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アイリス。シンからの初めてのプレゼント

アイリス視点

「『収納(アイテムボックス)・アウ』ーーっとと。危ない、危ない」


収納(アイテムボックス)』と『障壁(シールド)』の魔法書を取り出そうとしていたシンさんだったが、何故だか途中で、慌てキーワードを唱えるのを止めてしまった。


「? シンさん?」


「いや、魔法の適性を調べる水晶玉を取り出す時と、同じ失敗をするとこだったからさ」


わたしが不思議に思って首を(かし)げていると、シンさんはそう答えてくれた。


(…………ああ。そんな事もあったね…………)


あの時の事を思い出して、笑みを浮かべそうになったが、その直前に、ふと気付く。


(あれ? 魔法書を2冊取り出すだけなんだよね?)


ちらっと、シンさんが先程取り出した『極・癒(グレート・ヒール)』の魔法書を見る。


普通の本と大きさはそう変わらないように見える。

シンさんは身長が高いせいか、(てのひら)も普通の人より大きい気がする。あの手なら、2冊同時に持つことも余裕だろう。

それをしないという事は、つまりーー


「えっ!? シンさん、そんなに沢山の魔法書を持ってるんですか!?」


「ん? まあね」


驚くわたしを余所に、シンさんは特に気負った風もなく頷く。

そして、目の前のテーブルに向け手をかざし、今度こそキーワードを唱えきる。


「『収納(アイテムボックス)・アウト』」


ーードドドドッ!


「キャッ!」


とたんに、シンさんの掌から、魔法書が次々に溢れ出す。

その様子を見て驚いたわたしは、つい悲鳴を上げてしまう。


ーードドドドッ!


魔法書は、まだまだ出続けている。


(いったい、どのくらい出たんだろう?)


そう疑問に感じたわたしは、シンさんからテーブルの方へ視線を移す。

と、細長いローテーブルの上に置かれている沢山の魔法書の内の何冊かが、テーブルの外にはみ出して落ちそうになっているのに気付く。

シンさんも、どこか慌てた様子でテーブルを見ているので、その事には気付いているのだろう。

なのに、シンさんの掌からは、まだ魔法書が出続けている。おそらく、途中で止めることは出来ないのだろう。


ーードサドサドサッ!


そうこうしている内に、テーブルからはみ出していた魔法書が、新しく出てきた魔法書に押し出される形で、床に落ち始めた。

だけど、わたしもシンさんも、ただその様子を見ていることしか出来ない。

やがて、全部出し終えたのか、シンさんの掌から魔法書が出るのが止まる。

パッと見た所、10冊以上の魔法書が出たようだが、テーブルの上にあるのは半分程。残りの半分は、床に落ちてしまったようだ。


「やれやれ。今回は気を付けていたんだけどな…………」


グチる様に呟いて、落ちた魔法書を拾い始める、シンさん。

たしかに、シンさんの気持ちも分かる。今回はちゃんと気を付けていたのに、結局同じ失敗を繰り返してしまったのだから。


「あはは…………。わたしも手伝いますよ」


シンさんに(なら)って、わたしも近くに落ちた魔法書を拾い集めていく。


(つい笑っちゃったけど、シンさん怒ってないかな…………)


ふと、不安に感じたわたしは、チラッとシンさんを見る。

シンさんは、特に気を悪くした様子もなく、せっせと魔法書を拾い集めていた。


(良かった。気にしてないみたい)


内心で、ホッと安堵の息を吐く。

といっても、わたしが笑ったのは、また同じ失敗を繰り返したシンさんに対する苦笑ではない。

あの笑みの直前、わたしが考えていたことはーー


(シンさんの拗ねた表情、かわいいなぁー!)


ーーだった。


(……………………うん。シンさんが困ってる時に、わたしは一体、なにを考えているんだろうね…………)


でも、仕方ないじゃない! 昨晩、シンさんの布団に潜り込んだ時や、シンさんがハーブを育ててるって知った時にも思ったけど、普段は頼りがいのあるカッコいい大人の男の人であるシンだけど、でもだからこそ、ふと見せるギャップは、本当にかわいく感じちゃうんだよ!


