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4章4話『バッドコンテニュー』

 木々の間から体を揺らしながら現れたのは、背を丸めて暗い表情を浮かべる1人の男だった。ボロボロになった無地の白いシャツ、ギザギザに刻まれたジーンズ、穴だらけの皮膚…………。


 見たところ、どうやら森で迷ってしまったようだ。この森は一部を除いてどこまでも薄暗いし、同じような木が大量に生えている。迷うのも無理はない。


「敵ではないようだな」


「あぁ。だとしたら、彼を助けに行かないと!」


 電子職業手帳には前方の生命体のステータスの数値を読み取る機能が搭載されている。これもマスターズギルドの技術力…………とされているが、実際には閻魔大王が不都合のないように世界を調整したのだろう。


 前方にいる男のHPの数値は限りなく0に近かった。ティリタは大慌てで草をかき分けて、杖を展開しながら男に近づく。

 その後を追うように俺とゼロも走り出した。


「大丈夫ですか!?」


 ティリタが回復魔法を木に寄りかかる男に詠唱する。緑色の淡い光が男の周囲を暖かく照らした。

 一呼吸遅れてティリタに追いついた俺とゼロも後ろからその様子を見ていた。

 近くで見ると、男はやせ細り、肌も乾燥していて、血色も悪かった。どうやらかなり長いこと遭難していたようだ。


 何か食べ物、飲み物を渡したい所だが、乾燥した非常食とボトル1本の水しか持ち合わせていなかった。


「ゼロ、なんか水とか食べ物とか持ってないか――――――」


 そう言ってゼロを何気なく見たが、相棒は予想外の行動に出ていた。


 彼女が銃に手をかけていたのだ。


「おい……お前何やって――――」


 俺が威圧的に言おうとしたのを遮るように、男が叫んだ。


「我が人生はヴィクティマ様のモノ!」


 ダンッ!


 本当に一瞬の出来事だった。

 今まで力なくなんとか立っていた男が、いきなりピンッと立って背中から拳銃を取り出した。

 その銃口は最も近かったティリタでも、警戒の様子を見せていたゼロでもなく、俺に向けられていた。


 が、ゼロはそれを予測していたらしい。

 後から聞いた話だが、男の背中に貼り付けられた拳銃をたまたま目撃していたらしく、奇襲を読んで銃を取ったとの事。

 ゼロは男が引き金を引くとほぼ同時に弾丸を放った。それも素早く、的確に、自分の弾丸と男の弾丸がぶつかり合って弾かれるように。


 ゼロの銃の腕前はここ最近で恐ろしいほどに上がっている。


「どういうつもり?」


 ゼロが細い煙を吐く銃口を依然男に向けたまま首を傾げる。


「ヴィクティマ様が仰っていた…………。《アスタ・ラ・ビスタ》の魔法使い・グレンの遺体を持ち帰れ、と」


「なっ…………!」


 驚きで頭が回らなかった。

 自分で言うのもなんだが、確かに俺は今まで数々の偉業を成し遂げてきた。

 だが、まさか名指しで暗殺司令が下るほどだとは思っていなかった。


「ヴィクティマ様のおかげで俺は今ここにいる…………ヴィクティマ様の命令は絶対だ」


 さっきから何なんだ、誰なんだヴィクティマって…………。

 聞いたことも無い名前だぞ。俺にどんな恨みがあるって言うんだ?


「そもそも、俺は転生者だ。俺は死後すぐに教会に転生する。遺体なんて残らねぇ」


「あぁ、その通りだ。一向に構わん」


 …………何を言っているんだ?殺せさえすれば転生しようがどうしようがいいって訳か?

