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7月-ーアイリス。お友達と水遊び(中編2)

アイリス視点

わたしの耳元で妙に色っぽい言葉を囁き、小走りで逃げるモモちゃんと追い駆けっこを始めた、あの後-ー

わたしは30秒もしない内に、モモちゃんを捕まえる事に成功した。


(モモちゃんは多分、わたしとのじゃれ合いを純粋に楽しんでいただけで、悪気も真面目に逃げる気も無かったのだろうな…………)


わたしも、別に本気で怒っていた訳では無いけれど-ーとはいえ、からかわれた事に変わりはない。

なので、わたしはお仕置きとばかりに、モモちゃんを(くすぐ)る事にした。


「あははっ! も、もー! 止めてよ、アイちゃん!」


普段着のままのわたしとは違い、モモちゃんは水着-ーしかも、布面積の少ないビキニタイプの水着だから、とても(くすぐ)りやすい。

コロコロと笑い転げるモモちゃんに構わず、脇の下をこしょこしょと(くすぐ)り続ける、わたし。

と、そんなわたし達に、ラナが声をかける。


「おーい! アイ、モモ! 仲良くじゃれ合ってないで、手伝ってくれ!」


「-ーあっ、そうだったね! (いま)行くよ、ラナ!」


声がかかった方に視線を向けると、シートの上にビーチパラソルを立てようとしているお父さんと、それを手伝っているラナの姿が目に付いた。

それを見て、元々お父さんのお手伝いをしようとしていた事を思い出したわたしは、モモちゃんを(くすぐ)っていた手を止める。

そして、そのままモモちゃんの手を取ると、お父さん達の元へと小走りで向かって行く。


「ただいま、お父さん!」


「おかえり、アイリス。でも、モモちゃんと遊んでいても、よかったんだよ?」


わたし達を、気遣ってくれているのかな? 戻って早々に、そう切り出してくる、お父さん。

だけど、お父さんと一緒に過ごす時間は、わたしにとっての何よりも大切な時間だし-ーそして何より、ラナばかりに良い格好させる訳にはいかない。

なので、わたしは即座にフルフルと首を振る。


「ううん! 大丈夫だよ、お父さん! それより、早くビーチパラソルを立てて、一緒に遊ぼうよ!」


「そう? なら、お言葉に甘えて、手伝いをお願いしようかな」


「うん! 任せて、お父さん!」


という事で、わたしとお父さん、モモちゃんとラナの4人で、ビーチパラソルを立てる作業を始めたのだけれど-ーこれが、なかなか上手くいかなかった。

というのも、ビーチパラソルはその名の通りビーチで使う事を想定したものであり、柄の先を砂浜に挿して固定するのが、本来のビーチパラソルの立て方だ。


(とはいえ、柔らかい砂浜ならともかく、固い川原の地面に挿す事は出来ないしなぁ…………)


そういう所での使用も想定して、このビーチパラソルの柄の先端には、50センチ四方の台座を取り付ける事が出来るようになっている。

そうする事で、固い地面の上でもビーチパラソルを立てる事が可能なのだけど、この川原は大きさがバラバラな砂利ばかりだからか、どうにも安定して立ってくれない。


「とりあえず、立てる場所を変えてみますか、シンさん?」


「他には…………うーん。台座の上に石を置いて固定とかどうですか、シンさん?」


そんなラナやモモちゃんの意見を始め、わたしとお父さんも、いろいろと試してみたのだけれど-ー結局、しっかりと安定して立てる事が出来ず。

最終的に、お父さんが『創造・大地(クリエイト・アース)』の魔法で、シートの下50センチ四方の範囲にある石の砕き、その上にビーチパラソルの台座を置く事にした。


「……………………うん。これで、大丈夫そうだね。アイリス、モモちゃん、ラナちゃん。手伝ってくれて、ありがとう」


感謝の言葉と共に、わたし達3人に微笑みかける、お父さん。

それを受け、お父さんが大好きなわたしだけでは無く、男勝りなラナでさえ、どこか照れ臭そうに微笑んでいる。

そんな中、わたしと同じく、ポーッとお父さんを見つめていたモモちゃんが、ふと何かを思い付いたようだ。

モモちゃんの顔に、まるで小悪魔を思い起こさせるような、魅惑的な微笑みが浮かぶ。


「どういたしまして! そ・れ・よ・り~…………モモの水着姿はどうですか、シンさん?」


どこか色っぽさを感じさせる声音で尋ねながら、お父さんの目の前で腰をくねらせる、モモちゃん。

そんな、まるでギャグのような動作でさえ、子供離れした大きさのお胸を誇るモモちゃんがすると、様になっていて-ーって!


