表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/168

「俺にとって、アイリスはもう家族でーー娘みたいなものなんだよ」

シン視点

「それじゃあ、アイリス。俺は仕事用の服に着替えてくるね。アイリスも…………うん。出来れば、着替えてほしいんだけど」


障壁(シールド)』の練習も終わり、俺はアイリスにそう声をかける。


「? …………えっ!? もしかしてわたしの格好、なにか変ですか!? 都会のセンスに合っていませんか!?」


俺の言葉を、アイリスは別の意味として受け取ったようだ。

自分の格好を見回して、不安そうな表情を見せる。


「ああ、ごめんごめん。そういう意味で着替えてって言った訳じゃないよ。それに、心配しなくても大丈夫。年頃の女の子らしい、可愛らしい格好だと思うよ」


「…………へ…………。ーーッ!? シ、シンさん!? いきなり何を!?」


「? 何って…………?」


俺の言葉を受け、先程までの不安そうな表情から一転、頬を染めて慌て出す、アイリス。

俺は不思議に思いながらも、改めてアイリスの服装を確認する。


朝起きた時の花柄のパジャマは、俺が朝食の用意をしている間に着替えたらしい。

今のアイリスの服装は、上がピンク色の半袖シャツ。下は、黄色と若草色のチェック柄の、膝上までの長さのスカートを履いている。


(うん。まあ、俺はファッションには疎いからよく分からないけど、王都の女の子と比べても、別に変な格好じゃないよな)


というより、むしろーー


「アイリスなら、王都の子達以上にかわいいと思うよ。ほら、アイリスって、元がかわいいから、かわいい格好をすると、よけいにね」


「ーーふぇっ!?」


変な声を上げ、固まってしまう、アイリス。

と、次の瞬間ーー


ーーカアァァァッ!


と、顔を真っ赤にして、(うつむ)いてしまった。


「? アイリス、どうかした?」


心配になった俺は、アイリスの顔を覗き込もうとするがーー


「な、何でもないです! 何でもないですから…………しばらく、わたしの顔を見ないで…………」


消え入りそうな声でそう言うと、両手で顔を覆い隠してしまう、アイリス。


(あれ? この反応、もしかして照れてる?)


俺、あんまり女性と接する機会が無いからなぁ。つい、素直に思った事を口にしてしまったが、よく考えたら恥ずかしい事を言ってしまったかもしれない。


とはいえ、アイリスとは違い、俺に照れや恥ずかしさという感情は、そんなに湧いて来なかった。


(まあ、アイリスだしなぁ…………)


俺より10も年下の、まだ12歳の女の子。

同年代の女性ならともかく、アイリスにそういう意識は持てないなぁ。


(でも、アイリスはこんなに照れちゃってる訳だし、今後は気をつけるようにしよう)


そんな事を考えながらも、俺はーー


(しかし、幼いとはいえ、アイリスも女の子なんだな。かわいいって言われて、耳まで真っ赤にしちゃて。ははっ。ホント、かわいい子だよ)


そんな微笑ましい想いを、アイリスに感じていた。


(今、頭を撫でたら、絶対怒るよなぁ…………)


アイリスの頭を撫でたい衝動に()られるも、今そんな事をすれば、顔を真っ赤にして怒られそうなので、自制する。

と、俺がそんな事を考えている間に、どうやら少しは落ちついたらしい。アイリスは顔を上げると、(いま)だに赤い顔のまま問いかけてきた。


「…………そ、それで、結局着替えて来てって、どういう意味だったんですか?」


恥ずかしさを誤魔化すかのように、話題を最初の方に戻してくる、アイリス。

俺も、これ以上話を蒸し返したりせず、アイリスの質問に素直に答えた。


「いや、今日は最低でも3つの依頼をこなす事になるんだけど、その内の1つは森に行かないといけないんだよね」


俺は、昨日の時点で残っていた3件の依頼の内、エルフの森の近くに住み着いた、グリフォンの討伐の依頼を思い出す。

そして、改めてアイリスの服装を確認してから、口を開く。


「だから、そんな半袖にスカートなんて格好じゃ、木の葉や枝でケガしちゃうだろうし、虫に刺されたりもするだろうからさ。持っているなら、長袖長ズボンに着替えてほしいんだよね」


「なるほど。そういう事だったんですね」


俺が真面目な話をしたからか、アイリスの様子も大分落ち着いてきたようだ。

俺の説明に、納得したように頷く、アイリス。がーー


「ふふっ。シンさんは心配性ですね。大丈夫ですよ。わたし、『ルル』の村では山の中を駆け回って遊んでたんですよ。そのぐらい、ヘッチャラです!」


俺の心配をよそに、アイリスはそんな返事を返してきた。


(ああ、そっか。アイリスが生まれ育った『ルル』の村は、山間(やまあい)にある小さな村だったな)


言い方は悪いが、何も無い場所だ。

王都の子達とは違い、自然の中が遊び場だったアイリスにとって、多少の切り傷や虫刺されは気にならない物らしい。


だけどーー


「アイリスの言いたい事は分かったよ。でも、やっぱり着替えて来てほしいかな」


「? どうしてですか?」


「どうして、って。そんなの、アイリスが心配だからに決まってるだろ」


そう言って、俺はアイリスの頭を優しく撫でる。


「俺にとって、アイリスはもう家族でーーそして、娘みたいなものなんだよ。だから、もしかしたら過保護に感じちゃうかもだけど、着替えて来てほしいな」


頭を撫でながら、俺はアイリスに対する素直な想いを口にする。


自分でも、恥ずかしい事を言っている自覚はある。きっと、先程のアイリスのように、俺の顔は赤くなっているのだろう。

だけど、アイリスの事が心配なのは、俺の嘘偽りのない本音だ。だからこそ、俺は恥ずかしさに耐え、アイリスに(さと)すように、もう1度お願いをした。


「そ、そうですか…………。ふふ、ふふふっ。分かりました。着替えて来ますね!」


と、俺の想いが通じたのだろう。アイリスは照れたように頬を染めた後、(こら)えきれないといったように、嬉しそうに笑みを浮かべて、俺のお願いを了承してくれた。


ーーホッ。良かった。


「ありがとね、アイリス」


「あははっ。もー、何でシンさんがお礼を言うんですか。お礼を言うのはわたしの方ですよ。心配してくれて、ありがとうございます!」


「ーーははっ。ああ、どういたしまして」


そうして、俺達はお互いお礼を言って、笑い合ったーー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