 でも殺すことが目的なら、転生されたら困るはずだが……。


「どちらにせよ、お前には死んでもらおう」


 男はもう一度銃口を俺に向けた。今度はゼロが対応するより早く発砲した。

 だが、今回は俺が『セラエノ断章』で炎の壁を作りその銃弾を防いだ。


「悪いがまだ死ぬ訳には行かねぇんだ。だが安心しろ、俺が直々にヴィクティマ様とやらと話付けに行ってやるぜ。()()()()()()()()()()()()()()


 俺は右手に炎を宿らせて言った。

『セラエノ断章』は防ぐためだけの魔法ではない。少し工夫すれば、盾にも槍にもなるんだ。


「バーニング!」


 俺は右手から火球を飛ばした。

 男はそれを目視した上で大きく横にそれて回避した。が、無駄な事だ。


「逃がすかよッ!」


『セラエノ断章』は空間に漂う炎の球を、男を追い続ける人魂へと変化させた。

 男がどれだけ器用に炎から逃れても、炎は男より速い。追いつくのは時間の問題だ。


「ぐぅっ…………!」


 結果的に火炎は男の背中に命中した。焼け焦げる匂いが一瞬鼻をついた。


「へへっ…………やるじゃねぇか」


 男はそれでもなお目を見開いて銃の先を舐めている。まるで効いていない、と言った感じだ。

 それが俺には不可解でならなかった。


 前述したように、男はボロボロの格好で体もやせ細り、血色も良くない。にも関わらず、ヤツは絶好調だと言わんばかりに活発に動いている。

 今さっき、俺のバーニングを30秒以上逃げ続けた上それを喰らっても何食わぬ顔で立ち上がったという結果。

 それが気持ち悪くて仕方がない。


「アイツ…………何かあるな」


 俺はそう身構えつつも、それが何であるかが分からない今はとりあえず攻撃を仕掛けてヒントを集めるしかないということも分かっていた。


「ティリタ、火力上げてくれ!」


「これ以上は君が耐えられるか分からない、覚悟の上だね?」


「当たり前だ!やるしかねぇ!」


 ティリタは頷き、俺にマジックアップを付与した。体の芯から煮えたぎるような強い熱が上がってくるのと、体の至る所がメキメキと悲鳴を上げているのが同時に聞こえた。


「生半可な攻撃じゃアイツを倒せねぇ!ゼロ、一気に叩き込むぞ!」


 ゼロは相変わらず余裕そうにレッグホルダーから銃を抜いた。そしてひと足早く駆けつけていた俺に一瞬で追いつき、俺から数歩離れた所で睨みを聞かせていた。


「バーニング!」


 走りながら右手に貯めていた炎を、男の前に立つのとほぼ同時に解き放った。小規模な爆発とも取れる炎が男の胸を焦がす。

 俺がフッと頭を横にずらすと、後ろからゼロがダンダンダンダンッ!と銃で男の頭を狙って撃ち抜いた。


 が、さすがにこれは避けられた。

 体を少し屈めると男はゼロの視界から完全に消える。

 しかしそれは大きな隙にもなっていた。男が相手しているのはゼロだけではない。


「ぐっ……!」


 俺は男の垂れた後頭部をガッチリと掴む。俺の手の中でもがく様子は何とも滑稽だった。


 だがその時俺は油断していた。


「……!!」


 大急ぎで手を離し、男の腹を蹴った。デメリット効果による電流が俺の体を襲い、その場に膝をついてしまった。

 だが最悪の事態は回避出来ただろう。


 男は俺の腕に銃口を向けていた。

 もしあのまま発砲されていたらまともに魔法が撃てなかったと思う。


 それに、俺が今男を蹴飛ばした位置。今男が佇んでいる位置。

 ここは俺達にとって好都合な場所だった。


 ガキンッ!


「ぐはぁっ…………」


 俺の背後にいたゼロは男の後ろに生えている木の硬い部分目掛けて発砲した。

 弾丸は木に弾かれて男の頭を真っ直ぐに貫いた。呆気ない最後だった。


 そこに転がったのは男の遺体だ。

 頭から血を流してその場に突っ伏している。コイツらの仲間が来る可能性も考え、早めにここを立ち去ろう。そう思っていた最中、


 ダンッ!


 銃声が響いた。


 反射的に音の方向へ振り向くと、そこに居たのは――――――――


「へへへっ…………今のは予想外だったぜ」


 ついさっき死んだはずの男だった。

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