(……………………うん。わたしはいつまで、バカなことを考えてるんだろうね…………)


ふと我に返ったわたしは、、心の中でいろいろと反省をして、落ちた魔法書を拾うことに集中する。


そうして、冷静になったわたしは、改めて周りの状況をーーテーブルの上や、床に落ちた大量の魔法書を眺め、つい口から呟きが漏れてしまった。


「ま、魔法書がこんなに…………。ぜ、全部で一体いくらなんだろう…………」


自分でも、顔が蒼くなっているのが分かる。


(たしかシンさんは、込められている魔法によって値段は変わるって言ってたけど…………)


わたしは、自分が拾った3冊の魔法書を見る。

おそらく、込められている魔法の属性によって、表紙のタイトルや魔法陣の色が変わるのだろう。

おそらく火属性だと思われる、赤色で描かれた『爆破(エクスプロージョン)』、水属性だと思われる、青色で描かれた『水刃(ウォーターカッター)』、闇属性だと思われる、黒色で描かれた『闇渦(ブラックホール)』。


どんな魔法なのかは分からないが、名前を見るだけで、強力な攻撃魔法なのだろうと想像できる。


(どれも、最初に見せてもらった『極・癒(グレート・ヒール)』の魔法書より高いんじゃないかな?)


そんな事を考えながら、わたしが拾った3冊の魔法書を、シンさんに手渡す。



「はい、シンさん。どーぞ」


「ありがとう、アイリス」



わたしから魔法書を受け取ったシンさんは、一旦全部の魔法書をテーブルの上に置いて、1冊ずつ確認していく。

おそらく、わたしに覚えさせようとしている『収納(アイテムボックス)』と『障壁(シールド)』の魔法書を探しているのだろう。


(…………い、一体何冊あるんだろう?)


気になったわたしは、シンさんの手元を見て、魔法書の数を数えていく。


(1、2、3……………………うわっ! スゴい! 全部で14冊もある!)


魔法書を数えて、わたしは改めて、その数に驚く。

そんなわたしに、シンさんは『収納(アイテムボックス)』と『障壁(シールド)』の魔法書を探しながらも、声をかけてきた。


「アイリス。一応言っておくけど、この魔法書は全部、俺が買ったものじゃないからね」


「え? そうなんですか?」


「ああ。全部依頼の報酬として貰ったものだよ。ここにあるのは、全部余り物。俺がもう覚えている魔法の魔法書だったり、適性のない属性の魔法書だったり、覚える必要がないと判断した魔法書だったりね」


「そうなんですね」


わたしは、納得して返事をしながらも、この言葉は、シンさんなりの優しさなのだろうと感じていた。

シンさんは、こう言いたいのだろう。『だから、アイリスがこの魔法書を使うのを、気にする必要なんて無い』って。


相変わらずのシンさんの優しさに触れ、わたしの心に温かな想いが広がっていく。

わたしは、照れくさく感じながらも、シンさんにお礼を伝えようとして、その直前に気付くーー


「ーーって、金貨数百枚する魔法書を報酬として貰える依頼って何ですか!?」


今度は別の意味で、わたしの顔が蒼くなる。

だけど、シンさんは特に気負った所もなく、とんでもない事を口にしていく。


「ははっ。これでもSランク冒険者だからね。まあ、国家機密に関わることもあるから、詳しい内容は言えないんだけどさ」


シンさんは笑いながら軽い感じで言ってるけど、これって、とんでもない事だよね!?

なに!? Sランク冒険者って、そんな事までするの!?


「な、なるほど…………。大変なんですね、Sランク冒険者って。…………わたしも頑張らないと」


どうやら、わたしが目指すSランク冒険者というのは、そんなにも大変なものらしい。


(でも、わたしの気持ちは変わらない。皆の復讐のため、そしてシンさんへの恩返しのためにも、頑張っていこう…………!)


わたしは改めて、そう決意する。


「…………ああ。少しずつ頑張っていこう。ーーっと、あったよ。はい『収納(アイテムボックス)』と『障壁(シールド)』の魔法書だ」


どうやら、『収納(アイテムボックス)』と『障壁(シールド)』の魔法書が見つかったらしい。

シンさんは、そう言って2冊の魔法書をテーブルの中央に並べて、残り12冊の魔法書は、まとめて端に寄せる。


「とりあえず、まずは『収納(アイテムボックス)』の魔法書を使ってみようか」


「はい。たしか、表紙の魔法陣に手を置いて、魔力を流すんでしたよね?」


「ああ」


シンさんから言われた通り、わたしは『収納(アイテムボックス)』の魔法書の魔法陣に手を置き、魔力を流していく。

その瞬間、魔法陣が突然光始めるーー


「ーーキャッ!」


「まだだよ、アイリス。もう少し、そのまま」


「は、はい」


突然の事に驚いたわたしは、悲鳴を上げ反射的に魔法書から手を離してしまいそうになったが、シンさんからそう言われ、慌てて手を押し留める。


光は、魔法陣の内側から外側に広がっていく。やがて、魔法陣全体に光は広がり、今度は外側から内側に向かって、光が消えていく。

よく見ると、光と一緒に魔法陣営の線も消えている。シンさんは、はっきりと明言しなかったが、やはり魔法書は使い捨ての物のようだ。


(たったこれだけで、金貨数百枚を使ったことになるのか…………)


わたしが改めてそう思っている間に、光と魔法陣は完全に消えてしまった。


「ーーよし、全部消えたね。これで『収納(アイテムボックス)』の修得完了だ。もう手を離しても大丈夫だよ」


えっ!? これで終わりなの!? 


