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4章21話『本物』

「か弱い少女に3人がかり…………随分必死じゃない?」


 私は敵3人を睨みながら1人ずつ順番に銃口を向ける。その口角は微妙に上がっていた。

 3人のヴィクティマ達はそれに応えるように魔導書を開き、幻素を溜め始めた。


「当たり前だ。お前に逃げられる訳にはいかないんだ」


 と、男のヴィクティマが言う。


「そもそも、なんでそこまで私にこだわるの?私より強い人なんていくらでも転がってる。リメイクにしたいならその人達を選ぶべきじゃない?」


「違いますよ、私はあなた本人が欲しい訳ではないのです」


 少女のヴィクティマが笑いながら言った。

 私はその一言で理解した。なぜ私が捕まり、且つここから逃げられては困るのか。


「私を人質にグレンをおびき寄せようという訳ね」


 ヴィクティマ達はニヤニヤと笑うだけで頷きも首を振りもしない。奴らの反応だけでは私の考察の正否が分からない。私を信じるしかなかった。

 狙いはあくまでグレン。自分は付属品に過ぎない。私を信じる以上、そういう結論に至っていた。


 だが、それでも不可解な点が1つある。


「じゃあ1つ質問させて。なぜ、そこまでしてグレンを狙うの?私を攫ってまでグレンを手に入れようとして、その後何をするつもりなの?」


 グレンをリメイクにするため、と考えるのが普通だが、グレンが戦闘を行うにはティリタのマジックアップやゼロのサポートがなくてはならない。彼1人で戦うにはPOWが足りなすぎる。

 確かにPOWは強い精神力を持てば上昇する。しかしそれは何もグレンに限った話ではない。

 なら、彼を狙う理由は1つもないはずだ。


「さぁ、我々には分かりません」


 あくまで白を切るつもりか。ま、当たり前と言えば当たり前だ。組織の秘密を捕虜なんかに吐くわけがない。

 なら、吐かせるまでだ。


 …………ダンッ!


 私は無言で女のヴィクティマの頭を撃ち抜いた。が、この程度で倒れないのは知っている。さっきコイツの脳に弾丸を叩き込んだからだ。コイツら自身もリメイクなのだろう。

 まぁ、少し過激な威嚇射撃のようなものだ。


「……………………」


 ヴィクティマ達も無言で各々魔導書に手を置き始めた。その手には美しい黄色の光が集まり始める。私もそれを見て身構えた。


「ライトニング!」


 驚くべきことに3人全員が同時に詠唱した。3つの最上級魔法が私の体を引き裂こうと突っ込んできた。

 だが、3つ一気に来るなら好都合だ。威力が1箇所に集中している分、回避は楽だ。私は転生時、DEXにポイントを振っている。回避することに関しては私の右に出る者はいない。


 ガゴォォオン!

 壁に当たった雷が黒い焦げ跡を残した。壁がボロボロと崩れていく様子を見た私はゾッとはした。これ程の威力の魔法を食らったら私は一溜りもないはずだ。

 だが、私は今有利な状況にある。私が劣っているのは人数比だけだ。


 私は避けた先から銃を数発撃ち、その銃弾を追うように走って掃射攻撃を行った。大丈夫だとは思うが、後ろの柱の影に隠れているエンガノには弾が行かないように考慮した。


「ぐっ…………!」


 滑るように回りながら銃を撃ち続ける私に対し、女のヴィクティマがライトニングを放ってきた。頭に向かって飛んできたそれを私は首を横に動かして避けた。雷の熱が私の頬に伝わった。


 その背後から男のヴィクティマがライトニングを放ってきた。私は地面を強く蹴って宙返りし、もう一度着地した。空中で3発弾丸を撃ったが、肩や腰にかすっただけで大きなダメージにはならなかった。


「……仕方ない」


 男のヴィクティマが隣2人を見て頷いた。当の2人も彼が何をしようとしているのか完璧に把握しているようだ。3人はほぼ同時に魔導書のページを捲った。

 そしてさっき殺した槍使い達に魔法を放つ。

 まさか…………!


