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3章29話『灰』

「グレン!無事だったのか!」


 ティリタが俺に駆け寄ってくる。


「あぁ、なんとかな」


 ティリタは俺のHPの減少を見て回復魔法を撃ってくれた。その間に俺はMPポーションを飲む。

 俺のHPとMPはほぼ完全に回復し、戦闘前の状態に戻った。


「で、今の見てた?」


「見てはいねぇが、音は聞こえた。コイツの硬質化は上手いことやれば俺達でも砕ける、そうだろ?」


 ゼロは無言で頷いた。


「それに、触手が完全に硬質化した後に砕いた場合ファナティコはその破片や粉塵をコントロールできないようね。一応、延々と触手を砕き続ければいつかは倒せるわ」


 そうだな、その方法ならいつかは倒せる。

 だがそのいつかを求めるのは気が狂うほど長い旅になるだろう。


「いつかなんて待ってられるか。速攻でケリをつけるぞ」


 俺は目の前の龍にバーニングを放つ。が、その炎は龍にダメージを与えることなく散った。

 それでも諦めずにバーニングを連打する。MP消費もさることながら、身体への負荷も計り知れなかった。


 しかし、そうして放った火球はどれもファナティコにダメージを与えることはなかった。


「ダメだ……!まるで動じていない!」


 ティリタは拳を強く握る。俺はそんなティリタの悔しそうな表情を見て、罪悪感を憶えた。

 だが、ファナティコは容赦なく俺達を攻めてくる。俺達の側面から生えてきた触手は例の如く槍状になって硬質化し、また床に突き刺さった。


「チャンスっ」


 ゼロは攻撃を避けた上で突き立てられた触手に近づき、ハンドガンを抜く。

 そのまま触手にゼロ距離で弾丸を4発ぶち込み、深緑色の触手に細く薄いヒビを無数に入れた。

 そしてそれを足の裏で押すように蹴り、触手を砕く。一瞬舞った塵が輝いて美しく見えた。


「ナイスだ」


 俺がそう言うとゼロは髪をファサッと揺らし、中心から距離をとった。

 その隙にMPポーションをさらに飲み、もう一度バーニングを連打する。


 ドンッ!ドンッ!ドンッ!


 炎の弾はファナティコに当たっては砕け当たっては砕けを繰り返している。ファナティコはそれを受けても一切の反応を示さず、それどころか俺達を口から取り込もうと口を開く。


「まずい……!」


 硬質化以外の攻撃は対策ができない。下手に攻撃してしまえばさっきみたいにファナティコがコントロールできる粘液が足元に散らばってしまう。

 俺達はそれをみんなに伝え、敵の攻撃をギリギリまで引きつけてから回避することにした。

 そしてもう1つ、これはタルデにだけ伝えた。


「噛みつきの直後、閃光弾を投げろ。それで敵が怯んだ所を見て、ヤツの『目』を攻撃するんだ」


 なぜこれを指示したか、それは後々わかる。


 ファナティコは粘液でできた巨大な口を俺達に向け、そのまま前進した後その口を勢いよく閉じた。

 口を閉じる音はハッキリと鳴った。バチンッ!という音はヤツの口の中がピッタリとくっついて、もし逃げられていなかったら今頃潰されていたか、もしくは粘液の中に取り込まれていたという事を証明していた。


「タルデ!」


 俺が声をかけた頃には既に閃光弾の準備を済ませていた。タルデは思いっきり振りかぶってファナティコの視界に入るように閃光弾を投げる。俺達もそれに備えて目を隠す。


 数秒後、眩い光が周囲を包む。そして計画通り、ファナティコはその光を見て怯んだ。

 タルデは腰の剣に手をかけた状態でファナティコに接近し、ファナティコの眼球を横一線に抜刀斬りする。


 グォォォオアアアアア!!


