アイリス。好奇の視線に晒される
アイリス視点
シンさんの家を出てから、10分程が経った。
わたしとシンさんは今、冒険者ギルドへ向かうため、王都の大通りを並んで歩いている。
時間はちょうど、朝と昼の中間ぐらい。だからかな? わたし達が向かう方向から、武器や防具を携えた冒険者と思われる人達が、たくさんやって来ている。
ただ、気になるのはーー
「おい、あれってもしかして…………」「ああ。Sランクの『探求者』シン・シルヴァーだ」「マジかよ! 始めて見た!」「ん? 隣を歩いてる女の子は誰だ?」
…………な、なんか、すれ違う冒険者さん達が、わたし達を見てヒソヒソと話してるような…………。
「…………シンさん。わたし達、何か注目されてません?」
わたしは、隣を歩くシンさんに、小声で話しかけてみる。
「…………ん? ああ、まあね。俺はSランク冒険者だからさ、自分で言うのもなんだけど結構有名なんだよ。この王都を拠点にしてる奴らは、俺の事は見慣れてるからいちいち気にしないけど、他所からやって来たばかりの奴らには、こんな風によく噂されるんだよ」
「そ、そうなんですね…………。シンさんは気にならないんですか?」
「俺がSランクになってから1年、毎日がこんな感じだからね。もう慣れたよ」
その言葉通り、シンさんは平静そのもので、気にしている様子は一切見られない。
だけど、わたしはーー
(…………な、なんだか…………怖い…………)
周りに居る冒険者さん達ーー特に男性の冒険者さん達を見て、わたしはそんな感情を抱いてしまう。
『俺、あまり身体能力が高くないからさ。体はあまり鍛えて来なかったんだよね。だから、まあ、あまり教えあげられる自信が無いんだ』
シンさんのその言葉を聞いた時、わたしはそんな事は無いと、シンさんが謙虚なだけなのだろうなと、そう思った。
だけど違った。シンさんはただ単純に、事実を言っていただけだった。
周りの男性冒険者さん達ーーまるで丸太のような腕や足をして、数十キロ、場合によっては百キロ以上あるのでは思われる程の、武器や防具を身につけているーーその姿を見て、わたしはそう実感する。
「…………もしかして、『探求者』の子供…………?」「まさか。ただ偶然、隣を歩いてるってだけだろ」
そして、そんな格好をした人達が、わたし達をジロジロと見ては、ヒソヒソと話してるのだ。
シンさんは慣れていて平気かもしれないが、わたしは正直…………怖い…………。
『うわあぁぁぁー』『誰か助けてー』『ギャハハハハァー』
なぜだろう? わたしは唐突に、『ルル』の村が『血染めの髑髏』に襲われた時の事を思い出してしまった。
(ーーっ!)
不安を覚えたわたしは、半ば無意識に、右隣を歩くシンさんとの距離を1歩詰める。
とーー
(…………あ…………)
少ししてから、わたしの右手が、温かく優しい感触に包まれた。見ると、シンさんの左手が、わたしの右手を握ってくれていた。
(…………あっ。シンさん、わざわざ手袋外してくれたんだ…………)
どうやら、温かさを感じたのは、そのためらしい。
目線を上げると、シンさんと目が合った。その直後、シンさんはいつもの優しげな表情で、わたしに微笑みかけてくれた。
「…………えへへ~」
気付けば、わたしの口元は笑みを浮かべていた。
先程まで感じていた感じていた不安や恐怖は、全部どこかに吹き飛んでしまった。
ーーザワッ!
「お、おい! 見ろよ、あれ!」「まさか、本当に『探求者』の子供!?」「いや、年齢的にそれは無いだろ!」「…………もしかして、『探求者』って、少女趣味なのか…………?」
周りの視線や噂話が強くなったような気がするけど、わたしはもう、そんな事は全然気にならなくなっていた。
がーー
「……………………」
「シンさん? どうかしました?」
「いや…………。なんでも無い…………」
「?」
なんだろう? 今一瞬、シンさんが複雑そうな表情を浮かべたような…………。
(…………そうだ。たしか、『あの言葉』の直後に、シンさんは複雑そうな表情浮かべていた気がする)
ちょっと気になるし、聞いてみよう。
「シンさん、シンさん」
「んー?」
見ると、シンさんは『収納』から水筒を取り出し、口に含んでいる所だった。
わたしはそんなシンさんに、雑談の延長のような軽い気持ちでーー後で分かった事なのだけど、今のシンさんにとってクリティカルな質問を口にした。
「『少女趣味』って、一体どういう意味ですか?」