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シンVSグリフォン

アイリス視点

『ここからは、一瞬だ。見逃すなよ、アイリス!』


そう言っていたシンさんだったけど、すぐに闘いは始まらなかった。

木々が邪魔でよく見えないけれど、グリフォンがわたし達の300メートル程先で立ち止まり、動かなくなったからだ。


「……………………襲ってきませんね、グリフォン」


「グリフォンは脅威度(リスク)Aの魔物で、相応に頭も良い。さっきまで逃げ回っていたはずの俺達が、急に立ち止まった事を警戒してるんだろうね。だけど、そろそろアクションがあるんじゃないかな」


シンさんのその言葉通り、グリフォンはーー


『クカアァァァァッ!』


空気が震える程の、大きく不気味な咆哮を響かせると、(くちばし)の付いた口を大きく開く。

と、グリフォンの近くにある木々の枝や葉が、バタバタとグリフォンの方へ向かってなびいているのが見て取れた。

おそらく、グリフォンが大きく空気を吸い込んでいるんだと思う。


「…………風のブレスが来るな」


シンさんのその言葉を受けて、わたしは事前に聞いていた作戦を思い出す。


『グリフォンと闘う時に1番注意しないといけないのは、強力な風のブレスだ。どの位かというと…………そうだね。分かりやすく言うなら、数十キロの武器や防具を身に付けた重装備の大男でも、まともにくらえば、数メートル吹っ飛ばされる程の風圧だね』


そう言っていたというのに、シンさんにはまったく焦った様子は見られない。

防御も回避もしようとせず、ただ悠然とグリフォンの攻撃を待ち構える。


「……………………」


そして、そんなシンさんの背中におぶさっているわたしにも、不安や心配なんて無かった。

だって、事前にちゃんとシンさんから説明を聞いていたから。


『それで、その強力な風のブレスに、シンさんはどう対処するんですか?』


『ん? 別に何もしないよ。まあ、作戦通りに森の奥まで誘導出来たらだけどね』


『えっ!? え、えと…………大丈夫なんですか?』


『まあ、まともにくらえば、ひとたまりもないけどね。…………ところで、アイリス。話は変わるけど、防風林って知ってる?』


『へっ!? い、いえ…………』


『まあ、凄まじく大雑把に言えば、風が強い場所にたくさん木を植えて、その先にある家や農作物に来る風の威力を弱めるんだ。つまりーー』


『ーーそっか! エルフの森にある木々を使って、風のブレスの威力を弱めるんですね!』


『そういうこと。さっきも言ったけど、この森にある木々の樹齢は数百年~千年以上。幹も相応に太く、(したた)かだ。グリフォンが放つ風のブレスにも耐えられる。…………まあ、万全を期すためにも、ある程度木々が密集してる場所まで行くけどね』


ーーと、わたしがシンとの会話を思い出している間に、グリフォンは空気を吸い込み終わったようだ。

グリフォンは、嘴の付いた口を1度閉じるとーー


『クカアァァァァッ!』


不気味な咆哮と共に、風のブレスを放って来た。

だけどーー


(…………凄い。本当に、シンさんの言った通りだ…………)


わたし達とグリフォンとの間にある沢山の大木が、グリフォンの風のブレスを受け止めてくれたんだろう。

わたし達の元に風が届く頃には、わたしやシンさんの髪を多少なびかせる位まで、その風圧は弱まっていた。


(この位の風なら、むしろ気持ちいい位だなー)


わたしはつい、そんな場違いな感想を抱いてしまう。

その位、危険な魔物を相手にしているとはとても思えないような安心感が、わたしにはあった。


「ーー良かった。とくに折れたりしてる木はないな」


やがて、グリフォンのブレスが止むと、シンさんはホッと安堵の息を吐いた。


「…………ふふっ」


「ん? どうしたの、アイリス?」


突然笑い出したわたしに、不思議そうな様子で尋ねて来る、シンさん。


「いえ。こんな状況だというのに、木の心配をするなんて、シンさんは優しいなー、と思って」


「…………別に、そういう訳じゃないさ…………」


わたしがからかうような声音でそう言うと、シンさんは微かに頬を染めて、グリフォンへと向き直る。


(照れてるのかな? ホント、シンさんのこういう表情はかわいいなぁー)


