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8月-ーシン。父との和解

シン視点

ジパングの実家に帰省して10日目となる、8月15日の日曜日。

時刻は夜の9時。明日はセレスティアへと帰る日なので、今日が実家で過ごす最後の夜。

俺達はジパングでの思い出の締め括りにと、夜の実家の庭にて、家族全員での花火を楽しんでいた。


「うわぁー! きれー!」


現在に伝わる手持ち花火のルーツは、約400年前にジパングで生まれた、線香花火だと言われている。

なので、セレスティア出身のアイリスにとって、手持ち花火は初めて目にする物なのだろう。

手にしたススキ花火から吹き出る赤色の火花を見て、うっとりと目を細める、アイリス。

が、しばらくして火花の色が青に変わった事で、アイリスはキョトンと目を丸くする。


「? ねぇ、お父さん。どうして、急に炎の色が変わったの?」


「今アイリスが持ってるススキ花火は、筒の中に火薬が入ってるんだけど、場所によって種類や配合を変えているんだ」


だから燃え進むごとに、火花の色が変わっていく訳だね、と。

俺が仕組みを説明している間にも、アイリスが手にしたススキ花火の炎の色は、青から黄色に変化。

それを見て、アイリスは納得したように頷いた。


「なるほど! そういう事だったんだね!」


「ちなみに、アイリスちゃん。その花火は5色位しか変わらないけど、こっちなら20色位に変化するわよ」


と、母さんが勧めた変色花火を始め、スパーク花火や手筒花火。

ネズミ花火やヘビ花火など、様々な花火を車座になって楽しむ、俺達。

が、花火の半分程を消費した所で、アイリスは不意に俺の方へと視線を向ける。


「ところで、お父さん。わたしは今、とても怒っています。さて、何故でしょう?」


「…………へ? ど、どうしたの、突然…………」


目だけが笑っていない器用な微笑みを浮かべながら、唐突に俺を問い詰めてくる、アイリス。

が、心当たりの無かった俺が戸惑っていると、しばらくした所で、アイリスは「はぁ」と溜め息を1つ。

次いで、アイリスはプクッと頬を膨らませた。


「…………お父さん、約束を破ったでしょ…………」


「へ? 約束?」


「わたしと出会った翌日、お父さん『自分を傷付けるような無茶はしない』って約束したよね」


アイリスが言っているのは、グリフォンを血の臭いで誘き出す為に、自分の手を刺した時の事だろう。

そう察した俺は、コクリと頷く。


「ああ、したけど?」


「それなのに、お父さん。昨日、暁さんの攻撃を肩で受けたよね」


「えっ!? あれ、駄目!?」


グリフォンの時と違って刃の通っていない竹刀だし、薄いとはいえ防具の上から受けたのに、と。

そんな言い訳をする俺を咎めるように、アイリスはジトッと瞳を細める。


「…………だけど、痛かったんでしょ?」


「いや、たしかに痛かったけど…………距離がある上に面も被っていたのに、よく分かったね」


「お父さんの事なら、何でもお見通しなんだから! 今回は許すけど、次からは気を付けてよね!」


「…………はい、肝に銘じます…………」


何だか釈然としないものの、素直に頭を下げた効果だろう。

膨らませていた頬を引っ込め、笑顔で花火へと戻る、アイリス。

そんな俺とアイリスの遣り取りを見ていたのか、背後から父さんの声が掛かる。


「なんだ、深夜よ。お前、もう尻に敷かれているのか?」


「いや、尻に敷かれているって…………表現として何か違くないか、父さん」


たしか、妻や恋人の女性に対する表現であり、娘を相手に使う言葉じゃないはずだけど…………。

と、俺は苦言を呈しつつも、縁側で清酒を飲んでいる父さんへと視線を向ける。


(とはいえ、父さんから声をかけられたタイミングとしては、丁度よかったかな?)


アイリスから叱られた事で、何だか居たたまれなくなっていた所だし。

それに、セレスティアに帰る前に、父さんとは1度ゆっくり話したかったしな、と。

そう判断した俺は、アイリスに断りを入れてから席を立ち、父さんの隣へと腰を落とす。


「ところで、父さん。俺達が花火を始めた時から酒を飲んでるけど、大丈夫なのか?」


「はっはっは! 何を言う。この程度で、ワシが酔う訳なかろう!」


それに、このようなメデタキ日には、よき酒を飲まなければな、と。

父さんは言っているものの、赤ら顔に、機嫌よさ気な様子。これは、絶対に酔っているな…………。

と、そんなツッコミはさておき、父さんが言っているのは、昨日の剣道の試合の事だろう。


(結論から言えば、2本目に続き3本目も制した俺が、2対1で父さんに勝ったんだよな)


それが余程嬉しかったのか、昨晩にも結構な量の酒を飲んでいた、父さん。

が、俺はある理由から、自分の勝利を素直に喜べずにいた。


「いい機会だから聞くけど、父さん昨日の試合、ちゃんと最後まで本気だった?」


「? もちろん、本気だが?」


「だけど、父さんの3本目の打ち込み、1本目や2本目に比べて弱かった気がしたんだけど」


まさかとは思うけど、俺を勝たせる為に、わざと手を抜いたんじゃ…………。

と、俺が疑問の言葉を口にすると、父さんは納得した様子で頷いた。


「…………ふむ。どうやら、ワシの言葉が足りなかったようだな」


「と、言うと?」


「年齢の問題だよ。ワシも、もう50の半ば。試合時間の5分間、全力で竹刀を振り続けれんのだ」


「つまり、3本目が弱まったのは手を抜いた訳じゃなく、腕の耐久力が落ちた結果って事か…………」


そういう意味では、父さんが2本目を取れなかった時点で、俺の勝利は決まっていたのかもな、と。

俺は一応の納得をしつつも、何とも締まらない勝負の結末に、内心では小さな溜め息を吐いていた。


(…………はぁ。まぁ、今回の試合の目的はトラウマを払拭する事で、勝敗は2の次なんだけどさ…………)


