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7月-ーシン。一昨日の顛末と、オリースの正体

シン視点

アイリスの夏休みが始まってから2日後の、7月22日。

今日は当初の予定通り、俺とアイリス、ヴィヴィさんとラナちゃん、オリースさんとモモちゃんの6人で、川遊びの日だ。

朝の10時頃に目的地の小川に到着した俺達は、まずは女性陣の着替えや、休憩スペースの準備から開始。

更には、子供達の準備運動や川遊びの注意点に関する説明をして、これで事前に行うべき作業は全て終了。

いよいよ、アイリスの七夕のお願い事の1つ目である、川遊びがスタートした。


(それにしても、川遊びの準備の段階からトラブル続きだったなぁ)


川遊びの注意点に関する説明を終えた俺は、踵を返して休憩スペースへと戻りつつ、しみじみと物思いに耽っていた。

アイリスが転びかけたり、モモちゃんが不機嫌になったりと、いろいろな事があった。

その中でも俺が1番気にかかっているのは、つい先程、アイリスを怒らせてしまった事だ。


(アイリス、どうして急に怒り始めたんだろうなぁ…………?)


かわいい愛娘のおねだりを聞いて、俺も一緒に遊ぼうと思っていたのに…………。

と、俺は釈然としない思いを感じつつも、その理由を考えてみたのだけれど-ー休憩スペースまでの短い距離では、その理由に思い当たる事が出来ず。

仕方ないので、俺は気持ちを切り替えて、子供達の見守りに集中する事にした。


「あら~。おかえりなさい、シンさん」


「子供達の事を、任せきりにしてしまったな。すまなかった、シルヴァー殿」


休憩スペースへと戻って来ると、既にシートの上に腰を落としていたオリースさんとヴィヴィさんが、俺に(ねぎら)いの言葉をかけてくれた。

そんな2人に会釈を返しつつも、俺は自分の身の置き所を探して、シート内側をキョロキョロと見回す。

と、オリースさんが自分の隣の空きスペースを、ポンポンと叩いた。


「シンさん、こちらが空いておりますよ~」


「……………………いえ、遠慮しておきます」


さすがに水着姿のオリースさんの隣に座るほど、俺は無用心ではない。

俺はキッパリと断ると、シートの右半分に座っているオリースさんとヴィヴィさんの反対の左側に腰かけて、川で遊んでいる子供達の方へと視線を向ける。

と、どうやら生き物探しをしているらしく、アイリス達は足首位の浅瀬で石をひっくり返して遊んでいた。


(…………ふぅ。まあ、あの位の浅瀬で遊んでいる内は、万が一にも溺れる心配は無いだろうな)


と、安心して気を緩めてしまったのが、いけなかったのだろう-ー


「-ーはああぁ~~~!」


俺の口から、深くて重たい溜め息が漏れてしまった。


「あら~。ずいぶん深~い溜め息ですね~、シンさん」


「ど、どうしたのだ、シルヴァー殿? もしや、どこか具合が悪いのでは…………」


俺の溜め息が聞こえたようで、心配した様子で尋ねてくる、オリースさんとヴィヴィさん。

右隣へ視線を移すと、オリースさんは普段通りのんびりと落ち着いているものの、ヴィヴィさんはオロオロと狼狽(うろた)えてしまっている。

なので、俺は慌ててフルフルと首を振る。


「ああ、いえ。具合はどこも悪くないですよ、ヴィヴィさん」


「そ、そうか? では、先程の溜め息は、いったい…………?」


「あー、それはですね…………一昨日(おととい)の食事会で、酔い潰れた事を思い出してしまいまして…………」


「…………ああ、なるほど。そういう事か」


数瞬の間、溜め息を吐いた理由を話すのを躊躇してしまう俺だったが-ーここで変に隠してしまえば、ヴィヴィさんに余計な心配をかけてしまうだろう。

と、渋々(しぶしぶ)ながらも正直に打ち明けたかいもあり、ヴィヴィさんの顔から不安の色が消える。

その代わりに、ヴィヴィさんが苦笑を浮かべていると、オリースさんがポンッと両手を合わせた。


「そういえば~、その話、私も昨日モモから聞きました~。モモは~、ワイン1杯で酔い潰れたって言ってましたけど、本当なんですか~?」


「え、ええ、まぁ…………。というか、たった1日で、モモちゃんやオリースさんまで話が伝わったんですね…………」


「モモは~、アイリスちゃんから聞いたって言ってましたよ~」


「そうですか…………」


オリースさんに相槌を打ちつつも、俺は無意識に、川で遊んでいるアイリスへと視線を向ける。


(…………まったく。口が軽いんだから、アイリスは…………)