(何を暢気(のんき)に考えてるの、わたしは!?)


わたしのお父さんに色仕掛けをされて、黙ってなんかいられない!

そう考えたわたしが、モモちゃんに抗議の声を上げようとした、その瞬間だった-ー


「あら~。楽しそうな事をしてるわね~、モモ。娘のついでに、私の水着姿にも感想をくださいな~、シンさん」


娘であるモモちゃんに続いて、お父さんへと身を寄せて行く、オリースさん。

着やせするタイプなのかな? お店で見た時には感じなかったけれど、娘と同じくビキニタイプの水着を身に付けたオリースさんのお胸は、まるでメロンのように大きかった。


(モモちゃんのお胸も子供離れした大きさだし、やっぱり遺伝なのかな-ーって! だから、のんびり考えてる場合じゃ無いんだってば、わたし!?)


モモちゃんやオリースさんと比べて、あまりのお胸の大きさの違いに、わたしはついつい自分のペタンコなお胸を見て、現実逃避してしまっていた。

ハッと我に返ったわたしは、今すぐにでも2人に抗議の声を上げようとしたのだけれど-ー直前で、わたしは言い淀んでしまった。


(…………うぅ。同い年のモモちゃんはともかく、オリースさんには文句は言いづらいなぁ…………)


10代の後半に見えるほど若々しいオリースさんだけど、実際は30代の中頃。わたしより、20歳以上歳上なのだ。

そんなにも歳上の人には、さすがに意見しづらかった。


(とはいえ、2人の水着姿を見て、お父さんが鼻の下を伸ばすのは、何だかイヤだしなぁ…………)


と、わたしがモヤモヤしている間に、口を開き言葉を紡ぎ始める、お父さん。

その、内容は-ー


「ええ。モモちゃんもオリースさんも、とても良く似合っていると思いますよ」


と、あっさりと告げる、お父さん。その表情や声音からは、照れも下心も一切感じられない。

そんなお父さんの反応を受け、わたしは内心でホッと胸を撫で下ろす。


(そ、そうだよね! わたしのお父さんが、女の人の水着姿を(よこしま)な目で見るはずないよね!)


まあ、全く女の子扱いしてくれないのも、それはそれで困るけど…………。

と、一瞬だけではあったものの、わたしの脳裏に相反する思考が(よぎ)った。

わたしは首を傾げつつも、オリースさんへと視線を向ける。


「あらあら~。ありがとうございます~、シンさん」


流石は、オリースさん。大人の女性としての、余裕とでも言うのかな?

お父さんの淡々とした-ー悪い言い方をするなら、女性としてのプライドを傷つけるような感想を受けても、気分を害した様子はなく。

オリースさんは、いつも通りののんびり間延びした声で、お父さんに感謝の言葉を伝えている。

そんなオリースさんに対して、娘のモモちゃんはというと-ー


「…………むうぅ~! 少し位は照れてくれてもいいのに…………シンさんのバカ!」


どうやら、お父さんに女の子扱いして貰えなかった事が、よほど不満で-ーそして、お父さんに色仕掛けをかわされた事が、今になって恥ずかしくなってきたようだ。

顔を真っ赤に染め、お父さんに聞こえないような小さな声で愚痴を溢す、モモちゃん。

そして-ー


「もうっ! アイちゃん、ラナちゃん! 早く遊ぼう!」


と、まるで恥ずかしさを振り払うかのように、わたしとラナの手を引っ張って、モモちゃんは川の方へと向かって行く。


「あらあら~。まったく、仕方のない娘ね~」


オリースさんが溜め息を吐く中、わたしとラナは顔を見合せ、苦笑を交わす。

それでも、特に抵抗もせずにモモちゃんに付いて行っていると、背後からお父さんの声がかかる。


「アイリス! モモちゃんと、ラナちゃんも! 川に入る前に、準備運動するんだよ!」


「うん! 心配しなくても、ちゃんと分かっているよ、お父さん!」


という事で、わたし達はシートが敷かれた場所から3メートルほど離れた所で立ち止まると、小さな円を-ーううん。


(3人だから、円というより三角形かな?)


