シン。ゴーレムについての説明をする
シン視点
『エルフの里』を出て、再度アイリスとの2人乗りで馬を走らせること、約2時間。
俺達は、次の依頼であるゴーレム退治のために、鉱山を訪れていた。
「…………わたし、鉱山って初めて来たんですけど、岩ばかりで何も無い場所なんですね」
辺りを見回しながら、ポツリと呟く、アイリス。
たしかに、アイリスの言う通り、辺り1面には剥き出しの岩肌や、ゴロゴロとした大きな岩が転がっているのみだ。
先程の『エルフの森』と比べれば、この鉱山は何も無い、寂しい場所かもしれない。
「まあ、鉱山ってのは、鉄鉱石や魔石を採掘する場所だからね。どこも、こんなもんさ」
「なるほど。そうなんですね」
アイリスとそんな会話を交わしながら、俺達は鉱山を登って行く。
ちなみに、俺達がどこに向かっているかというと、この鉱山の内部、坑道の入り口だ。
少し前に、鉱山の敷地の入り口にあった小屋で、依頼主であり、この鉱山の責任者でもある、ドワーフのルドルフさんに話を聞いたのだが、今回のターゲットであるゴーレムは、どうやら坑道の中に住み着いているらしい。
「…………ところで、シンさん。ゴーレムって、どんな魔物なんですか?」
と、隣を歩くアイリスから質問が飛んできた。
「ゴーレムってのは…………そうだね。まあ、簡単に言えば、岩が魔物になったものだよ」
「岩が魔物に? どういう事ですか?」
俺もまた歩きながら答えると、意味が分からなかったのか、アイリスは俺の顔へと視線を移し、首を傾げる。
ーーと、
「ーーきゃっ!」
「おっと」
ーーギュッ
視線を俺の方へ向けていたので、気付かなかったのだろう。
少し大きめの石に足を取られ、転びそうになってしまう、アイリス。
俺は慌ててアイリスの手を取って、なんとかアイリスの体を支える事に成功した。
「大丈夫? アイリス?」
「は、はい…………。ありがとうございます、シンさん…………」
転びかけたのが恥ずかしいのだろうか?
頬を微かに染めて、小さな声で呟く、アイリス。
「良かった。それじゃあ、改めて行こうか」
俺はそう返事をして、繋いでいた手を離そうとしたのだがーー
ーーギュッ!
俺の手が離れる直前、今度はアイリスがギュッと手を握ってきた。
「? アイリス?」
「…………そ、その…………また転んでしまうかもしれないので…………手を握っていたいなぁ、と…………」
不思議に思った俺は、アイリスの方へ視線を向ける。
俺と目が合ったアイリスは、カアアッと顔を真っ赤にすると、俯きながら、消え入りそうな声でポツリと呟いた。
(照れてるのかな? ははっ。ホントに可愛いな、アイリスは)
アイリスの可愛らしい仕草を見て、頭を撫でたい衝動に駆られるも、アイリスが俺の手を握っているため、隣に並んだ状態でそれは難しい。
代わりといっては何だが、お願いの返答も兼ねて、俺からもアイリスの手を握り返した。
ーーギュッ
「ーー! えへへっ! ありがとうございます、シンさん!」
瞬間、満面の笑みを浮かべる、アイリス。
俺もアイリスに微笑み返すと、坑道の入り口を目指して、再び歩き始める。
「ところで、アイリス。さっきの話の続きだけど…………って、聞いてる、アイリス?」
未だに、俺と繋がれている手を見つめ、ニヤニヤしていたアイリスに声をかける。
「ーーえっ!? は、はい! 聞いてますよ!」
慌てて返事をして、表情を引き締め直す、アイリス。
がーー
(…………口元がまだ弛んでるけど…………まあ、いいか)
わざわざ指摘するようなイジワルはせず、俺はゴーレムの生態についての話を続けていく。
「…………えーと、たしかゴーレムは岩が魔物になったものって話したよね」
「はい」
「まあ、これはあくまで仮説なんだけどね。空気中には微量ながら魔力が存在しているんだけど、なんらかの原因で、それが一ヶ所に集まると、ゴーレムコアっていう核が生まれるんだ。そしてーー」
俺は辺りを見回しながら、説明を続けていく。
「ゴーレムコアは、辺りにある物を引き寄せて、自分の体を造るんだ。こういう岩だらけの場所だと、ストーンゴーレムっていう、岩のゴーレムになる。まあ、一般的にゴーレムというのは、このストーンゴーレムの事を指すね」
「なるほど。そうなんですね」
幼いアイリスには、ちょっと難しかったかな? そう思ったものの、どうやら理解出来たようだ。
「ところで、シンさん。今回は、どういう作戦で行くんですか?」
グリフォン戦の時のような凄い作戦を期待してるのだろうか?
