第五話
やーーーーっと、更新できました。
(痛た……ここどこだ?)
目覚めるとそこは森の中だった。俺は、酷く痛むその体を起こして周りを見渡した。
(……えっとー、何で俺はこんな所にいるんだ?何でこんなに全身が痛いんだ?)
俺は自分の置かれている状況が理解できておらず、酷く混乱していた。何とか"何か"を思い出そうとして、額に手を置いた時、何やら違和感を感じた。
(……あれ?なんでこんなに俺の手がゴツゴツしてるんだ……?しかもよく見たら人間の手じゃないんですけど……。これどういうことですか……?)
ここには俺以外に誰もいないというのに、混乱のあまり疑問形になってしまった。
(あれ、なんかようやく落ち着いてきたぞ……。確か俺は…………、そうだ、火山の噴火に巻き込まれて、空を飛んだんだっけ……。めちゃめちゃ高いところまで飛ばされて………あれ?何で俺は生きてんだ?)
疑問に思い、ふと上を見上げると、そこにはとてつもなく大きい樹がそびえたっており、その内の一本の太い枝先の葉が集まっている部分に、不自然な穴が空いていた。
(なるほど……、この大樹の枝に上手く引っ掛かって助かったんだな……。生い茂る葉が、クッションみたいになって、直接の衝撃を抑えられたんだろう……。たぶんだけどな……)
しかし、おぼろげにしか覚えていないものの、あれだけ高く飛ばされたのだ。奇跡的に上手く助かったとはいえ、どこか怪我をしているかもしれない。
俺は体を見回した。
「(ヘッ?)グルッ?」
俺の口から情けない声が漏れた。というか、何か違う声が漏れたのだが、そんなことを気にしている余裕などなかった。なぜなら……、俺の体が人間のものとは考えられない、ナニカの体になっていたからだ。
「(おいおいおいおい!?一体どういうことだってばよ!?)ガルガルガルガルッ!?グロロログララララァ!?」
俺は心の率直な叫びをしたはずなのだが、何故か喋れず、逆に怪物のような声が口から出てきた。
(……どういうことだ?何で体も声もおかしくなってるんだ?……というか、俺は今人間なのか……?)
俺がその疑惑を考え出した時、不意に体の痛みが大きくなった。まるで火傷をしたような、ヒリヒリとした痛みだ。
(そういや、火山の噴火に巻き込まれたんだっけか……?火傷の一つや二つしていてもおかしくないか……。とりあえず患部を冷やさないと……。幸いここは森の中だし、水場くらいあるだろうから探してみるか……)
あんなマグマの奔流に巻き込まれて火傷で済んでいることなんかお構いなしに(普通の人間ならありえない……ということに気付いていない)、俺は歩き始めた。
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水場を見つけたのは、歩き始めてから五分くらい経ってからだった。
俺はそのまま水に浸かろうと水場に近付いた時、見えてしまった……。
水に反射して映る、自分の今の姿が………。
そこに映っていたのは、二足歩行で茶色の鱗、鼻の部分と額に生えた三本の角、そして鋭利な爪と牙を持つ、一匹のドラゴンの姿だった……。
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(………おいおい。冗談きついぜ……)
俺は、水面に映るドラゴンの姿を見てそう思った。
このドラゴンは自分の姿だと理解するのに時間はかからなかった。なぜなら、水面にはドラゴン一匹しか映っていないこと……、あの火山の噴火に巻き込まれてピンピンしていることなどを考えると(ようやく気付いた)、あまりにも人間からはかけ離れていると実感できたからだ。
(……それにしても、いつの間に俺は人間をやめていたんだ?)
そもそも人間が別の生物になってるってことがまず現実的じゃないので理解できない。というか、いつ変化したのかも思い出せない。
(ここ最近寝てばっかだったからな……、その間に変わっちまったのか……?)
そうやってあり得ない馬鹿げた心当たりを探っていると、不意に妙な記憶を思い出した。
『……いいだろうよ。てめぇがそんなに拒否するなら、俺はてめぇの要望に応えるまでだ。ただせめて、てめぇがもう一度、人間に生まれ変わりたいと願えられるようになってることを、俺は祈ることにするぜ……』
(この記憶はなんだ……?そういえば以前も同じことを思った気がする……。あの時は異様に眠かったし、頭痛もしたからそのまま寝ちまったんだっけ……)
あの時は、この言葉を理解することができなかった。が、今なら理解できる。この言葉が間違いなく俺がドラゴンになった理由を指し示しているのを……。
俺はありとあらゆる謎を抱えたまま、ひたすら水場にて熟考し続けるのだった……。
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「……ようやく動き出したか……、あの野郎……」
黒服の青年は、水晶玉に映るドラゴンの姿を見て、やや安堵のような呟きを漏らした。
「せいぜい健気に生きてくれよ、ドラゴン君……」
そう彼は言いながら、近くにあったコーヒーの入ったカップを啜っていたのだが、ふとあることを思い出した。
「……そういや、こいつが今いる場所って……………え?うそ、どんな偶然があったらここに辿り着くの……?」
青年は、一抹の不安が心をよぎった。そのままカップを持ち続けながら、水晶玉を見つめ続けるのであった……。