表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/168

アイリス。繋いだ掌から伝わる安心感

アイリス視点

シンさんからグリフォン討伐の作戦を聞かせてもらった、あの後ーー

わたしは、シンさんの案内のもと、『探知(サーチ)』の反応があったという場所へと向かった。

しばらく行くと、シンさんが言っていた通り、開けた場所に出た。近くには高さ10メートル程の崖があり、そこから落ちてきたのか、辺りには大きな岩がゴロゴロと転がっている。

とーー


「ーーアイリス。ここからは慎重に行くよ」


「は、はい…………」


その場所についた瞬間、シンさんの雰囲気がガラリと変わる。

優しげだった瞳を細め、警戒するように周囲を見回す、シンさん。


(冒険者の格好に着替えたばかりの時も、こんな表情してたっけ…………。きっとこれが、シンさんの冒険者としての顔なんだろうな)


あの時は、シンさんの冒険者としての格好や、凛々しい表情に見とれていたわたしだけど、近くに魔物が居るかもしれないという今の状況では、そんな心の余裕は無い。


「…………よし。行くよ、アイリス」


「はい」


周囲の安全を確認したのだろう。シンさんはそう言うと、わたしの手を取って、ゆっくりと移動を始める。

が、シンさんは100メートル程歩いた所で、すぐに足を止めると、近くにあった大きな岩の影に隠れるように身を屈め、再び周囲を警戒していく。

少し進んでは止まり、少し進んでは止まり。シンさんは、それを何度も繰り返す。


「……………………」


チラッと、シンさんを見上げる。その横顔からは、緊張感が滲み出ていた。


(……………………。…………だけど、なんでだろ?)


シンさんには悪いと思うけれど、わたしは今のこの状況を『怖い』とは、全く感じていなかった。


(…………ううん。理由は分かってる)


わたしは、見上げていた視線を、下へと向ける。

そこには、先程からずっと繋がれたままの、わたしとシンさんの手があった。


(わたしとは違う…………大きくて、ゴツゴツしてて…………でも、温かい手…………。ここから、シンさんの温もりが伝わって、わたしの心にまで届いてるみたい…………)


シンさんと手を繋いでいる。ただそれだけで、心がポカポカして安心感が湧いてくる。

だからーー


「ーーっ! 居たぞ、アイリス。あれがグリフォンだ」


小さな声で呟いて、大きな岩の影の向こうを指差す、シンさん。

わたしは、潜んでいた岩影から顔を出して、シンさんが指差す方を見る。


「…………あれがグリフォンですか。…………想像してたより、大きく感じますね」


わたしとシンさんが身を隠している場所から1キロ位先に、先程シンさんから聞いた特徴に合致する生き物が居る。

あれがグリフォンなのだろう。シンさんから事前に、全長2メートル、体重100キロと聞いてはいたけれど、実際に見たその姿は、わたしが想像していたより大きい物だった。

だけどーー


(……………………うん! やっぱり怖くない!)


初めて見る、あんなにも大きな魔物。だけど、全然怖いと感じない。

だってーー


「…………さて。それじゃあ、アイリス。さっき説明した通りの作戦で行くけどーー」


と、そこまで言った所で言葉を止めて、わたしを心配そうな表情で見つめる、シンさん。


「ーー本当に大丈夫かい、アイリス?」


初めて魔物を見て、わたしが怖がっていると思ってるのかな?

シンさんは、心配した様子でわたしに尋ねてきた。


「はいっ! 大丈夫です!」


わたしは、そんな心配性なシンさんを安心させるため、少しの間も空けずに頷く。

だってーー


「ーーだって、シンさんが一緒ですから!」


そう言ってわたしは、シンさんと繋いでいる掌に、少しだけ力を込める。そうすると、シンさんの掌の感触や温もりが、もっともっと伝わってくる。


(…………不思議だなぁ…………)


シンさんと手を繋いでいる。

それだけなのに、どうしてこんなに安心するのだろう? どうして、こんなに嬉しい気持ちになるんだろう? どうして、こんなに心が温かくなるのだろう?


「…………シンさん…………」


「ん? なに、アイリス?」


「…………変ですよね? シンさんが手を繋いでくれるだけでわたし、さっきからずーと、心が心がポカポカと温かいんです…………不安や怖さなんて、全然感じ無いです…………」


「…………え?」


「…………え?」


シンさんの呆気に取られた声を聞いて、わたしはふと、我に返る。


(…………あれ? わたし今、なんて言った?)


シンさんの手をギュッと握りしめた所までは覚えてるけど、そこからは何故かボーッとしてて、よく覚えていない。


(シンさんはシンさんで、照れてるのか、頬を染めて顔を背けているしーー)


と、そこまで考えた所でーー


『…………変ですよね? シンさんが手を繋いでくれるだけでわたし、さっきからずーと、心がポカポカと温かいんです…………不安や怖さなんて、全然感じ無いです…………』


唐突に、先程のセリフが甦ってきた。


「ーーっ!」


思い出した瞬間、わたしの頬が一気に熱くなる。


(わ、わたし、なんて恥ずかしいセリフを!)


だ、だって仕方ないじゃない!? シンさんの手を強く握りしめたら、それだけで幸せな気持ちが溢れてきてーー


(ーーも、もうっ! つまり、シンさんが悪いの!)


自分でも理不尽だなという思いはあったが、わたしはシンさんに責任転換することで、少しだけ平静を取り戻す。

だけど、まだまだ恥ずかしさが治まらないわたしはーー


「ーーそ、それに! 何かあっても、シンさんが守ってくれるんでしょっ!?」


勢い余って、そんな可愛くないセリフを言ってしまった。


「…………ぁ…………」


言ってから、後悔する。


(…………わたし、なんて図々しい事を…………)


だけど、シンさんは全然気にして無かったみたいだーー


「ふふっ。つまりアイリスは、俺の事を信頼してくれてると、そう捉えていいのかな?」


「ーーと、当然じゃないですか!」


からかうような調子で言ってくるシンさん。

わたしは、ちょっとだけムキになって、そう応じる。


(もうっ! わたしがシンさんの事、疑う訳無いじゃない!)


と、わたしが内心でちょっとだけ怒ってるとーー


「それじゃあ、そんなアイリスの期待に応えるためにも頑張らないとね」


ーーギュッ


そんな言葉と共に、先程のわたしと同じように、シンさんが繋がれた手をギュッと握り返してきた。


「…………よし! それじゃあ改めて、作戦通りに行くよ、アイリス! 大丈夫! キミの事は、責任持って俺が守るから!」


「…………ぁ…………。は、はい! よろしくお願いします!」


シンさんが手を握り返してくれた事と、『キミの事は、責任持って守るから!』という、何だかお姫様扱いされたようなセリフ。

それが嬉しくて嬉しくて、先程まで感じていた怒りをすっかり忘れたわたしは、シンさんに笑顔で返事をする。

そうして、グリフォン退治が始まるのだったーー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