まあ、それはともかく-ーわたし達は、伸ばした腕や足がぶつからない位置に広がると、お互いに向かい合って、まずは上半身の運動から始める事にした。


(まあ、準備運動といっても、わたしは泳ぐつもりは無いんだけどね)


水着に着替えたモモちゃんとは違って、わたしは普段着のままなのだ。

着替えは持ってきているものの、下着まで濡れてしまったら流石に気持ち悪いので、足首位の水深が浅い所で遊ぶつもりだ。

おそらく、ラナも同じ考えだろう。


(とはいえ、川で遊ぶ事に変わりはないからね。もしもの事を考えて、しっかり準備運動しないと!)


という事で、わたしもラナも一切手を抜かずに準備運動に取り組み、まずは上半身の運動を終えた。

続いて、下半身の運動を始めた所で、わたしはモモちゃんへと視線を向ける。

と、こういった事では適度に手を抜くモモちゃんにしては珍しく、真面目に準備運動に取り組んでいた。


(モモちゃん、まだ顔が真っ赤だし、体を動かす事で恥ずかしさを紛らわしたいのかな?)


なんて事を考えている内に、下半身の運動も終わり。最後は、深呼吸だ。

スー、ハー。と、吸っては吐いてを3回繰り返し、これで全ての準備運動が終了。

そのタイミングを見計らい、お父さんがわたし達の方へと歩み寄って来た。


「お疲れ様、アイリス。モモちゃんと、ラナちゃんも。最後に3つ、川遊びの注意点を伝えておくね」


真剣な声音で話すお父さんに、わたし達もまた表情を引き締めてから、コクリと頷く。

と、お父さんは人差し指を1本だけ立ててから、川遊びの注意点に関する説明を始めた。


「それじゃあ、まずは1つ目だ。3人共、濡れてもいいようにビーチサンダルを履いているから、普通のクツに比べて滑りやすい。川底に藻が生えていると、なおさらだ。滑らないよう、細心の注意を払うように。…………特に、アイリスはね」


「う、うん…………」


最後に、わたしを念押しするように見て、1つ目の注意点に関する説明を終える、お父さん。

つい先程の、お父さんに抱き留めて助けて貰った事を思い出し、わたしは頬を染めながらも小さく頷く。

と、お父さんは2本目の指を立ててから、説明を続ける。


「それじゃあ、2つ目だ。この川の水深は見る限りだと足首位で、深い所でもヒザ位だけど、だからといって油断しないように。もし転んでパニックになってしまえば、ラナちゃんのように背の高い子でも、溺れてしまう可能性があるからね」


「はい!」


説明の途中で、チラリとラナに視線を向ける、お父さん。

ラナがしっかりと頷くと、お父さんは3本目の指を立てる。


「それじゃあ、最後だ。普段着のままのアイリスやラナちゃんは泳ぐつもりは無いんだろうけど、モモちゃんは水着だから泳ぐのかな? その場合、川が蛇行している部分を泳ぐ時は、流れが緩やかな内側を泳いでね。外側は流れが速い上に、川底が流れで削れて深くなってるから」


「はーい!」


モモちゃんが元気いっぱいに返事をして、これで川遊びの注意点に関する説明はお(しま)いだ。

お父さんは満足そうに頷くと、真剣な表情を一転。穏やかな微笑みを浮かべながら、口を開く。


「それじゃあ、難しい話はこれで終わり。恐がらせるような事を言ったけど、もし何かあったら俺やヴィヴィさん、オリースさんがちゃんと助けるからさ。安心して、思いっきり遊んでおいで」


わたし達を安心させようとしてくれたのかな? そう言って、モモちゃんとラナちゃんの頭にポンポンと手を置いていく、お父さん。

そして、最後に置いたわたしの頭だけクシャッと撫でると、お父さんは踵を返して、ヴィヴィさんやオリースさんの元へ-ーって、あれ?


