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アイリス。心当たりを思い返す

アイリス視点

「うーん…………どこから話そうかしら? …………そうね。まずは、さっきアイリスちゃん言っていた事を答えましょうか」


少しの間、悩むそぶりを見せた後、フィリアさんは話を切り出し始めた。


(わたしがさっき言っていた事って、あれの事だよね?)


『フィリアさんの言い方だと、まるで…………シンさんがそういう行動を取ったのが、1回や2回じゃ無いみたいに聞こえますよ!』


これは、口ごもるフィリアさんを追及した時に、わたしが言ったセリフだ。

今からフィリアさんは、わたしのこのセリフに、答えを返してくれるのだろう。


「……………………」


わたしは固唾を呑んで、フィリアさんの次の言葉を待つ。

そして数秒の(のち)、フィリアさんはいよいよ、口を開いた。


「アイリスちゃんの言う通りよ。シンさんがそういう事をしたのは1回や2回じゃ無いわ。…………ううん。それどころか、シンさんがこの王都で冒険者を始めてからの6年間で、今回のような事が何十回もあったわ」


「ーーっ!?」


フィリアさんのあまりにも予想外過ぎる言葉に、わたしは唖然として、固まってしまう。


(…………え? フィリアさん、今なんて言ったの?)


何十回って、聞こえたけど、わたしの聞き間違えかな? 

たしかに、わたしも1回や2回じゃ無いと思っていたけど、これじゃあ桁が違いすぎる。


(シンさん…………あんな事を何十回も…………)


そのシーンを想像して、わたしの顔からサーッ血の気が引いていく。

というより、そもそもーー


「…………シンさんは、何でそんな事を…………?」


「以前、私も聞いた事があるわ。シンさんは、こう言っていたわ。『これが、(もっと)も効率が良かったので』って」


「…………効率が良いって…………なにそれ? そんな理由で、あんな事を何十回も繰り返してるの…………?」


フィリアさんの口から説明されたまさかの理由に、わたしは呆然と呟く。


「はぁー…………」


わたしの呟きを受けたフィリアさんは1度、深く長いため息を吐いて、話を続ける。


「そういう所があるのよ、シンさんは。感情より効率を優先するというか。もちろん。シンさんは優しい人だから、人を巻き込むような事は絶対にしないわ。だけどその分、自分を(ないがし)ろにする。作戦上、効率が良いと判断したら、自分が傷付く事を(いと)わない」


「……………………」


「つまり…………どう表現をすれば分かりやすいかしらね? ……………………そうね。こう表現しましょう。シンさんはね、『人間味が薄い』のよ」


「ーーっ! 人間味が薄いって、そんな言い方…………!」


今までは呆然としてて、フィリアさんの話を黙って聞いていたわたしだったけど、流石にこの言葉には、ムッときた。

わたしは非難するような視線で、フィリアさんを睨む。


「ーーそうね。それじゃあ、分かりやすい例えを出しましょうか?」


そんなわたしの視線に気付いたのか、フィリアさんはそう切り出してきた。

わたしは不機嫌なまま、フィリアさんへ応じる。


「分かりやすい例え、ですか?」


「ええ。例えば、食事。シンさんが食事を選ぶ基準はね、味や好き嫌いじゃないの。『いかに栄養のバランスが取れているか』。ただそれだけなの。ねえ、アイリスちゃんーー」


そうして、フィリアさんはわたしに問いかけてくる。


「昨日今日、シンさんと過ごして、何か心当たりは無いかしら?」


「そ、そんなのーー」


わたしは反射的に否定しようとしたけれど、その言葉は途中で止まってしまった。

だってーー心当たりがあったから。


思い出す。

昨日の夜と、今日の朝ご飯は何だった?


ーー鶏肉と数種の野菜、更にはキノコまで入ったシチューだった。


(…………う、ううん! ただの偶然だよね、きっと!)


心当たりがこれだけなら、きっとそうだっただろう。

では、今日の昼ご飯は? 今日の昼ご飯のサンドイッチ、シンさんが食べていた具材は、一体何だった?


ーー鶏肉の照り焼き、玉子、トマトとレタスとキュウリ、ツナ、フルーツの5つだった。


(み、見事にバラバラだね…………)


そして、オヤツに食べたドライフルーツ。その時に、シンさんはなんて言っていた?


『ドライフルーツは水分が抜けている分、見かけによらずカロリーが高いんだよ』

『少ない量でカロリーが摂れるし、乾燥させてるから腐りにくく保存もきくしね』


まさかとは思うけど…………ただそれだけの理由で、ドライフルーツを選んだ訳じゃ無い、よね?


(……………………あれ? そういえば…………)


こうして、昨日の夜から今日のオヤツまでの食事風景を思い返した事で、1つ気付いた事があった。それはーー


(昨日今日の2日間で、シンさん、1度でも味の感想を口にしたっけ?)


…………………………………………ううん。していない。美味しいとも甘いとも。不味いとさえ。ただの1言すら、口にしていない。


『シンさんが食事を選ぶ基準はね、味や好き嫌いじゃ無いの』


(ーーっ!)


フィリアさんの先程の言葉が、思い出される。


それに、食事以外にも1つ、わたしには思い当たる事があった。

それは今朝、『(アロー)』系魔法の練習のため、シンさんの家から庭に出た時の事。

庭でハーブを育てている事を知ったわたしは、『シンさんって、時々かわいいですよね』と声をかけた。

そしたら、シンさんは顔を真っ赤にして、こう言ったんだーー


『アイリス! 何か勘違いしていない!? 俺がハーブを育てているのは、実用目的だよ!』


シンさんは慌てた様子でそう言って、庭で育てているハーブの効能を、わたしに解説してくれた。

わたしは、それを照れ隠しだと思った。そんな事を言いつつも、本当は可愛がって、大切に育てているんだろうと思った。


(…………だけど、そうじゃ無かったの…………? シンさんはただ、事実を言っていただけだったの…………?)


そして、わたしは最後に、シンさんがわたしを弟子にしてくれた時の言葉を思い出したんだーー


『だったら俺と一緒に暮らさないか? その方が、食事の管理や生活習慣の管理が出来るからさ。より早く強くなれるよ』


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