シン。言えなかったことーー
シン視点
「よーし! この調子で、最後の『闇矢』も覚えちゃいますよ!」
俺がひとしきりアイリスの頭を撫でると、まだまだ元気いっぱいといった感じでそう宣言する、アイリス。
(すごいな。ほぼ1時間ぶっ続けで魔法を使っているというのに、全然精神的な疲労が見えない)
種族的に、生まれながらに魔法の才があるエルフならともかく、人間でこれだけの事が出来る奴は、そう居ないだろう。もしかしたら、アイリスの魔力量は俺に匹敵するかもしれないな。
(どうやら、アイリスは冒険者として、上を目指せる才能があるみたいだな)
まあ、とはいえーー
「シンさん。たしか、『矢』系の魔法が込められた魔道具は全部持ってるって言ってましたよね。申し訳ありませんが、またお手本を見せてもらえませんか?」
高価な魔道具を使わせてしまうのが申し訳ないと思っているようで、おずおずとお願いしてくる、アイリス。
「アイリス。お金のことで遠慮してるのかもしれないけど、気にしなくて良いよ。嫌味に聞こえてしまうかもだけど、俺はSランク冒険者だからさ、お金は余る程あるんだよ」
「そ、そうですか…………。で、では、お願いします」
「ああ。…………ただ、ごめん、アイリス。『闇矢』を教えるのは、またの機会でいいかな? 先に『収納』の魔法を修得してもらいたいんだけど…………」
「別にかまいませんけど…………どうしたんですか、急に?」
俺の急な態度の変化に、不思議そうに首を傾げている、アイリス。
「いや、もう『矢』系の魔法は2種類覚えた訳だし、それなら、いろいろと便利な『収納』の魔法を覚えてもらおうと思ってね。」
「……………………」
「ア、アイリス?」
「シンさん。何か隠してません?」
しばらく沈黙した後、スッと目を細めて、剣呑な雰囲気で問うてくる、アイリス。
その指摘に、内心では動揺しつつも、とりあえず惚けてみる。
「な、何のことかな?」
「だって、おかしいじゃないですか。別に『闇矢』を覚えた後でも良いはずですよ」
「ま、まあ、そうだね…………」
うん。そりゃあ、こんな雑な言い訳じゃ、すぐ気付くよね。
言わなきゃダメかな? …………うん。分かってる。ちゃんと、話さないとダメだよな。今まで、言わなきゃと思いながらも、アイリスがどういう反応をするか心配で、言えなかった。
でも、いつかは言わないといけないし、タイミングとしては、ここが最後だろう。
そう決意して、その理由をーーギルドへと行かなければならない時間が迫っている事を伝えようとする。がーー
「…………もしかして、この後、何か急ぎの用事があるんですか?」
どうやら、先にアイリスに気付かれてしまったらしい。
不安そうな表情で尋ねてくる、アイリス。
「…………うん。実はそろそろギルドに行かないといけない時間でね。そして、アイリス。悪いんだけど、キミを一緒に連れて行くことは、出来ないんだーー」
次ページのアイリス視点に続きます。