(お父さん、一緒に遊んでくれないのかな?)


予定外にモモちゃんとラナが参加する事になったけれど、わたしは元々、お父さんと水遊びを楽しみたいと思っていたのだ。

お父さんが一緒じゃないと意味がないので、わたしは引き止めようと慌てて服の(すそ)を握り締める。

と、お父さんは不思議そうな表情で、わたしの方を振り返る。


「? アイリス?」


「ねえ、お父さん。お父さんも、一緒に遊ぼうよ!」


「え? でも、もしもの時に助けられるように、アイリス達を見守っておかないと…………」


と、なおも難色を示す、お父さん。


(…………仕方ない。こうなったら、奥の手だ!)


わたしは、お父さんを上目遣いに見つめると、甘えた声で別の提案を口にする。


「見守るのはヴィヴィさんとオリースさんに任せて、お父さんは一緒に遊ぼうよ! ねっ、お願い!」


「うっ…………!」


と、たじろいだ様子を見せる、お父さん。

そして、お父さんは小声で「まあ、1人位は近くに居た方が、すぐに助けられるか」と呟くと-ー


「わかった。一緒に遊ぼうか、アイリス」


と、わたしのお願いを了承してくれた。


(やった! 作戦成功!)


わたしに甘い所がある、お父さんの事だ。

こうお願いしたら、絶対にOKしてくれるだろうと思っていた。


(とはいえ、何だか騙したみたいで、罪悪感を感じちゃうな…………。ごめんなさい、お父さん)


と、わたしは心の中で謝りつつも、お願いを了承してくれたお父さんに感謝の言葉を伝える。


「ありがとう、お父さん!」


「どういたしまして。それじゃあ、ちょっと待っててね。濡れても良いように、上の服だけでも脱いじゃうから」


お父さんはそう言うと、上の服を脱ぐ為に、服の裾に手をかける。

が、汗で服が肌に張り付いているのかな? お腹の部分が(めく)れた所で、お父さんの手は止まってしまった。


「-ーあ、あれ? ん、んー!」


と、苦戦しつつも、何とか服を脱ごうと頑張っている、お父さん。

そんなお父さんには悪いのだけれど-ーわたしは、お父さんのある1点を見て、固まってしまっていた。

その1点とは-ー『腹筋』。


(こうして、お父さんの腹筋をマジマジと見るのは、わたしが引き取られた日の翌日-ー誤って、お父さんが着替え中の部屋に入ってしまった以来だけど、相変わらず凄いなぁ…………)


以前とは違い、お父さんはわたしに付き合って、毎日のようにオヤツを口にしている。

にも関わらず、お父さんは細マッチョと呼ばれる体型を維持しているし、今も服の裾から覗く腹筋は6枚に割れていた。

そのまま、ポーッと。どこか熱を帯びた視線で、お父さんの腹筋を見つめ続ける、わたし。

が、しばらくした所で、ふと気付く。


(そ、そういえば…………ここには、わたしだけじゃなくて、モモちゃんやラナも居るんだよね…………)


何だかイヤな予感を感じたわたしは、おそるおそる2人の方へと視線を向ける。

と、案の定というべきか、わたしと同じようにお父さんの腹筋に見惚れている、モモちゃん。

それどころか、こういう事に興味を示さないラナでさえ、お父さんの腹筋をチラチラと見ていて-ーむぅ。


(どうして、かな? 2人がお父さんに見惚れている姿を見ていると、何だかモヤモヤしてきちゃう…………)


お父さんは、わたしのお父さんなのに!

と、何だかイライラとしてきた、わたしは-ー


-ーグイッ!


と、気が付けば、お父さんが脱ぎかけていた服の裾を引っ張って、2人が見惚れている腹筋を隠していた。


「-ーえ? ア、アイリス?」


「やっぱり、お父さんが一緒に遊ぶのは、ダメ! モモちゃん、ラナ、行こう!」


当然のように、困惑した声を上げる、お父さん。

そんなお父さんに、わたしは一方的に(まく)し立てると、モモちゃんとラナの手を引っ張って、川へと向かって行くのだった-ー


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