「は、はあ。何だか呆気なかったですね」


つい、そんな感想が漏れてしまう。


(苦労して修得した『氷矢(アイスアロー)』や『炎矢(ファイアアロー)』と違って、なんだか実感が湧かないな…………)


「それじゃあ、実際に『収納(アイテムボックス)』を使ってみようか。『収納(アイテムボックス)・アウト』」


わたしが考えていた事を察したのだろう。シンさんはそう提案して、『収納(アイテムボックス)』から物を取り出すためのキーワードを唱える。

次の瞬間、シンさんの手に、美しい緋色の短剣が現れた。


「とりあえず、その剣を『収納(アイテムボックス)』の中に入れてみよう。手に持って、『収納(アイテムボックス)・イン』って、唱えてみて」


そう言われ、シンさんから短剣を受け取る。


(…………うわあっ! 近くで見ると、本当に綺麗だなぁ…………)


持ち手の部分も、刃の部分も、全てが美しい緋色。

刃の根元の部分には、大小2つのバラの模様が彫られている。


「は、はあ。『収納(アイテムボックス)・イン』」


短剣の美しさに見とれていたわたしは、上の空な状態でシンさんに生返事をして、言われた通りキーワードを唱える。

次の瞬間、わたしの手から、握っていたはずの短剣が消える。


「す、すごい! 本当に出来た!」


本当に『収納(アイテムボックス)』の魔法を修得したんだと、ようやく実感が湧いて、つい興奮してしまったわたしに、シンさんから次の指示が出る。


「よし、次は今『収納(アイテムボックス)』の中に入れた短剣を取り出してみよう。頭の中に、取り出したい物を思い浮かべて、『収納(アイテムボックス)・アウト』って、唱える」


そう言われたわたしは、興奮して高いテンションのまま、頭の中で先程の美しい緋色の短剣を思い浮かべ、キーワードを唱える。


「はい! 『収納(アイテムボックス)・アウト』!」


次の瞬間、何も無かったはずのわたしの右手に、たしかな重さを感じる。見ると、先程の緋色の短剣が握られていた。


「うん。無事、修得出来たようだね」


「はい! …………あ、これは、お返ししますね」


名残惜しく感じながらも、わたしはシンさんに、短剣を返そうとする。

だけど、シンさんは受け取ろうとせずに首を振るとーー


「いいよ。それはアイリスにあげる。魔法をメインでやっていくってなったけど、武器の1本ぐらい持っていた方が良いしね」


ーーそんな嬉しい言葉を言ってくれた。


「良いんですか! やったぁ! この剣、綺麗だなぁって思っていたんですよ!」


ああ、そうだ。ちゃんと、お礼を言わないと。


「ありがとうございます! シンさん!」


「うん。どういたしまして」


嬉しさのあまり、自分でも満面の笑みを浮かべているのが分かる。


シンさんにお礼を告げたわたしは、改めて右手に握っている短剣を眺める。


(本当に綺麗だなぁ…………)


つい、見とれてしまう。


(わたし、武器って、もっと無骨な物だと思っていたけど、こんなに美しい武器もあるんだなぁ)


それにーー


(これって、シンさんからのプレゼントだよね?)


そう思うと、本来は物騒なはずの短剣が、なぜだか、キラキラした宝物に見えてしまう。


(えへへ…………。なんだか、嬉しいなぁ…………)


顔がニヤけそうになってしまうが、シンさんにそんな表情を見られるのは、なんだか恥ずかしくて、必死に耐える。


しばらくの間、シンさんから貰った短剣を眺めた後ーー


「『収納(アイテムボックス)・イン』」


小さな声でそう呟いて、シンさんから貰った短剣を、自分の『収納(アイテムボックス)』の中に仕舞った。


(まるで、大切な宝物を、宝箱にそっと仕舞ったみたい…………)


そんな、恥ずかしい事を、考えながらーー

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