シン。驚きの目覚め
シン視点
「…………ん、んん…………」
翌日の早朝。
窓から差し込む光を受けて、俺は目を覚ました。
(…………ああ、朝か…………)
寝ぼけ眼で時間を確認すると、午前6時。
世間の人達は、そろそろ起き出して、朝の準備をしている時間だろう。
俺も1年前まではそうだったが、Sランクになってからは、あえて遅い時間にギルドに行くようになったため、それに合わせて遅い時間に起きるようになった。
俺のいつもの起床時間は、午前8時。あと、2時間は眠れるな、と思い、2度寝をしようと目を瞑ったところで、ふと気付くーー
(……………………ん? なんだ? この体全体に感じる、プニプニとした柔らかい感触は?)
そんな疑問を感じた俺は、ぼんやりした頭のまま、半ば反射的にかけていた布団をめくる。
とーー
(ーーなっ!?)
花柄のパジャマを着た、銀髪の可愛らしい女の子が、俺に抱きついて眠っていた。
(えっ!? だれ、この子!?)
一瞬、そんな事を思ってしまったが、すぐに昨日のことを思い出す。
(…………なんだ、アイリスか。ああ、ビックリした。おかげで一気に目が覚めたよ)
でも、何でこの子、俺と同じベッドで眠ってるんだ? ちゃんと、アイリスの部屋用意したよね?
そんな疑問を感じながらアイリスを見ると、彼女は安心しきった寝顔で、ぐっすりと眠っていた。
ふと、昨日のフィリアさんの言葉を思い出す。
『ーーアイリスちゃん、シンさんに何か変なことされたら、お姉さんに言ってね』
あの時のフィリアさんの言葉は冗談だったが、今のこの状況、冗談じゃ済まされないよな…………。
(いや、大丈夫! やましい事は何もしていない。ただ、一緒に寝ただけだ)
と、とにかく! 気持ち良さそうに寝ているところ悪いが、アイリスを起こそう。
「アイリス。アイリスー。起きてー」
ゆさゆさと、肩を揺する。
それを、十秒ほど続けたところで、アイリスの目がうっすらと開いた。
「おっ、起きたか、アイリーー」
「…………うーん、お母さーん。もう少し寝かせてー」
ーースリスリ
「ーーちょっ! 俺、お母さんじゃないから! って、頬をスリスリするの止めて! 寝ぼけてないで、起きてー!」
寝ぼけているのか、アイリスは俺のことをお母さんと呼んで、まるで甘えるかのように、俺の胸に頬をスリスリと押し付けてくる。
どんどんとマズイ状況になっている事に焦りを感じた俺は、必死になってアイリスの名前を呼ぶ。
何度かそれを繰り返すと、少しは目が覚めたのか、アイリスは母親ではなく、俺の名前を呼んだ。
「…………シンさん。…………おはようございます…………」
「ああ、おはよう、アイリス。とりあえず、離れてもらえると助かるんだけど」
「……………………離れる? ーーあっ!」
ようやく意識がはっきりしたようで、アイリスは今の状況を確認すると、顔を真っ赤にして、パッと俺から身を離すと、そのまま凄まじい勢いで、ベッドの端ギリギリまで退がっていった。
……………………何だろう? そんな風に過剰な反応されると、なんか傷付くな…………。
「あ、あの、ご、ごめんなさい、シンさん! …………い、嫌でした?」
慌てながらも、どこか不安そうな様子で尋ねてくる、アイリス。
俺は、とりあえずアイリスに落ちついてもらおうと、ベッドの端に座って、隣のスペースを叩きながら、返事を返す。
「別に嫌って訳じゃないよ。ただ、ビックリしただけ」
「そうですか。良かったです」
俺の返答を受け、アイリスは安心した様子で、ほっと息を吐く。
そして、アイリスは俺の隣に腰掛けると、驚くべき言葉を口にした。
「でも、シンさん。わたしがシンさんの布団に入ろうとした時、いいよって、言ってくれたじゃないですか」
「……………………え?」
「それどころか、わたしが横になるためのスペースを作ってくれましたよ」
「ええっ!? 俺、そんなこと言ーー」
と、そこまで言ったところで、ふと、昨晩の記憶が甦る。
「…………ったような気がするな。確かに…………」
うん。うっすらとだけど、確かにそんな記憶があるわ。でも、あの時は俺、相当寝ぼけてたし、そんな状態で了承を得たって言われても…………。
「まあ、いいか」
いいよって、言ったのは事実だし、それよりも今は他に聞かないといけない事がある。
「それで、何で俺のベッドに来たの?」
「え、えっと…………。1人で眠るのが寂しくて……」
恥ずかしいのか頬を染め、小さな声で呟く、アイリス。
(…………ああ、そうか。そうだよな)
少し考えれば、気付くことだ。
母親を、親しい人達全員を殺され、その悲しみが癒えぬまま始まった、全く知らない場所での生活。
きっと、寂しかっただろう。不安だっただろう。
俺はそんな当たり前の事にも気付かず、彼女を一人きりして、寂しい思いをさせてしまった。
「ごめんね、アイリス。俺がもっと気を使うべきだった」
「い、いえっ! シンさんが謝る必要ないですよ! …………むしろ、謝らないといけないのは、わたしの方です」
アイリスはそう言うと、顔を伏せ落ち込んだ様子を見せる。
だが、俺には、アイリスの言う謝らないといけない事に、心当たりがない。
「もしかして、勝手に俺のベッドに入っていたこと? それなら、さっきも言ったけど、別に嫌だったわけじゃないよ」
とりあえず思いついた事を言ってみたが、違ったようで、アイリスはフルフルと首を振る。
(じゃあ、一体何だろう?)
俺が不思議に思っていると、アイリスが重々しく口を開いた。
「昨日のことですーー」
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