で踏ん張り、赤いバイクが走るように素早く、鋭く刺さるような炎のパンチを撃つ。

 この一撃が放たれるまで1秒もなかった。


 にも関わらず、ゼロはその俺の全力を嘲笑うかのように最小限の動きでそれを回避した。


「何ッ!?」


 そのまま俺の腕を引き、前傾姿勢になっていた俺の体を引き寄せ、俺の頭に銃口を付けた。今俺はゼロの体に寄りかかるような形になっている。足もつま先しか地面についていない。

 完全に身動きを封じられた。


 まずい、どうにかして拘束を解除しないと…………!

 そう俺がもがいている時、ゼロの唇が俺の耳元に近付いた。


「――――――――――――――――」


「…………!」


 俺の内に秘める炎が激しく燃え上がるのを感じた。俺はデメリット効果を覚悟した上でゼロの体を全力で振り払い、ゼロから距離を取った。


 今ゼロが言ったことが本当なら…………()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そうでないと意味が無い。

 今まで微かに残っていた躊躇いと、ゼロを助けられるかも知れないという望み。

 それらを全て断ち切って彼女を殺さなければならない。


「…………お前がどんな策で俺を陥れようとしているかは分からねぇ。

 だが、いいぜ。お前の手のひらの上で踊らされてやるよ」


 俺は離した距離を再度詰める。ゼロは俺に銃撃を浴びせるが、炎でガードしている為当たったとしても掠るだけだ。大したダメージにはならない。


「フレイム!」


 至近距離で火魔法を放つ。が、フレイムは下位魔法。さすがに火力不足だ。ゼロはそれを全て受けきってなお俺に攻撃を仕掛けてきた。

 腹へ強烈な蹴りを一撃入れて俺をノックバックしたゼロは服を手で払い、再度銃を構える。


 ガンッ!


 放たれた銃弾を俺は炎の付いた手で受け止める。そうして俺の注意が一瞬だけゼロから銃弾に移った隙にゼロは俺との距離を詰めてきた。

 ゼロの回し蹴りが俺の首めがけて鋭く飛んでくる。

 間一髪、体を後ろに反らせてそれを回避したが、あまりの威力とスピードに蹴りに触れた前髪の一部がはらりと切れた。


 まともに食らったら俺の頭は原型を留めないだろうな。


 だが今の攻撃でゼロにも隙が出来たのは事実だ。俺はゼロの腹にフレイムを放った。ボンッ!と爆発するような音と共にゼロの体が少し後ろに動いた。

 フレイム等の火魔法を高濃度で放つと燃焼を通り越して爆発になる。その性質を利用してゼロと適切な距離を保つ作戦だ。


 が、リメイクはそんなに脆くない。ゼロは怯むことすらなく俺に銃口を向けた。

 ダンダンダンダンダンッ!高速で飛んでくる5発の弾丸。それらを見切って全て手で受け止めるのは至難の業だった。

 一瞬だけ自分以外の全てがスローモーションに見えたおかげで、銃弾の軌道を的確に読み、止めることが出来た。


 ゼロはさらに畳み掛けるようにガン=カタを披露する。1秒に何十発もの弾丸が降り注ぐゼロのガン=カタはさすがに受け止めきれない。

『セラエノ断章』で炎のカーテンを作って防いだ。


 が、あのゼロのことだ。このカーテンを外した途端俺の頭を撃ち抜いてくるだろう。それに関しては予想がつく。

 俺は自分の目の前にもう1枚小さいカーテンを生成した。おそらく炎が解けると同時に反射的に撃ってくるだろうから、これだけで十分に守れる。


 が、ゼロはそんな単純じゃなかった。


 俺が満を持して炎のカーテンを解除する。その時、俺は驚きと絶望を同時に感じた。

 既に目の前にゼロがいたのだ。それも、かなりの至近距離。間をセンチメートル単位で表しても2桁あるかないかだ。


 ゼロはそのまま俺にタックルしてきた。体勢の低いそのタックルは炎のカーテンの下に衝突し、そのまま俺を弾き飛ばした。俺は後方の壁に強く体を打ち付けられた。


 ゼロの銃撃を俺が予想する、それですらゼロの予想の範囲内だったという訳だ。

 俺は後方の壁に強く叩きつけられた。粉がパラパラと肩に落ちる。


 ゼロは俺に近付き、銃口を向けた。

 正直、今の一撃はかなり堪えた。体が痺れて動かない。少し咳き込むだけで血が溢れる。フレイムの射程からも外れている。

 もしかしたら、死んだフリをすればやり過ごせるかも知れない。そう思いもした。

 だが、それはゼロとの戦いから逃げることになる。俺はどうしてもこいつを殺さなければならない。ここまで来て逃げる訳にはいかないんだ。


「ゼロ…………お前、ホントに死んじまったのか?『私が死ぬわけないでしょ』っていっつも言ってたじゃねぇか」


 ゼロは答えない。今の彼女に感情なんてない。それでも俺は言うしかなかった。


「…………悔しいよ。ずっと隣にいたお前を失うことになるなんてな」


 だから俺も、感情を押し殺してゼロにトドメを刺すしかなかった。


 シャシャシャッ……。俺の体の周りに鉛の塊が浮いた。ゼロが撃ったものを掴んで取っておいたのだ。それを『セラエノ断章』の炎で空中に浮かせている。


「ゼロ……お前は俺の相棒だ。たとえ死んだとしても、俺の相棒はお前だけだ」


 その銃弾の先がゼロの方に向いた。

 それを目視していたにも関わらず、ゼロは避けようともしなかった。


「だからこそ……俺はお前にこう言うよ」


 俺は拳を強く握り、言った。


「ゲームオーバーだ」


 ババババババッ!

 銃弾を支えていた火幻素が爆発を起こし、その反動で弾丸が飛んだ。その先にいたのは言うまでもなくゼロだ。

 合計24発の弾丸がゼロの体を蜂の巣にする。そのうちの1発が、ゼロの鎖骨の辺りにあった『稲妻の検印』を破壊した。


 血すら流れない穴だらけの体で、ゼロは地面に倒れた。


 俺はゼロに近付き、その体に触れる。凍ったように冷たいゼロの体を持ち上げ、抱きしめる。

 そっと彼女の耳元で一言呟いた。


 そして彼女の体をそっと置き、振り向いて睨んだ。


「おい、何モタモタしてんだよ」


 俺は口を抑えているヴィクティマに向かって指を指した。


「次はテメェの番だ」


 俺はまた手袋をぐっと押し込んだ。

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