そう思ったからこそ、俺は3本目を平青眼の構えではなく、父さんと同じ上段の構えで臨んだ。

けれど、どうせなら諸手を上げて喜べるような、勝ち方をしたかったものだなぁ、と。

俺が小さく肩を落としていると、父さんが手にしていたグラスを縁側へと置いた。


「…………すまなかったな、深夜よ」


「別に、もういいよ。わざと手を抜いた訳じゃないんだし、仕方ないさ」


「ワシが言っているのは、昨日の試合の事ではない。お前が子供の頃に、厳しく鍛え過ぎてしまった事だ」


深夜が幼少期の時もだが、旭が亡くなってからの1年間は、特に過剰になってしまっていた、と。

隣に座る俺の方へと向き直り、深々と頭を下げてくる、父さん。

そんな父さんに向けて、俺は静かに首を振る。


「それこそ、もういいさ。だから頭を上げてくれよ、父さん」


「…………だが、恨んではいるであろう?」


「それゃあ、まったく恨んでないと言ったら、ウソになってしまうけどさ…………」


と、俺は一旦そこで言葉を区切ると、未だに頭を下げ続けている父さんから、庭へと視線を移す。

そこでは、母さんや祖母ちゃんやクロと一緒に、アイリスが満面の笑顔で花火を楽しんでいて。

そんなアイリスの姿を眺めている内に、俺の口元にも自然と笑みが浮かぶ。


「だけど、アイリスの父親と師匠になった今なら、父さんの気持ちが少しは分かるんだよ」


アイリスと出会ってから、約4ヶ月。

俺は周囲から親バカと揶揄される程に、娘の事を溺愛しているものの、それは父親として時の事。

師匠として修行をしている時には、父さん程では無いにしても、厳しく接してしまう事もあるんだ、と。

そこまで説明した所で、俺は再度、父さんの方へと向き直る。


「だけど、俺が厳しくなってしまうのは、アイリスの事が嫌いだからじゃない」


アイリスの事が好きだから。傷付いたり死んでほしく無いから、厳しくなってしまうんだ、と。

そう断言した所で、俺の脳裏に、アイリスと過ごした4ヶ月の日々が思い浮かぶ。

と、父さんと真面目な話をしている状況にも関わらず、俺は思わず吹き出してしまった。


「それなのにアイリスったら、どれだけ俺が厳しく接しても、修行が終われば笑顔で話し掛けてくれてさ」


そんなアイリスを見ていると、いつまでも父さんを恨んでいる俺の方が、子供みたいに思えてきてさ、と。

そこまで笑顔で続けた所で、俺は父さんへと真剣な表情を向ける。


「だから、もういいんだ。父さんが厳しかったのは、俺が憎かったからじゃないって、今なら分かるから」


「…………そうか。ありがとう、深夜」


俺に感謝の言葉を告げてから、ようやく下げ続けていた頭を上げる、父さん。

が、柄にもなく真面目な話を語ったからか、どうにも気恥ずかしくなってしまったなぁ、と。

そう感じてるのは俺だけでは無いようで、父さんは何かを誤魔化すように、グラスの中身を一息に呷った。


「…………うむ。それにしても、昨日の試合中に深夜を再起させた事といい、アイリスくんには今回の件でも世話になったようだな」


これでは、深夜と歳が離れているからといって、アイリスくんを認めない訳にはいかないな、と。

意味不明な言葉を口にする父さんに、俺はキョトンと首を傾げてしまう。


「いや、さっきから何を言ってるの、父さん?」


先の尻に敷かれている発言といい、時折おかしな言葉を挟んでくる、父さん。

見れば、清酒のビンの中身は半分ほどに減っているので、やはり酔っているのだろうな、と。

俺が呆れていると、父さんが傍らに置いていた、もう1つのグラスを差し出してきた。


「成人した息子と酒を呑み交わすのが、ワシの夢でな。旭とも呑んだ事だし、深夜も1杯どうだ?」


「…………いや。それは、ちょっと…………」


父さんは知らないだろうが、俺は赤ワイン1杯で酔い潰れてしまう程に、酒に弱い人間だ。

しかも、品種による多少の違いがあるとはいえ、一般的には赤ワインより清酒の方が酒精が強いしな。

と、数瞬の間たじろいでしまう俺だったが、最終的には父さんからグラスを受け取る事にした。


(まあ、仕方ないか。ここで断ってしまえば、まだ俺が怒っていると思われるだろうし)


それに、アイリスからは極力お酒を飲まないよう注意されたものの、絶対ダメとは言われていないし。

例え酔い潰れても、アイリスから幻滅されるかもなんて、そんな心配をする必要も無くなったしな、と。

一昨日の神社での一件を思い出しつつも、おそるおそる清酒を口に運ぶ、俺。

そして-ー


「…………きゅう…………」


そこから先の展開は、当初の予想通り。

グラスの中身を飲み干した所で倒れ、そのまま翌日の帰る直前まで寝込み続けてしまった、俺。

そんな、色々あった割には締まらない結末で、俺は7年ぶりの実家への帰省を終えたのだった-ー

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