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シン。アイリスを弟子に取る

シン視点

時刻は、午後4時。

コノノユスラに戻ったシンは、真っ先に少女を病院に連れて行った。

医師に診てもらうも、気を失っているだけで、問題なし。連れて帰っていいとのこと。


(連れて帰っていいって言われてなぁ……)


この娘は、俺の家族でもなんでもない。この場合はどうなるのかなぁ? ルルの村人は全員亡くなってるし、他に親族が居ないのなら、やっぱり孤児院かなぁ?


(とりあえず、報告ついでに、フィリアさんに相談してみるか)


そう決めたシンは、未だに気絶したままの少女を連れて、冒険者ギルドを訪れる。

少女を抱えていて腕が使えないシンは、足で乱暴にギルドの扉を開く。


「あ、シンさんだ」「血まみれの女の子を連れてるぞ。何かあったのか?」「だれかー。職員さんを呼んでー」


ギルドの中は、シンと同じように依頼の報告に戻った冒険者でごった返している。

Sランク冒険者のシンが、血まみれの女の子を抱えているということもあり、ギルド内がざわつき始める。

その騒ぎを聞いたようで、ギルドマスターのフィリアが受付から出てくる。


「おかえりなさい、シンさん。……その子は?」


「依頼の報告と一緒に説明します。とりあえず、場所を移しませんか?」


周りの騒がしさにうんざりしたシンは、フィリアにそう提案する。


「そうですね。では、応接室に」


そうして、フィリアの案内で、応接室へ向かう。

応接室の中は、二人掛けのソファーが向かい合わせに2つと、その間にテーブルが置かれているだけの簡素なものだ。


シンは、ソファーに少女を寝かせ、その隣に座る。

コーヒーをお持ちしますね、と言って、フィリアは1度応接室を出て、数分後にコーヒーが入ったカップを2つ持って戻ってくる。


「それで、何があったのですか?」


コーヒーをテーブルに置いて、フィリアはシンの対面に座る。

シンは、目の前のコーヒーを一口飲み、依頼の報告を始めた。


村の惨状。盗賊団はすでに立ち去った後であったこと。

そして、母親に守られて、たった1人生き残っていた少女を保護したこと。


「ーー報告は以上です。すいません。結局、間に合いませんでした」


「いえ。シンさんのせいでは無いですよ。それに、たった1人ですが無事だった子が居るんです。今はそれを喜びましょう」


「……この子、これからどうなります?」


「そうですね……。他に親族も居ないでしょうし、孤児院に預けるしかないでしょうね」


「……まあ、やっぱりそうなりますよね」


母親だけでなく、知り合い全員を殺されたこの子のこれからを考えると、やりきれない気持ちになる。

とはいえ、シンに出来るのはここまでだ。あとはギルド職員や孤児院のシスターさん達に任せるしかない。


「それでは、あとはギルドの方で対応します。今回は、急な依頼を受けていただき、ありがとうございました。王宮の方にも、顛末は報告しておきます。少額でしょうが報酬も出ると思いますので、後日受け取りに来てください」


「わかりました。お願いしますね」


そう言って、シンは最後に少女の頭を撫でる。ーーと、


「…………う、んん……」


うめき声を上げ、少女の瞼がゆっくりと開く。


「フィリアさん! この子、意識が戻ったみたいです!」


「本当ですか!? よかったぁ……」


シンの報告を受け、フィリアの表情にも安堵の色が浮かぶ。

フィリアは少女の側にしゃがみこみ、ゆっくりと優しく問いかけていく。


「大丈夫? 痛いところは無い?」


「…………だいじょ……ぶ、です……」


「そう。良かった。……ねぇ、お名前教えてもらえる?」


「…………アイリス…………」


まだ意識が朦朧としてるのか、少女の目は虚ろで、声には抑揚がない。

そんな状況でも、フィリアは冷静に痛みの有無や少女の名前を確認している。


(俺では、こんなに上手く話せないだろいなぁ……)


年の功、とでもいうのだろうか? まあ、そんなこと言えば、とてつもなく怒られるだろうが。


そんなことを考えてるうちに、少女ーーアイリスの意識も少しずつはっきりしてきたようで、今度はアイリスの方から質問が飛ぶ。


「……ここ、どこ?」


「ここは王都の冒険者ギルドよ」


「……王都? ギルド?」


今の状況がわかってないのか、アイリスは困惑の表情を浮かべている。

シンとフィリアは少しの間目を合わせ、アイコンタクトをする。そして、フィリアが核心をつく質問を投げかけるーー


「ーーねえ、何があったか覚えてる?」


「……何が、あったか………?」


フィリアの質問に、アイリスは何かを思い出そうとしてるのか、数秒間虚空を見つめ、そしてーー


「お母さんッ!?」


今までボンヤリしていたのがウソのように、勢いよく起き上がり、部屋の中を見回しながら、何度も母親を呼ぶ、アイリス。

しかし、当然ながら、母親の姿は見つからない。アイリスは、慌てた様子で、目の前のフィリアに食ってかかる。


「お母さんは!? ねえ、お母さんはどこ!?」


「落ち着いて。ちゃんと説明するから」


そうして、フィリアは『ルル』の村で昨晩起こったことの説明を始める。


村が『血染めの髑髏(ブラッディスカル)』という盗賊団に襲われたこと。

その報告を受け、ここに居るSランク冒険者のシンさんが、村に向かったこと。

しかし、時すでに遅く、盗賊団はすでに去った後で、村人達は全員殺されていたこと。

そして、崩壊した家の瓦礫の中で、母親が命をかけて守っていたあなたを保護して、王都まで連れて来たこと。

何もかも、誤魔化さず、包み隠さず話していく。


フィリアの話しが進むにつれ、アイリスの顔色は、どんどん蒼白になっていく。


(……こんな小さな女の子にするには、酷な話しだよな)


