シンの修行① 魔法を学ぼう(中編)
シン視点
「属性魔法は、全部で6種類ある。『火』、『水』、『土』、『風』、『光』、『闇』の6属性だね。で、さっきも少し言ったけど、属性魔法は人によって適性のあるなしがある。適性の無い属性の魔法は、どれだけ努力しても習得できない」
「えーと…………属性魔法は…………全部で6種類…………『火』、『水』、『土』ーー」
と、シンの説明を、アイリスは無属性魔法の説明と同じように、律儀にメモに書いていく。
シンは、アイリスがメモを書き終わるのを待って、説明を続ける。
「どの属性に適性があるかは、個個人によって変わってくるけど、適性の数は種族によって、ある程度決まっているね。例えば、人間は1から2属性の適性を持ってる奴が多い。獣人やドワーフは、1属性。エルフは4属性が多いかな。まあ、あくまで多いってだけで、それ以上の属性を使える人も、少ないながら居るね」
「ちなみに、シンさんは何属性使えるんです?」
「俺? 俺は『水』、『土』、『風』、『光』の4属性だね」
「そんなにですか!? 多いですね!?」
シンが使える属性の数を聞いて、驚きの声を上げる、アイリス。
「まあ、自分で言うのもなんだけど、確かに人間にしては、使える属性が多いね。ちなみに、魔力量にしろ、適性の数にしろ、先天的に決まっていて、基本的に増えることは無い。だから、街の中で平和に暮らしていくなら関係無いけど、冒険者としてやっていくなら、多ければ多いほどいいだろうね」
「うー…………わたし、大丈夫かなぁ?」
シンの言葉を受け、不安そうな様子を見せる、アイリス。
アイリスが冒険者を目指す理由は、母や村の皆の命を奪った『血染めの髑髏』の連中を殺し、復讐を遂げることだ。
しかし、『血染めの髑髏』は、一流と言われるAランク冒険者が数人がかりで挑まなければ勝てない相手。
もし、自分の魔力量や適性の数が少なければ、その目標が大きく遠ざかってしまう。そう考えると、不安なのだろう。
「まあ、とりあえずアイリスの適性を調べてみよう。…………えーと、調べる道具はどこ置いてたっけ?」
(…………ああ、そうそう。たしか、『収納』の中に入れてたっけ)
そう思い出したシンは、掌を上に向け、『収納』の中から取り出したい物をイメージして、取り出すためのキーワードを唱える。
「『収納・アウト』」
そう唱えた瞬間、先程まで何も無かったはずのシンの掌の上に、直径5センチ程の、色とりどりの水晶玉が6つ現れる。がーー
「ーーおっとっと!」
1つ1つがそこそこ大きい水晶玉が、6つも掌の上に収まるはずもなく、もう片方の手を慌てて添えようとするも、間に合わず、いくつかが床に落ちてしまう。
(いかん、いかん。久しぶりに、やってしまった)
『収納』から物を取り出す時は、決まって左右どちらかの掌から出てくる。
掌に収まる物だと良いのだが、収まりない物だと、今みたいに掌からこぼれ落ちてしまうのだ。
慌ててシンが拾おうとして床にしゃがみ込むと、同じタイミングで、アイリスも動き出す。
「…………はい、シンさん」
「ありがとう。アイリス」
自分の側に転がっていた玉を1つ手に取り体を起こす。アイリスからも、1つ受け取り、テーブルに置いて、数を確認するがーー
「…………あれ? 1個足りない?」
テーブルの上に置かれた水晶玉の数は、5つ。あと、1つ足りない。
「あれー? どこいった?」
もう1度床を見るも、見当たらない。
「もしかして、ソファーの下に転がったんじゃないですか?」
アイリスはそう言うと、小柄な体を活かし、ソファー下に潜り込んでいく。
ーーって、ちょっと、ちょっと!