そう呆れてしまうものの、アイリスに文句を言うつもりはない。

より正確に言えば、アイリスに文句を言う資格が、俺には無いのだ。


(アイリスには、さんざん迷惑をかけてしまったからなぁ…………)


一昨日の食事会は、俺が酔い潰れてしまった事で中断。

俺は、エドさんとセンドリックさんの肩を借りて、何とか帰宅したのだけれど-ーその後も、頭がボーッとしたり身体がだるかったりで、ろくに動く事が出来ず。

そんな俺を、アイリスは甲斐甲斐しく世話してくれたのだ。


(その次の日も、二日酔いなのか気持ち悪くて、アイリスの冒険者の修行が出来なかったしなぁ…………)


そりゃあ、学校で友人に愚痴の1つや2つ言いたくなるだろう、と。

そんな事を考えていると、オリースさんが持参したバックをゴソゴソしている事に気が付いた。

不思議に思った俺が視線を向けると、オリースさんはバックの中から何かを取り出しつつ、こんな提案をしてきた。


「ところで~、シンさん。私~、こんな物を持ってきたのですが、一緒に飲みませんか~?」


そう言って、1本のボトルを差し出してくる、オリースさん。

その中には、赤い液体が入っていて-ーって!


「あのー、オリースさん? それ、もしかして赤ワインじゃ…………?」


「はい、そうですよ~」


「やっぱりですか! というか、一昨日に俺が醜態を晒した事を知っているのに、何でアルコールを持って来たんです!?」


「私も、シンさんと一緒にお酒を飲みたいな~、って。それに~、アイリスちゃんも絶対にお酒を飲んだらダメとは言わなかったみたいですし~」


「うっ…………! アイリス、そんな事までモモちゃんに話したんですね…………!」


確かに、オリースさんの言う通りなのだ。

それは、俺が酔い潰れた日の翌日。二日酔いによる気持ち悪さが治まってきた、夕方の事だ。

学校から帰って来たアイリスに、俺はお説教をくらったのだが-ーアイリスから言われたのは「お父さんは、『極力』お酒を飲まないように!」で、『絶対』とは言われていない。


(きっと、アイリスなりに気を遣ってくれたんだろうな)


お酒を飲むというのは、大人のコミュニケーションの1つだ。

俺は今まで断ってきたものの、それは相手が近しい立場の人だったからで、今後もそうとは限らない。

Sランク冒険者という立場のある俺なら、なおさら断り辛い場面があるだろう、と。

アイリスは、そう判断してくれたのだ。


(酔い潰れた俺の介抱は大変だったろうに-ーホント、アイリスは心優しくて、好い娘だよなぁ)


ならば俺は、そんなアイリスの優しさに応える為にも、はっきりとオリースさんに返事を返すとしよう。

と、そう考えた俺は、ブンブンと大きく首を振る。


「いえ、遠慮しておきます。今ここで飲んで、酔い潰れる訳にはいきませんし…………オリースさんの前では、尚更です」


「そ、そんな~! うぅ~、シンさん酷いです~! さっきも、私の隣に座ってくれなかったですし…………どうして、そんなに私に冷たいんですか~!?」


俺がキッパリと拒絶の意を示すと、オリースさんは両手で顔を覆って泣き出してしまう。

が、顔を覆っている指と指の間には小さな隙間が空いており、オリースさんはそこから、チラチラとこちらの様子を伺っている。

その、余りにもあからさまな嘘泣きに、俺の口から思わず嘆息が漏れてしまう。


「…………はぁ。どうしてって、そんなの決まっているでしょう」


だって-ー


「オリースさん。あなたは、淫魔(サキュバス)なんですから-ー」


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