とはいえ、誤魔化して説明するわけにもいくまい。アイリスには今後、この知り合いの居ない王都の孤児院で、生活してもらうしかないのだから。


フィリアからの説明を全て聞き終えたアイリスは、涙が滲んだ顔で、今度はシンに食って掛かる。


「ウソですよね! お母さんが……村の皆が殺されたなんて、ウソなんですよね!」


「……………………」


必死にシンに詰め寄る、アイリス。しかし、シンには、アイリスが望む返答をしてあげることが出来ない。

その無言で察したのだろう、アイリスはボロボロと涙を流しながら、シンの胸を何度も叩く。


「どうして!? どうして、もっと速く来てくれなかったのよ!? Sランク冒険者なんでしょ! 強いんでしょ! …………それなら…………お母さんを、皆を…………助けてよぉ…………」


「ちょっと、別にシンさんのせいじゃーー」


「いいですよ、フィリアさん」


アイリスを止めようとする、フィリアをシンは制止する。

フィリアの言う通り、今回の件でシンに落ち度は一切無い。村を襲ったのは『血染めの髑髏(ブラッディスカル)』の連中だし、王宮に村が襲われていたという報告が来るまで時間がかかったのも、村が王都から離れた場所にあったのが原因だ。

むしろ、シンはその自慢の知識を持ってして、本来なら6時間かかる道のりを、たったの2時間に短縮させてみせた。

誉めらこそすれ、責められる謂れはない。


(……でも、いいさ。これでこの子の気がほんの少しでも晴れるというのら、いくらでも叩かれよう)


シンは、アイリスを抱き締め、ごめんねと呟きながら、頭を優しく撫でていく。


「…………うわああああん! お母さぁん! みんなぁっ!」


そんなシンの想いが伝わったのか、アイリスはシンを叩くのを止め、その胸元で、大きな声で泣きじゃくり始める。


どれぐらいの時間がたったろうか? 涙も荒れ果てたのか、泣き声が止まった頃、小さな呟きがシンの耳に届いた。


「…………ゆるさない…………」


「ーーッ!?」


まるで、地の底から響いたかのような、低く重い声。

先ほどまで、シンの胸で泣いていたアイリスから発せられたその声には、とてつもない憎しみと怒りが籠められている。


「…………許さない。お母さんを、皆を殺した『血染めの髑髏(ブラッディスカル)』…………絶対に許さない」


顔を上げる、アイリス。顔は涙でぐちゃぐちゃになってしまっているが、その目には強い怒りと憎しみ。そして、覚悟が籠められている。


(この顔は…………)


シンは、この顔を何度か見たことがある。冒険者になって7年。大切な人を魔物や犯罪者に殺された人達は、皆こういう目をしていた。

そして、そんな人達が取る行動は1つーー


「お母さんの、皆の仇を取る。…………『血染めの髑髏(ブラッディスカル)』…………殺してやる!」


ーー復讐だ。


「お世話になりました。失礼します」


そう言って、アイリスはシンの側を離れ、幽鬼のような足取りで部屋を出ていこうとする。

そこで我に返ったフィリアが、アイリスを慌ててひき止める。


「ちょっと! 一体、何をするつもり!? あなたじゃ無理よ。後のことは、ギルドや騎士団がなんとかするから」


「嫌! 離して! 他の人になんか任せられない。わたしがこの手で殺してやる!」


「シンさん! シンさんも手伝ってください!」


アイリスは、少女とは思えないほどの強い力で、フィリアの拘束から逃れようと暴れている。1人では抑えきれないと悟ったのか、フィリアはシンに助けを求めるが、シンはすぐには動こうとしない。


(ここで無理矢理抑えつけて、一体どうなるだろうか?)


大人2人がかりで抑えつけて、無理矢理孤児院に預けたとしても、何の解決にもならない。アイリスの心は憎しみに囚われたままだ。

いずれ孤児院から抜け出し、あてもなく動き続け、そして死んでしまうだろう。それならーー


シンはある覚悟を決める。

そして、暴れるアイリスの前に回り込み、しゃがんで目を合わせ、ゆっくりと語り始める。


「アイリス。『血染めの髑髏(ブラッディスカル)』の脅威度(リスク)はAプラス。一流と言われているAランク冒険者が数人がかりじゃないと倒せない相手だ。今のキミじゃ、返り討ちにあって殺されるだけだよ」


「そんなの関係無い! 邪魔しないで!」


「邪魔するつもりは無いよ。むしろ協力してあげる」


その言葉を聞いて、アイリスは暴れるのを止める。その後ろでは、フィリアが驚いた表情をシンに向けていた。

そして、シンはその言葉を口にする。


「ーーなあ、アイリス。俺の弟子にならないか? 俺がお前を鍛えてやるよ」


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