表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/168

シン。少女を保護する

シン視点

頭の中にある地図を頼りに、時には木々の枝から枝へと飛び移り、時には崖を登り。そうして、シンは、本来なら馬車で6時間かかるところを、たったの2時間でルルの村にたどり着いた。しかしーー


「ーーくそッ! やっぱり間に合わなかったか!」


村の中には、凄惨な状況が広がっていた。赤黒い血だまりが無数に点在し、その中心には、人が倒れている。

側に寄って確認しなくても分かる。すでに亡くなっていると。


シンは、村の中に足を踏み入れいく。

盗賊と闘おうとしたのだろう。二十代ほどの青年の遺体の近くには、古びた剣が落ちている。抵抗されたのが盗賊団の癇に触ったのか、青年の四肢は切断され、体には、内臓がはみ出すほどの深いキズがついている。

我が子を守ろうとしたのだろうか? 子供を抱きしめた状態で亡くなっている人がいる。火の魔法で焼かれたようで、性別や年代は分からないけれど……。


「ーーッ!」


あまりの怒りに、いつの間にか手を強く握り込んでいたらしく、掌に爪が食い込み、血が滲む。たが、その痛みで少し冷静になることが出来たシンは、これからのことを考え始める。


(辺りに人の気配はない。血染め髑髏(ブラッディスカル)の連中も、もう居ないようだな)


血染め髑髏(ブラッディスカル)は残忍で、そして狡猾だ。村を襲った後は、しばらく身を隠し、そして奪った金品や食料が尽きたところで再び村を襲う。

高い実力と慎重さ。この2つが合わさることで、騎士団や冒険者の追跡をかわし、捕まらない。


村が襲われてから、半日以上がたっている。今から奴らを追うことは不可能だろう。


(依頼は失敗だな。……いや、もしかしたら生存者がいるかもしれない。一応、探知(サーチ)を使うか)


僅かな希望に賭けて、シンは無属性魔法『探知(サーチ)』を使う。

この魔法は、魔力の波を周りに飛ばし、魔力が通った場所にあるものを、頭の中に浮かび上がらせる。もし生存者が居れば、熱反応があるはずだがーー


「……やはり、ダメか」


魔力は村の大部分に飛んでいるが、生存者の反応はない。

やはり無理かと、諦めかけた、その時ーー


(ーーッ!? 反応があった!)


村の端の方に熱反応がある。

慌ててその場所に向かうと、そこには、倒壊した家がある。おそらく、火魔法の爆発で壊されたのだろう。


「『探知(サーチ)』」


念のため、もう一度『探知(サーチ)』の魔法を使う。


(ーーッ! まちがいない! ここから反応がある)


倒壊した家の下に反応があることを確認したシンは、瓦礫の山をどけ始める。

可能な限り急いで、しかし、崩れてしまわないように慎重に。


どれぐらいの時間がたっただろうか、瓦礫の大部分が無くなり、地面が見え始めた頃ーー


「見つけた!」


シンは、瓦礫の中に2人の人間を見つけた。

おそらくは母娘だろう。崩れてくる瓦礫から子供を守ろうとしたのか、母親が女の子に覆い被さった状態だった。

母親とおぼしき女性は、家のヘリと思われる太い柱が背中に突き刺さり、すでに絶命している。

しかし、女の子の方はーー


シンは、女の子の首に指を当てる。すると、トクントクンと、脈拍が確認できる。生きているのだ。


「失礼します……」


命を賭けて我が子を守った女性に謝罪をして、その腕の中から女の子を救助する。

倒壊した家から少し離れた草地に女の子を寝かせ、容態を確認する。

声をかけても反応は無いが、脈拍はあるし、呼吸もしている。どうやら、気を失っているだけのようだ。

銀髪や服が血で染まっているが、そのほとんどは母親のものらしく、少女自身の傷は浅い。


「よかった。これぐらいなら、俺の回復魔法でも治せる」


シンは、初級の回復魔法しか覚えてないが、少女のけがを治すにはそれで十分だ。


「『癒し(ヒール)』」


少女に手をかざし、『癒し(ヒール)』の魔法を使う。温かな光が少女の体を包み、傷を少しずつ塞いでいく。

10分程で、目に見える傷は全て塞がった。シンは、『癒し(ヒール)』の魔法を解除し、立ち上がって村を見回す。


「『探知(サーチ)』」


他に生き残った人が居ないかと、もう一度の『探知(サーチ)』の魔法を使う。


「……ダメか」


村の中だけでなく、村の外1キロの範囲まで魔力を飛ばすが、生存者の反応ない。


「仕方ないか……。とりあえず、この子だけでも保護しないと」


そう気持ちを切り替えて、シンは少女を抱え上げる。


「『付与(エンチェント) 筋力強化』、『付与(エンチェント) スピード強化』」


再び魔法で身体能力を強化し、コノノユスラへ向けて走り出す。腕に抱えた少女に負担がかからないよう、ゆっくりと、慎重にーー



この日、コノノユスラの地図から、『ルル』という名の村が消えたーー

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