 ファナティコの雄叫びが周囲に響き渡る。

 俺の思った通りだ。


 最初災厄の龍が現れた時は眼球が無かった。だがファナティコが災厄の龍に取り込まれたと同時に災厄の龍にも眼球が生み出された。

 この事から推測するに、災厄の龍の目玉にはファナティコ本人がいる。もしくは、そこにいなかったとしても目玉は何かしら重要な役割を持っている。


 俺達を一撃で倒せるであろう噛みつき攻撃を使わず触手による攻撃ばかり行っていたのも、俺達に眼球を晒す訳にはいかなかったからだ。


「ヤツの弱点は目玉だ!目玉を叩けばヤツを倒せる!」


 俺がそう言うと、全員の表情が変わった。

 僅かながら勝機が見え、目標がハッキリした以上、俺達の勝利は揺るがない。


 と、思っていたがここで厄介な事が起きた。


 災厄の龍は頭を定位置に戻し、塔の上の俺達を睨む。その目にはどこか暗さがあり、不可思議な威圧感を俺達に与えた。


 いや…………違う。

 本当に眼球が暗みを帯びている。


「これは…………硬質化?」


 眼球に攻撃を受けたファナティコは眼球を硬質化し始めたのだ。

 だがそれはこちらとしては好都合だ。硬質化した部位を破壊する方法を知っている今、俺達に硬質化など意味が無い。むしろ粘液のままでいられるより都合がいい。


 そう思っていた。

 だが、ゼロは違うようだ。


「これは…………ヤバいわね」


「ヤバい?どういうことだ?」


「私の銃で攻撃を繰り返せば硬質化した部位に細かいヒビを入れることはできる…………でも、逆に言えばそれしか出来ない」


「………………まさか!」


「えぇ。私が硬質化を砕いた時は銃撃の後に蹴りを入れていた。そうしないと、硬質化は砕けない。つまり、硬質化した部位を破壊するには『トドメの一撃』が必要なの…………。でも、あの位置じゃ……!」


 トドメを刺す前に俺達が落下する。

 空中に留まった龍の頭を見れば、容易に想像できた。


「多分、グレンのバーニングでもあの目玉は破壊できない…………何か他の方法を考えないと」


 他の方法……か。

 ちょうどいいのが1つある。本当は直接ぶつける予定だったが、こうやって使えるならそれはそれで万々歳だ。


「大丈夫だ。俺の火力で足りる」


 俺はMPポーションを一気に飲み干し、ビンを投げ捨てた。


「分かった。あなたを信じる」


 ゼロはそう言ってアサルトライフルを手に取り、銃口をファナティコの眼球に向けた。

 ゼロは少し狙いを定めた後、弾倉の弾丸を一気に放った。聞きなれた銃撃音が虚空に消える。


「グレン、今のうちに準備しとこうぜ」


 タルデが俺の方を叩いてそう言った。

 俺はそれに頷き、『セラエノ断章』のページを優しく何度もぐるぐると撫でた。


 俺が円を書くようにページをなぞると、辺りは少しずつ明るくなり始めた。その明るさはファナティコの斜め上辺りに集中し出し、更に光を強めた。


「まさか……この光って!」


「あぁ……途中何度かバーニングが効かなかった場面があるが、それはフェイクだ。こっそり『セラエノ断章』を使って、炎がかき消されたように見せかけていただけだ!」


 一体なんのためにそんなことしたのかって?


「来たるべき時のために、空気中に火幻素を浮遊させておいたんだ。ここぞという時に特大の炎をぶち込むためになぁ!」


 今回の戦闘で外したバーニングや命中したが散ったバーニング、それら全てはファナティコの目の前に集結し、小さな太陽を形成していた。


「グレン、いいよ!」


 ゼロがそう言うと同時に、俺は太陽をファナティコにぶつけた。

 ドッガァアアアアアッ!!!

 大きな音と共に強い光の爆発が起きた。目玉の硬質化は破壊され、災厄の龍も形を維持出来ずドロドロの粘液に戻る。同時に塔も下へ降り始めた。


「やった……のか?俺達」


 タルデが笑顔を抑えて俺に聞く。


「あぁ、俺達は『血塗られた舌』の長を倒したんだ」


 そんな達成感と幸福感に包まれた雰囲気の中俺達が最後に目撃したのは、


「ぐぎゃぁぁぁああああっっ!!!」 


 落下しながら灰になっていくファナティコの姿だった。

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