キラキラとした眼差しで、俺を見つめてくる、アイリス。
「…………残念だけど、アイリス。今回は、そんな御大層な作戦は考えてないよ」
「あれ? そうなんですか?」
「ああ。ゴーレムの脅威度はCと、そこまで高くないからね。全長3メートルと図体はデカイし、動きも鈍いから、良いマトなんだよ」
「…………なるほど…………」
俯いて、残念そうに呟く、アイリスだった。
(俺から作戦を聞く事が、そんなに楽しみだったのかね…………)
それじゃあ、罪滅ぼしも兼ねて、ちょっとした補足をしますかね。
「ただね、アイリス。グリフォン戦の時と同じように、今回も気を付けないといけない点があるんだ」
「…………気を付けないといけない点、ですか?」
「そう。まず1つ目ーー」
そう言って、俺はアイリスの手を握ってる方と逆の手の、人差し指を立てる。
「ゴーレムは、内部にあるゴーレムコアを壊さないと、倒す事が出来ないんだ。さっきも言ったけど、体の方にいくらダメージを与えても、また辺りにある岩を集めて、体を造り直してしまうからね」
「なるほど。……………………あれ? たしかゴーレムの体って、岩で出来てるんですよね? それなのに、どうやって内部にあるコアを破壊するんですか?」
「おっ! よく気付いたね。えらい、えらい」
ーーナデナデ
俺が説明するより先に、その事に思い当たった、アイリス。
俺は1度立ち止まってアイリスと向かい合うと、ご褒美に頭を撫でてやる。
「ーー! えへへ~」
すると、アイリスは相変わらずの、幸せそうな笑みを見せる。
(しかし、グリフォン退治の作戦を説明した時にも思ったけど、アイリスは本当に理解力が高いな)
好奇心も強いし、本当に俺の弟子として、ピッタリな適性を持っている奴だよ。
…………まあ、だからこそ、惜しいのだが…………。
「? シンさん?」
アイリスが不思議そうに尋ねて来る。
どうやら、考えに夢中になるあまり、いつの間にかアイリスの頭を撫でていた手を止めていたようだ。
「…………ああ、ごめん。ちょっとボーッとしてた。それじゃあ、続きを話そうか」
「? はい」
俺はアイリスの頭から手を離すと、再び歩き始めた。
内心を悟られないよう、ゴーレムの話に戻す。
アイリスも、不思議そうにしながらも、頷いてくれた。
「アイリスの言う通り、ゴーレムの体は固い岩で出来ている。その体を壊すには、よほどのバカ力か、強力な魔法を撃つ必要がある。残念ながら、俺にそんなパワーは無いから、選択肢は強力な魔法を撃つしかない。ただ、ここで2つ目の気を付けないといけない点だーー」
俺は、今度は人差し指と中指の、2本を立てる。
「今回、ゴーレムが出没するのは、坑道の中だ。そんな場所で強力な魔法を使うと、崩落の危険性がある。もしそうなると、俺もアイリスも生き埋めだ」
「ーーっ! た、たしかに…………! …………で、では、どうするんですか…………」
脅かしすぎたかな? 不安そうに尋ねてくる、アイリス。
「まあ、地味だけど、相性の良いの風の魔法を、何発もぶつけて行くしかないね。強力な魔法は使えないから、初級の風魔法を連発して、ゴーレムが体を直すスピードよりも速くゴーレムの体を削って行けば、そのうちコアまでたどり着ける」
「な、なるほど…………」
ーーと、そうこう話している内に、坑道の入り口に到着した。
「それじゃあ、アイリス。グリフォン戦の時と同じように、おぶさってくれる?」
今までは手を繋いで歩いて来たけど、ここからはゴーレムの棲みかだ。
俺はしゃがみ込んで、アイリスにおぶさるように促す。
「はーい」
2回目という事もあり、慣れたのだろうか? 1回目の時にアイリスから感じられた緊張感が、今回は無かった。
「それじゃあ、立つよ。ーーよっ!」
前回と違って、今回はしっかり掴まっていたようだ。バランスを崩す事なく、立ち上がる事が出来た。
俺は、『収納』から取り出したリュックサックを使って、俺とアイリスの体を固定していく。
「…………よし。こんなもんかな? アイリス、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
慣れていたのは、アイリスだけで無く、俺もだったようだ。
1回目よりスムーズに、アイリスとの体を固定する事が出来た。
ーーパンッ!
「よし! それじゃあ行こうか、アイリス!」
「はい!」
俺は、自分の両頬を叩いて、気合いを入れる。
そして、俺達は坑道の中へと入って行ったーー




