表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/168

5月-ーシン。キャンプ兼夜営訓練~水・食糧・薪を探そう(前編)~

シン視点

アイリスと協力してテントを組み立て終えた、その後-ー

ちょうどお昼時という事もあり、俺とアイリスは昼食を摂る事にした。

昼食のメニューは、サンドイッチ。これは、テントを張る場所を探したり、テントを組み立てるのに時間がかかるだろうと思い、家を出る前にアイリスと一緒に作っていたものだ。

テントの中に腰を落ち着け、まったりとお喋りしながら昼食を摂った俺達。だが、俺達が今日この小山へとやって来た目的は、キャンプであり夜営の訓練だ。

昼食に関しては時間が無かったので仕方なかったが、キャンプにしろ夜営の訓練にしろ、現地で必要な物を調達してこそだろう。

と、いう訳で-ー


「-ーよし。それじゃあ、アイリス。そろそろ、必要な物の調達に行こうか」


「うん!」


昼食と、その食休みを済ませた後、俺達は必要な物の調達の為、山の探索を始める事にした。

無属性魔法『探知(サーチ)』を使い、周囲に熊や(イノシン)など大型の獣が居ないのを確認してから、俺とアイリスはテントを出る。

すると早速、アイリスから質問が飛んで来た。


「ところで、お父さん。必要な物の調達に行くって言っていたけど、具体的には何を探しに行くの?」


「そうだね…………とりあえず、最低限必要なのは水と食べ物。あとは、たき火を燃やす為の(まき)代わりの木の枝。この3つかな。まずは、1番見つけやすい薪代わりの木の枝から探して行こうか」


「はーい! それじゃ-ー行こっ、お父さん!」


アイリスは、俺の言葉に元気よく頷くと-ーその勢いのまま、突然1人で駆け出してしまった。

そのアイリスらしからぬ行動に、俺は驚き目を見張る。


(…………まあ、久しぶりのお出かけだからな。はしゃいでしまう気持ちも分かるんだけど…………)


とはいえ、もし(はぐ)れてしまったら大変だ。

焦った俺は、慌ててアイリスの腕を取って引き止めたのだが…………俺の心配を余所に、アイリスはキョトンとした表情で振り返る。


「? どうしたの、お父さん?」


「いや、どうしたのじゃなくて…………アイリス。もし(はぐ)れてしまったら大変だよ。1人で勝手に行かないで」


「…………そ、そうだよね…………。ごめんなさい、お父さん」


街の中とは違い、他に人が居ない山の中で(はぐ)れてしまったら、最悪命にかかわる。

なので、俺は真剣な口調で注意をしたのだが…………どうにも、言い方がキツくなりすぎただろうか?

アイリスがシュンと落ち込んでしまったので、俺は慌てて訂正する。


「俺の方こそ、ゴメンね、アイリス。別に、怒っている訳じゃないんだ。ただ、アイリスが心配だっただけだよ」


「そ、そうなんだ…………え、えへへ。心配してくれて、ありがとう、お父さん!」


俺から心配してもらえたのが、そんなに嬉しいのだろうか? 先程までの落ち込んでいた様子から一転、笑顔でお礼を伝えてくる、アイリス。


(……………………うん。やっぱり、アイリスは落ち込んでいる姿よりも、笑顔の方がよく似合うな)


アイリスの顔に笑顔が戻るのを見て、ホッと胸を撫で下ろす、俺。

と、そこで気が付いたんだが、俺、アイリスの腕を掴んだままになってたな…………。


(アイリスも分かってくれたし、もう離しても大丈夫だよな)


そう思った俺は、掴んでいたアイリスの腕を離す。

そして、そのままゆっくりと、自分の腕を引っ込めようとしたのだが-ー


「…………あ…………」


離れていく俺の手を見て、アイリスはまるで名残を惜しむような声を漏らすと-ー


-ーギュッ


次の瞬間、今度はアイリスの方から俺の手を握ってきた。


「? アイリス?」


「…………ね、ねえ、お父さん。もし(はぐ)れてしまったら大変だって言うならさ…………こ、このまま手を繋いでいた方が良いんじゃないかな?」


頬を真っ赤に染めながら、おずおずと上目遣いに尋ねてくる、アイリス。


(アイリスは、逸れないようにって言ってるけど…………多分これ、ただ単に、俺と手を繋でいたいだけだよな?)


そう考えると-ー何だろ?

素直になれず、頬を染めてモジモジしているアイリスの仕草が、無性に可愛らしく感じてしまう。


(うん! やっぱり、(うち)の娘は、世界一かわいいな!)


-ーと、いけない、いけない。

いつまでも親バカモード全開でデレデレしてる場合じゃないな。早く返事をしないと、アイリスを不安にさせてしまう。


(とはいえ、悩むまでも無く、俺の返事は決まっているけどな!)


