表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
122/168

7月-ーアイリス。お友達と水遊び(中編1)

アイリス視点

小川の外れにある木々の中で、各々(おのおの)の川遊びの準備を終えた、あの後-ー

わたし達は来た道を引き返して、お父さんの待つ小川へと戻って来た。


(えーと、お父さんは…………あっ、居た!)


今わたし達が居る場所から、5メートルほど先の川岸。

そこに、わたし達6人が余裕を持って座れるような大きさのシートが敷かれ、その中央では今まさに、お父さんが直径1・5メートルはありそうなビーチパラソルを設置しようとしていた。

が、シートの下が小石だからかな? 遠目に、上手くパラソルが設置出来ずに手間取っている様子が見て取れた。


(お父さんの言葉に甘えて、休める場所の準備を押し付けちゃったからな。お手伝いしないと!)


そう判断したわたしは、お父さんの元へと向かって駆け出して行く。


-ーガチャガチャ!


木々がある場所の近くは普通の地面なので、走っても全く音は立たなかったけれど、小川の近くは小石ばかりだからか、走ると石同士が擦れて大きな音が鳴る。

その音に気付いたのか、わたしの方に顔を向ける、お父さん。次の瞬間、その表情が驚愕に染まった。


「ちょっと、アイリス!? こんな足場の悪い所で走ったら、危ないよ!」


「大丈夫! 前も言ったけど、わたし『ルル』の村に住んでいた頃は、こういう足場の悪い所を走り回っていたんだよ!」


「それは、普通のクツでだろう!? アイリスは今、ビーチサンダルなんだよ!」


お父さんにそう指摘されて、わたしは(いま)履いているのがビーチサンダルである事を思い出した。

けれど、お父さんの居るシートまで、もう1メートルを切っている。

その位の距離なら大丈夫だろうと、スピードを緩める事なく1歩を踏み出した、その瞬間だった-ー


-ーグラッ!


「-ーきゃっ!?」


石と石の間に大きな隙間があったのか、1歩踏み出した先にあった石が大きく前に傾き、走っていた勢いもあってか、わたしの体は前方に倒れそうになってしまう。

ゴツゴツとした無数の石が目前に迫ってくる恐怖に、わたしは短い悲鳴を上げて目を瞑る。


-ーガシャン!


1拍の間を置いて、地面を打ち付ける大きな音が聞こえてきた。

の、だけれど-ーあ、あれ?


(? 痛くない?)


それどころか、温かな感触と、どこか安心出来る(にお)いに、全身が優しく包まれているような…………。

不思議に思ったわたしは、瞑っていた瞳をおそるおそる開く。

と、目と鼻の先に、お父さんの顔が!?


「お、おお、お父さん!?」


「…………ふぅ。よかった、ギリギリ間に合った」


息がかかりそうな距離に、大好きなお父さんの顔がある。

それを認識した途端(とたん)、顔がカーッと熱くなって、わたしはワタワタと慌てふためいてしまう。

が、耳元でお父さんの安堵の声が聞こえた事で、少しだけ落ち着いたわたしは、今の状況を確認するため視線を動かす。

…………どうやら、倒れる寸前に、お父さんが抱き留めてくれたみたいだ。

わたしの小さな体は、お父さんの大きな胸の中にすっぽりと収まっていた。


「え、えっと…………ありがとう、お父さん」


「どういたしまして。それより…………よいしょ。大丈夫? 痛い所は無い、アイリス?」


お父さんに抱き締めて貰っていると意識する事で、わたしの顔が再び熱を帯びる。

それでも、何とか(かろ)うじて感謝の言葉を口にすると、お父さんはゆっくりと、わたしの体を起こす。

そして、わたしのケガの有無を確認する為か、お父さんは体を離してしまう。


「…………あっ…………」


お父さんに抱き締められている最中は、心臓がドキドキと跳ねて落ち着かなかったのに…………どうしてだろう?