「『ナコト写本』は特殊でして、『ネクロノミコン』や『イステの歌』等とは違って()()()()()()()()()


 対象に一定のPOWと技術力があれば白紙の本を『ナコト写本』にコピーする事が可能らしい。もちろんオリジナルより性能は劣るが、それでもリメイクを生み出すことは可能なんだとか。

 どちらにせよ、数的不利が加速したことに変わりはない。このままではゴリ押されてしまう。


 私は必死に『稲妻の検印』を探すが、どこにも見当たらない。一人ひとりじっくり探さないといけないが、そんなことをしている暇はない。と、裏にいる3人のヴィクティマが圧をかけてくる。


 このリメイク達を早いとこ処理しないと、私はどんどん不利になるだろう。警備兵のように鎧を着込んでいる訳では無いのが不幸中の幸いか。私は少し先にあった警備兵達の死体を見た。


 ………………待って、なんで警備兵をリメイクに使わないの?

 私には銃があるから近接武器が不利なのはコイツらも警備兵も一緒。なら鎧を装備して銃弾をある程度防げる警備兵達をリメイクするべきじゃ……?


 そう考える私の脳に、1つの仮説がよぎった。この時の私は最高に冴えていたと思う。そして私はその仮説をすぐに証明できた。


 私はリメイク達に『アクセル』を行い、警備兵達と同じようにハイキックで頭を吹き飛ばした。文字に表せないような凄惨な音が透き通るように駆け抜けた。

 そしてリメイク本人は、倒されることこそなかったがしゃがみこんで動かなくなった。まるで緊急停止したアンドロイドのように。


 私はニヤリと笑い、唇を舐めた。

 私はまだ誰も気づいていないリメイクの弱点に気づいたのかも知れない。そしてこれはきっと私にしか気づけなかった事だ。


 リメイクの頭を胴体から引き離した時、リメイクはうなだれて動きを止める。たとえ『稲妻の検印』が破壊どころか発見すらされていなくても。ヴィクティマ達が警備兵達をリメイクにしなかったのはリメイクしたところで使い物にならないと分かっていたからだ。


 数十秒後、私の周りには4つのうなだれた死体と重い頭が転がっていた。リメイクは血が出ないから服が汚れなくて助かる。


 私はそのままヴィクティマ達に近づいていく。彼らがリメイクであれば、この方法は通るはずだ。それに厳密には殺していない以上、たとえ彼らが転生者だろうと動きは止まる。

 これがコイツらを絶望に叩き落とす術だ。

 私は一礼し、宣言した。


「ただいまより死刑を執行します」


 私は振りかぶった手刀を男のヴィクティマの首めがけて思いっきり振り下ろした。

 ゴトン。

 豆腐を切るように落ちた首と、動かなくなったヴィクティマの体。

 他の2人も戦慄した。


「ら、ライトニング!」


 少女のヴィクティマはライトニングを至近距離で放ってくるが、《舞踏戦士》のステータス上昇は耐久面にも影響するためほぼ無意味だった。

 痛みこそ強く感じたが、致命傷にはならなかった。

 そのまま私の回し蹴りで機能停止した。


「ひっ!」


 私は睨むこともせず優しい眼差しで最後の一人を見た。だが彼女の表情は恐怖そのもので、今にも崩れ落ちそうだった。


 だからさっさと崩れ落としてあげた。私優しい。


 最後の一人をかかと落としで殺した後、私は飛び散った血の塊や脳みそを払ってエンガノの下へ戻ろうとした。

 その時。


「がっ………………………………!」


 私の首元に強い電撃が走った。


「油断しましたね、ゼロさん」


「エン…………ガノ……?」


 首の下に植物の根が張るような感覚に襲われた。ミシミシと、私じゃない物が私を飲み込もうとしている。自我という崖に何とか腕1本で捕まっている状態だ。


「エンガノではありません。私が、()()()()()()()()()()()()


 その最後の言葉を聞くと同時に、崖は崩れた。

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