そうと決まれば、言葉よりも先に、まずは行動だ。

アイリスの気持ちに応える為、俺の手を握っている小さな手を、優しく握り返す。


「…………あ…………!」


「そうだね。逸れないように、手を握っていようか」


「うん! …………え、えへへ…………」


俺が手を握り返した瞬間、アイリスの表情がパアァァッと華やぐ。

そして、娘の可愛らしい照れ隠しに合わせた返事を返すと-ーアイリスは大きく頷いた後、(こら)えきれないといった様子で、小さく笑みを(こぼ)している。


(俺と手を繋いだだけで、そんなに喜んでくれるなんて…………父親冥利に尽きるなぁ)


とはいえ、いつまでもアイリスの反応にホッコリもしてられない。

なにせ俺達、テントを出てから結構な時間が経っているのに、まだほとんど動いてない状態なのだ。


(真っ暗になってしまえば、何も出来なくなってしまうからな。出来れば夕暮れ時には戻って来て、夕食を作り始めたい所だ)


俺は『収納(アイテムボックス)』から懐中時計を取り出して、現在の時間を確認する。


(1時半か…………。そうなると、あと3時間位かな)


その3時間で、水と食べ物と薪を集めて、キャンプ地に戻って来ないといけない事を考えると…………のんびりしている時間はないな。

もう少しだけ、幸せそうに微笑んでいるアイリスを眺めていたい気持ちはあるものの…………仕方がない。

俺は繋いでいる手を引いて、アイリスを促していく。


「それじゃあ、アイリス。改めて、出発しようか」


「うん!」


そうして、ようやくキャンプ地から移動を始める、俺達。まず1番最初に探すのは、薪代わりの木の枝だ。

とはいえ、地面に落ちている枝なら、何でも良いという訳ではない。ちゃんと、薪として適した枝を集めなければならないのだ。

という訳で-ー

これまでのテントを張るのに適した場所や、テントの組み立て方と同じように、アイリスに説明しようと思ったのだけど-ー俺が口を開こうとした瞬間に、アイリスが繋いでいた手を離して、しゃがみ込んでしまった。


「? どうしたの、アイリス?」


不思議に思った俺が尋ねると-ーアイリスは、地面に落ちていた枝の中から、2本の枝を拾う。

そして、両手に1本ずつ持って立ち上げると、アイリスは俺に確認するように尋ねてきた。


「ねえ、お父さん。薪として使うなら、こっちの木から落ちたばかりの枝より、こっちの落ちて時間が経っている、(かわ)いた枝の方が良いんだよね?」


「え? あ、ああ。木から落ちたばかりの枝だと、まだ水分を含んでいるからね。薪として使うなら、時間が経って乾いた枝の方が良いね」


「で、なるべくなら、いろんな大きさや太さの枝を集めた方が良いんだよね?」


「ああ。最初の火が小さい内は、小さくて細い枝の方が燃えやすくて良いね。で、火が大きくなれば、長持ちさせる為に、太くて大きい枝が良い」


それにしても-ー


「よく知ってるなー、アイリス」


-ーナデナデ


「えへへ~!」


どうやら、俺が教えるまでも無く、既にアイリスは知っていたようだ。

今まさに説明しようとした所だったので、何だか肩透かしを食らったような気分になってしまう俺だったが-ーそれはそれとして、物知りなアイリスの頭を撫でて、褒めてあげる。

すると、アイリスはひとしきり俺のナデナデを堪能した後、どうして薪に適した木の枝を知っていたのか、教えてくれた。


「だって、『ルル』の村に住んでいた時は、お母さんの手伝いで、よく薪集めをしていたもん」


「ああ、そっか。そうだよな」


アイリスの答えを聞いて、俺は納得する。

俺の家では、火の魔石が組み込まれた『コンロ』という便利な魔道具を何年も使っているで、つい忘れがちになってしまうが-ーコンロは金貨数十枚もする超高級品だ。

Sランク冒険者である俺の家を除けば、王宮や大貴族の屋敷にしかコンロは無く、一般家庭では(かまど)が使われている。


(しかも、アイリスの口ぶりだと、薪を買っている王都の人とは違い、直接山で集めていたみたいだし。そうなると、薪の知識があるのも当然か)


と、物思いに(ふけ)るあまり、アイリスを撫でる手が止まってしまっていたようだ。

アイリスは、ちょっとだけ残念そうな表情をしつつも、薪として使える枝は『収納(アイテムボックス)』に仕舞い、使えない枝は地面に戻す。

そして-ー


「それじゃ-ー行こっ、お父さん!」


薪を拾う間に離していた手を、再び繋ぐ、アイリス。

しかし、アイリスの表情には先程のような照れは無く-ーまるで、そこはわたしの特等席だと言うように、小さな手で俺の手を握って、隣に並んでいる。

もちろん、俺としても、文句なんてあるはずがない。俺もまた、ごく自然な動作で、アイリスの手を握り返す。


「ああ-ー行こうか、アイリス!」


「うん!」


そうしてーー

薪を拾う時だけは、仕方なく手を離していたが-ーそれ以外の時間、俺達はずっと手を繋いだ状態で、山の中を移動して行くのだった-ー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