表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/168

シン。指切りの約束

シン視点

「『癒し(ヒール)』!」


背中におぶさっているアイリスが、俺の左手を取って魔法名を唱える。瞬間、俺の左手が温かな光に包まれた。

チラッと後ろのアイリスの様子を伺うと、アイリスは目を瞑って、集中しているようだった。


(…………しかし、アイリスには悪い事をしちゃったな…………)


視線を前に戻し、グリフォンと対峙するのに適した場所を探しながら、『エルフの森』の中を走り続ける。

今はグリフォンとの闘いに集中しなければいけない。そう分かってはいるものの、そんな反省の言葉がどうしても浮かんできてしまう。


『…………お願いします…………早く治してください…………シンさんに何かあったらと思うと、わたし…………』


『…………うぅ…………シンさんがバカな事するからじゃないですかぁ…………どうして、自分の手を刺したんですかぁ…………!』


頭の中で、アイリスの涙混じりの声がリフレインする。


(やっぱり、自分の掌を刺したのはマズかったなぁ…………)


アイリスの言う通り、森の動物を狩って、その血を使ってグリフォンを誘き寄せるという方法も、たしかにあった。

だが俺は、いつもの(くせ)でつい、自分の掌を刺してその血を使うという、最も効率が良い手段を選んでしまった。

アイリスが目の前に居たというのに…………。


(…………また、アイリスを泣かせちゃったな…………)


アイリスの涙を見るのは、今日だけで2度目だ。

1度目は、俺がアイリスを置いて仕事に行くと言った時。その時に、ちゃんと反省したはずなのに。それなのにまた、俺の考えの無い行動がアイリスを泣かせてしまった。


(……………………なあ、アイリス。こんな俺がキミの保護者で、本当に良いのかい?)


心の中で、アイリスに問いかける。


(…………本当にキミの事を想うのなら、孤児院にキミを預けて、ちゃんとした大人の人に、保護者になってもらうべきなんだろうか…………?)


自己嫌悪に陥りすぎて、そんな弱気な発想が飛び出して来た、その時だったーー


「…………痛いの痛いの飛んでけー…………」


俺の耳元で、アイリスがそんな言葉を呟いたのは。


(ーーっ!)


再度、アイリスの様子を伺う。アイリスは先程と同じように、目を瞑ったままだ。

きっと、無意識に口をついたのだろう。だけど、アイリスが口にした小さなおまじないの言葉には、たしかに俺の事を心配する響きが含まれていた。


(…………アイリス。キミはこんな俺を心配してくれるのかい?)


思えば、アイリスはグリフォンに追われているこんな状況なのに、徹頭徹尾、俺の心配ばかりしていた。

1度目とは違い、今回の涙は俺を想ってのものだった。


(…………はぁ…………。なんだか、1人でウジウジ悩んでるのがバカらしくなってきたな)


1人で悩んでると、思考は悪い方へと行ってしまうものだ。


(こういう時は、本人に聞くのが1番手っ取り早い。後で聞いてみるかーーおっと!)


そうこうしているうちに、周りの景色には、いつの間にか木々が増えてきた。


(…………この辺りでいいか…………)


そう思って立ち止まろうとした瞬間ーー


「ーー良かった…………。シンさん、治りましたよ」


アイリスは心底ホッとした様子で、安堵の息を溢した。


「ありがとう、アイリス。…………それと、心配させてごめんね」


「…………もう、良いです。その代わり! もう2度と、こんな事しないで下さいね!」


「ああ。分かってる」


俺がそう返事をすると、アイリスは握っていた俺の左手を1度離す。

そして、器用に俺とアイリスの小指同士を絡ませた。


「じゃあ、約束です」


「ああ。約束だ」


「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲~ます」


「…………指切った!」


「うふふっ!」


「ははっ!」


そうして、2人して笑い合って、絡ませていた小指を離す。


(…………ああ、なんだ。こんなの、聞くまでもないじゃないか)


わざわざアイリスに聞く必要なんか無い。そんな事しなくても、俺とアイリスは家族なんだって。家族でいて良いんだって。このやり取りだけで、そう確信出来る。


「ーーよし! それじゃあ、アイリス。そろそろ作戦を始めるよ!」


俺はそう宣言して立ち止まると、後ろ振り向き、グリフォンと向かい合う。


「ここからは、一瞬だ。見逃すなよ、アイリス!」


「はい!」


こうして、俺とグリフォンとの追いかけっこは終わり、直接戦闘が始まったーー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