お父さんの体が離れてしまうと、それはそれで名残惜しくて、わたしは無意識に声を漏らしてしまう。

それを、どこかケガしたと勘違いしたのだろう-ー


「ん? どうかした、アイリス? もしかして、やっぱり痛い所がある?」


「う、ううん! 大丈夫! お父さんが助けてくれたおかげで、どこも痛くないよ!」


「そっか。それなら、よかったよ」


心配した声音で、わたしに尋ねてくる、お父さん。

名残惜しさを感じた事に対する気恥ずかしさもあってか、わたしが慌てて訂正すると、お父さんはホッと安心した様子で顔を(ほころ)ばせる。

が、お父さんはすぐに表情を引き締めると、少しだけ腰を落とす。そうして、わたしと目と目を合わせた所で、お父さんは諭すような口調で話し始めた。


「ほら。俺の言った通りだっただろう、アイリス。こんな足場の悪い所を、ビーチサンダルなんかで走ったら、危ないよ」


「う、うん…………。ごめんなさい、お父さん」


確かに、お父さんの言う通りだ。

お父さんはちゃんと注意してくれたのに、大丈夫だろうと高を括ってしまったわたしが全面的に悪い。

なので、わたしがシュンと頭を下げると-ー


「うん。分かってくれたなら、いいんだ。アイリスにケガが無くて、よかったよ」


-ーポンポン


お父さんは、先程までの真剣な表情を一転。柔和な微笑みを浮かべてから、わたしの頭をポンポンしてくれた。


(あうぅ…………。その笑顔は、反則だよぉ…………)


怒られて落ち込んでいた所に、そんなにも優しい微笑みを見せられてしまえば、否が応でも、わたしの心は浮き足立ってしまう。

ポーッ、と。そのまま、どこか熱を帯びた視線で、お父さんを見つめていると-ー


「大丈夫か、アイ!?」


「-ーッ!?」


突然、背後から大きな声が聞こえてきて、肩を竦ませたわたしは、慌てて背後を振り返る。

と、わたしが転びそうになっているのを見て、急いで来てくれたのだろう。

わたしのすぐ後ろでは、心配そうな表情を浮かべたラナを先頭にして、モモちゃん達も近付いて来ていた。


(え、えーと…………もしかしなくても、今のお父さんとの一連のやり取り、ラナやアイちゃんに見られてたよね…………?)


わたしが転びそうになっていた所を、お父さんに助けて貰った。

ただ、それだけのはずなのに-ーどうしてかな? 不思議と、後ろ暗さを感じてしまったわたしは、慌ててラナに返事を返す。


「う、うん! 大丈夫! お父さんが助けてくれたから、ケガしてないよ!」


「そ、そうか。よかった…………。-ーあっ、シンさん。あたしも手伝いますよ」


わたしの返答を聞いて、ホッと安堵の表情を見せる、ラナ。

そして、ラナは何かに気付いた様子で、お父さんの元へと向かって行ったのだけど-ーいったい、どうしたのかな?

疑問に思ったわたしが再度振り返ると、シートの上に倒れたビーチパラソルを、お父さんが引き起こそうとしている所だった。

その光景を見て、はたと思い当たる。


(ああ、そっか。わたしが転びそうになった時に聞いた、何かが地面を打ち付けるような大きな音は、ビーチパラソルが倒れた音だったのか)


あの段階では、ビーチパラソルはしっかりと固定されていなかったからね。

わたしを助ける為にお父さんが手を離せば、倒れるのは当然の事だ。


(それなら、わたしもお手伝いしないとね!)


ラナにばかり、良い格好させられないし、と。

そう考えて、お父さんのお手伝いに向かおうとした、その瞬間だった-ー


「-ーふふっ。ねぇ、アイちゃん。シンさんの胸の中は、どうだった? 気持ちよかった?」


「~~ッ! も、もうっ! からかわないでよ、モモちゃん!」


「あははっ! ごめ~ん!」


いつの間に忍び寄って来たのだろう? わたしの耳元で、妙に色っぽい声で(ささや)く、モモちゃん。

それを受け、わたしは顔だけでなく首元まで真っ赤に染めると、お父さんのお手伝いをしようとした事も忘れ、小走りで逃げるモモちゃんを追いかけ始めるのだった-ー


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