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もっともっと、シンさんの事を知りたい。そして、同じくらい、わたしの事も知ってほしい。

アイリス視点

「ーーよし。それじゃあ、『障壁(シールド)』の魔法も覚えちゃおうか」


「はい!」


シンさんからそう言われたわたしは、『収納(アイテムボックス)』の魔法書の隣に置かれた『障壁(シールド)』の魔法書に手を置き、魔力を流していく。


収納(アイテムボックス)』の魔法書の時と同じように、魔法陣が光始める。

光は魔法陣の内側から外側へ。次いで、外側から内側に向かって、光と魔法陣が消えていく。


(……………………うん。これで終わりかな?)


光と魔法陣がちゃんと全部消えている事を確認したわたしは、シンさんの方に顔を向けながら、声をかける。


「シンさん。『障壁(シールド)』の魔法、覚え終わりました」


「ん? ああ、了解」


シンさんはわたしと同じく、魔法書の上に手を置いて、何かの魔法を覚えている最中のようだった。

その横顔は、どこか子供っぽい笑顔を浮かべていたが、わたしが声をかけると、ハッと我に返った様子でわたしの方を向き、返事をする。

その表情は、いつもの大人びた物に戻っていたけれど、まだどこか、心ここにあらずといった感じだ。


(…………なにか、昔の事を思い出していたのかな?)


シンさんが一瞬だけ見せた、あの少年のような表情を思い返す。


(なんだか、気になるな…………)


今さらだけど、わたしとシンさんは、昨日知り合ったばかりだ。

最初は、知らない男の人と一緒に暮らす事に不安を感じていけれど、昨日今日でシンさんの人柄に触れたわたしは、シンさんの事をまるで本当の父親のように感じている。


(…………だけど、わたしはシンさんの事をほとんど知らないんだ…………)


シンさんの、あの昔を懐かしむような表情を見て、今さらながら、そんな当たり前の事に気付く。


わたしが、シンさんの事で知っているのは、名前、年齢、そして史上最年少でSランク冒険者になったという事ぐらい。

それだって、フィリアさんから教えてもらったからこそ、知っているのだ。


昨日今日、シンさんと過ごす中でわたしが知ったのは、せいぜいハーブを育てているという、かわいらしい趣味があるという事だけ。

それ以外は何も知らない。好きな物や、嫌いな物。ハーブを育てる以外の趣味。家族構成や交友関係。わたしは何も答えられない。


(そして、それはシンさんも一緒なんだよね…………)


それは仕方のない事なのかもしれない。私達が家族になって、まだ1日しか…………正確には、半日しか経っていないのだから。


(…………でも、なんだか寂しく感じちゃうな…………)


もっともっと、シンさんの事を知りたい。そして、同じくらい、わたしの事も知ってほしい。


(…………うん! 決めた! 仕事が終わって帰ってきたら、シンさんといっぱい話をしよう)


本当は今すぐ話したいけど、今から仕事に行くんだし、それは我慢しないとね。


そうして、わたしは気持ちを切り替えて、シンさんの方を見る。

どうやら、わたしが考え事をしている間に、シンさんは魔法を覚え終わったようだ。今は、残った魔法書の山の中から、何かを探すかのように1冊ずつ手に取って確認している。


(何か探してる魔法書があるのかな? それなら、わたしも手伝おう)


そう思って声を掛けようとしたけれど、一足早くシンさんの確認作業が終わったらしい。

どうやら、探していた物は見つからなかったようで、シンさんは魔法書の山を全部、自分の『収納(アイテムボックス)』の中に仕舞っていった。


「ーーよし! それじゃあアイリス、そろそろギルドに依頼を受けに行こうか」


「はい!」


気合いを入れるかのように、大きな声を上げて立ち上がる、シンさん。

わたしも、それに続いて立ち上がるが、その瞬間、ふと気付く。


(そういえば、まだわたし、『障壁(シールド)』がどんな魔法なのか教えてもらってない)


今さらながらその事を思い出し、シンさんに尋ねる。

シンさんも完全に失念していたようで、「しまった…………忘れてた…………」と呟いて、ソファーに座り直す。


「あはは…………。なにか、すいません…………」


苦笑しながら、わたしもシンさんの隣に腰掛ける。


「いやいや、別にアイリスが謝る必要はないさ」


シンさんも、そう言って苦笑する。そして、改めて『障壁(シールド)』の魔法についての説明を始めた。


「ーーさて、『障壁(シールド)』の魔法についてだけど、実は魔法書の中に詳しい説明が書いてあるんだよね」


「え? そうなんですか?」


シンさんにそう言われ、わたしはローテーブルに置かれたままになっていた『障壁(シールド)』の魔法書を(めく)っていく。


(…………本当だ。『障壁(シールド)』の魔法の効果について、書いてある)


他にも、『障壁(シールド)』の魔法を開発した人物や、その年代などの詳細な情報まで載っている。ただーー


(…………ううん…………。なんだか難しくて、よく分からない…………)



説明文には、難しい言葉や表現が多く使われていて、どういう魔法なのか、よく理解出来ない。

そうして、わたしが『障壁(シールド)』の魔法書を唸りながら見ていると、察したらしいシンさんが魔法の説明を始めてくれた。


「ははっ。アイリスにはまだちょっと難しかったかな? まあ、簡単に言えば、『障壁(シールド)』は、魔力で防御壁を作る魔法だよ。術者の半径1メートル以内なら、どこにでも作り出せるし、大きさや形も、術者が自由に決められる。防御系の魔法は他にもいくつかあるけど、『障壁(シールド)』はかなり自由度が高い魔法と言えるね」


「なるほど。そういう魔法なんですね」


シンさんの説明は、簡単で分かりやすかった。

理解したわたしは、魔法書をテーブルの上に置く。すると、そのタイミングでシンさんが立ち上がった。


「それじゃあ、実際に1度やってみようか。ここだと、いろいろあって狭いから、ちょっとこっちに行こう」


「あっ、はい。分かりました」


シンさんからそう言われ、わたしもソファーから立ち上がる。

そして、わたしとシンさんは、家具が置かれていない、スペースが空いている場所へと移動を始めたーー


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