「…………あっ! ありましたよ、シンさん」
心配する俺を余所に、アイリスはそう言うと、ソファー下から出て来て、最後の1個の水晶玉を手渡してくれる。
「あ、ありがとう、アイリス。…………大丈夫? ソファー下、ホコリだらけだったりしない?」
「いいえ、全然。キレイでしたよ」
「そう。なら良かった」
シンの家の掃除は、週2でハウスキーパーさんがやってくれているのだが、どうやらシンの想像以上に、丁寧にやってくれているらしい。
(次、来た時に、改めてお礼を言っておこう)
シンが、そんな事を考えているとーー
「今のが、さっき言っていた、『収納』の魔法ですか?」
と、アイリスが質問をしてきた。
「ああ。そうだよ」
「突然、シンさんの掌に物が現れたんで、ビックリしましたよ。でも、想像通り便利そうな魔法ですね」
「まあね。ただ、この魔法は左右どちらかの掌からしか取り出せないからさ、気を付けないと、今みたいな事になるよ」
「あはは。そうみたいですね」
と、俺が今の失敗を自虐ネタにして注意すると、アイリスは少しの間苦笑した後、ふと疑問を投げかけてきた。
「じゃあ、もし取り出したい物が手に持てないほど大きかったり、重かった場合はどうするんですか?」
アイリスの疑問はもっともである。もしそんな物を今みたいに出したら、最悪、腕が潰れてしまう。
「そういう場合は、掌を下に向けたり、横に向ければいい。取り出すと言うより、放り出すと言った感じかな」
「ああ、なるほど。確かにそうですね」
そう言って、感心した様子を見せる、アイリス。
…………なんだか、話が『収納』の魔法の方に逸れちゃってるな。元に戻さないと。
「まあ、『収納』は後で覚えてもらうとして、今はアイリスの属性の適性を調べようか」
「あ、は、はい。そうですね」
と、緊張した面持ちを見せる、アイリス。
俺は、テーブルに置かれた水晶玉の中から、青色の水晶玉を手に取り、説明を始める。
「じゃあ、まずはこの水晶玉について説明するけど、これは属性の適性の有無を調べるための道具なんだ。赤色の水晶玉は『火』、青は『水』、茶色は『土』、緑は『風』、黄色は『光』、黒は『闇』だね。これに魔力を流して、その適性があると、水晶玉が光出すんだ。こんな感じにねーー」
そう言うと、俺は手に持っていた青色の水晶玉に魔力を流す。すると、水晶玉から淡い青色の光が放たれる。
「うわぁ、キレイですね」
水晶玉から放たれる光を見て、うっとりと表情で感想を述べる、アイリス。
そんなアイリスに悪いと思いつつ、俺は魔力を流すのを止める。光はすぐに消え、俺は次に赤色の水晶玉を手に取る。
「で、適性の無い属性だと、こんな風になんの反応も無い」
実際に魔力を流してみるが、俺に『火』属性の適性は無いため、水晶玉は何も反応しない。
「じゃあ、1つずつやってみようか。魔力の扱い方は分かるよね?」
「は、はい。大丈夫です」
『癒し』の魔法が使えるようなので、大丈夫だろうと思ったが、一応確認してみる。
アイリスは緊張した様子で頷くと、テーブルに置かれた水晶玉に、順番に魔力を流していく。
結果ーー
「どうやら、アイリスには『火』と『水』と『闇』に適性があるようだね」
赤と青と黒の水晶玉が光った。どうやら、この3属性に適性があるらしい。
「これって多い方ですよね! やった! やった!」
俺はさっき、人間は1から2つの適性を持っている事が多いと言った。アイリスが持っている適性は3属性。普通より多い。
アイリスはその結果を受けて、嬉しそうに、はしゃいでいるが、俺は素直に喜んであげることが出来なかった。と、いうのもーー
(『闇』属性に適性があるのか…………)
俺は先程、魔力量や適性の数は基本的には増えることは無いと、アイリスに言った。
『基本的には』…………つまり、増やす方法は存在しているのだ。
例えば、魔力量は、魔法をずっと使い続ければ、少しずつだが増えていく。
そして、適性の数についてだが、実は『光』と『闇』の2つの属性は、後天的に増やす事が出来る。その、増やす方法というのがーー
(『光』属性の場合、正義感などの強いプラスの感情を抱くこと。そして、『闇』属性の場合はーー怒りや憎しみといった、強いマイナスの感情を抱くことで発現する)
現に、俺も冒険者になかったばかりの頃は、『水』と『土』と『風』の3属性しか使えなかった。1年後位に、コンビを組んだ『あいつ』からその話を聞いて試した所、『光』属性が使えるようになっていた。
もちろん、先天的に『闇』の適性を持っている者は存在する。だがーー
『…………許さない。お母さんを、皆を殺した『血染めの髑髏』…………絶対に許さない』
『お母さんの、皆の仇を取る。…………『血染めの髑髏』…………殺してやる!』
昨日の、ギルドでのアイリスの様子を思い出す。
もしも、この時に抱いた怒りや憎しみの感情で、『闇』属性が使えるようになったのだとしたら…………あまりにも、あんまりじゃあないか…………。
「ーーシンさん? シーンーさーん!」
「あ、ああ、ごめん、ごめん。ちょっと考えて事してた」
大声でアイリスに呼ばれ、思考の渦から戻ってくる。
…………とりあえず、この事はアイリスには言わないでおこう。
「ねえ、シンさん。何か強い攻撃魔法教えてくださいよ」
「攻撃魔法を教えるのは良いけど、いきなり強い魔法は止めておこう。まずは、初級の魔法からね」
「…………はーい」
不承不承といった感じで頷く、アイリス。
俺は、「焦らない、焦らない」と苦笑を浮かべる。
「とりあえず、部屋の中で魔法を使うわけにいかないし、庭でやろうか」
「はーい」
こうして、俺とアイリスは、庭へと向うのだった。