と、わたしがそんな暢気な事を考えているとーー


「…………左、右、右、左、右…………ふむ…………となると、右から来るな…………」


シンさんは小さな声でそう呟くと、1歩右へとずれる。

その様子を見て、わたしは先程の作戦の続きを思い出していた。


『風のブレスが通じないとなると、グリフォンは直接、俺達を襲って来るだろうね。ーーさて。ここで問題だ、アイリス。グリフォンを木々が密集してる場所に誘導する利点はもう1つある。なんだと思う?』


『え? えっと……………………』


『正解はね、グリフォンが通れるルートを限定出来るって事だよ。さっきも説明したけど、グリフォンは全長2メートル、体重150キロの巨体を誇る魔物だ。木々が密集している場所だと、その巨体が通れるルートは限られてくる。その上で、こちらが位置取りを工夫する事で、グリフォンが俺達の元へ向かって来るルートを、1本に(しぼ)り込む』


『位置取り?』


『あー、どう言えばいいかな? …………まあ、凄まじく簡単に言うなら、俺達の正面~左側に木々が密集してたら、グリフォンは俺達の右側から来るしか無くなるよね。そんな感じで、グリフォンが俺達の元へ向かって来る数本のルートを、たった1本に限定させるんだ』


わたしがそんな事を思い出している間に、グリフォンは動き出した。

グリフォンは動き出し始めてすぐ、目の前にあった木を、左に避ける。

少し進んで、次の木を右に。その次の木も、また右に。その次の木は、左に避ける。


(…………凄い…………。さっきシンさんが呟いていた通りに、グリフォンが動いてる)


と、なると次はーー


『グリフォンが俺達の元へ向かって来るルートを1本に絞り込む事が出来れば、俺達とグリフォンとの距離と、グリフォンのスピードを計算して、何秒後に、俺達のどこにグリフォンが来るかを予測出来る。ーーそこまで分かっていれば、カウンターを叩き込む事は、容易(たやす)い』


ーースッ


先程、自分の左の掌を刺した短剣を、右手に構える、シンさん。

グリフォンは最後の木を右に避けると、そこからまっすぐに、わたし達の右側に向かって来た。


『ただし、気を付けないといけないのは、グリフォンは全身、強靭な筋肉に覆われているという事だ。よほど強力な攻撃でも無い限り、内臓や血管といった急所まで、ダメージが通らない』


鋭い鉤爪の付いた前足を振りかぶり、わたし達を切り裂こうとする、グリフォン。

シンさんはそれを、ヒラリと最小限の動きで避わすとーー


『だから、狙うのは目だ。より正確に言うなら、その奥にある脳だね。どんな生き物でも、心臓と脳は1番の急所だ。少しでも傷付けば、それで終わりだ』


「ーーハアッ!」


すれ違いざまに、右目へと刃を突き立てた。


『…………カッ…………!』


そんな断末魔を最後に、グリフォンはわたし達のすぐ隣で倒れ込む。


「……………………よし。ちゃんと絶命してるな」


刃を引き抜いて、グリフォンの様子を確認していたシンさんが、そう呟く。


「……………………」


対して、わたしは驚きのあまり、声が出なかった。


(…………凄い…………。まさか、ここまで上手くいくなんて…………)


別に、シンさんの事を信用していなかった訳では無い。

だけど、そんなに全部が全部、予定通りに行くのだろうかと、半信半疑だったのは事実で。

だが、実際に蓋を開けてみれば、1~10まで全てシンさんの予想通りに事が進んでいた。


『ふふっ。心配ご無用。俺は『探求者(シーカー)』シン・シルヴァー。身体能力が低い代わりに、知識や戦術を磨いてSランクになった男だよ』


グリフォン退治の作戦を教えてもらう前に、シンさんが言っていた言葉を思い出す。

まさしく、その真髄を垣間見た気分だったーー



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