シンの修行① 魔法を学ぼう(前編)
シン視点
とりあえず、このままキッチンでする話でもないので、シンとアイリスは、リビングへ移動する。
リビングの一角には、来客対応用のスペースがある。テーブルを間に挟み、3人掛けのソファーが向かい合わせに置かれている。
まず先に、シンがソファーに腰掛ける。続いて、アイリスも座ったのだがーー
「…………いや、アイリス…………」
アイリスが座った瞬間、シンは困惑した声を上げる。アイリスは、シンの隣に座ったのだ。
(普通、こういう時、対面に座らない?)
しかも、3人掛けのソファーだというのに、アイリスはシンに密着するほどの、すぐ隣に座っている。
「? どうしました?」
困惑した表情を見せるシンを見て、アイリスは不思議そうに首をかしげる。
(いや、『どうしました?』じゃないよ! 可愛いな、こんちくしょう!)
心の中でツッコミを入れるシンだったが、後半はアイリスの可愛らしい仕草にデレデレになっていた。
半ば無意識に、シンはアイリスの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「…………わっ、わっ! シンさん、いきなり、どうしたんですか!?」
突然、頭を撫でられ、驚きの声を上げる、アイリス。だが、同時に嬉しくもあるようで、アイリスの口元には笑みが浮かんでいる。
(アイリス自身も言っていたけど、この子、本当に相当な甘えん坊なんだな)
自分にピッタリと寄り添うアイリスを見て、俺は改めて、そう認識する。
ついでに、自分がかなり甘い人間であることも、自覚するのだった。
「ーーさて、いい加減、修行を始めないとね」
「いや、突然、頭を撫で始めたのは、シンさんなんですけど…………」
ひとしきりアイリスの頭を撫でた後に、改めて、俺がそう宣言すると、アイリスは乱れた髪を整えながら、呆れたような声を上げる。
(だまらっしゃい! 引っ付いてきたアイリスが悪い!)
そう言いたかったが、場の雰囲気がまた緩んだ物になりそうだったので、自重する。
俺は、1度「コホン」と咳払いすると、真面目な表情を作り、アイリスに質問を投げかける。
「まず聞きたいんだけど、アイリスって、何か魔法は使える?」
人間を始め、エルフやドワーフなどの全ての人属は、大なり小なり、魔力を持っている。
その魔力を消費することで、魔法を使うわけだが、魔力とは目に見えないエネルギーであるためか、扱うにはちょっとしたコツがいる。
初めて魔法を学ぶ人は、このコツ掴むのに、かなりの時間をかけている。
(1度コツを掴んでしまえば、後はこっちのもんなんだが…………)
アイリスは、まだ12歳の子供だ。まだ魔法を習っていない可能性が高いと思ったのだがーー
「一応、『癒し』なら使えますよ。お母さんに教えてもらいました」
『癒し』は、シンがアイリスの傷を治すのに使った初級の回復魔法だ。軽いケガ位なら、この魔法を使えば、完治する。
分類としては、『探知』と同じく、無属性魔法に分類されるのだが…………。
「ちなみに、属性魔法の適性は分かる?」
「属性魔法の適性?」
俺がそう質問すると、アイリスは不思議そうに首をかしげる。
どうやら、母親から教わったのは、『癒し』の魔法だけで、他の魔法や、魔法の知識は教わっていないようだ。
(となると、1から説明した方が良さそうだな)
そう思った俺は、子供のアイリスでも理解出来るよう、言葉を選びに注意して、説明を始めた。
「それじゃあ、魔法について1から説明するけど、魔法は大きく別けて、無属性魔法と属性魔法の2種類がある」
「無属性魔法と属性魔法、ですか」
「そう。まず、無属性魔法から説明するね。無属性魔法は別名、生活魔法や補助魔法なんて言われている。属性魔法と違って適性は無く、誰でも習得できる」
「ふむ、ふむ。…………無属性魔法は…………適性は無く…………誰でも習得できる、と」
アイリスは、どこからかメモとペンを見つけてきたらしく、俺の説明を聞きながら、逐一メモをしている。律儀な子だ。
「ちなみに、『癒し』は無属性魔法に分類されるね。他にも、魔力を自分の周囲に飛ばして、周りにある物を探る、『探知』や、手で触れた物を魔力で作った異空間に仕舞える、『収納』なんかがあるね」
「『収納』の魔法は、かなり便利そうですね」
「だね。仕舞える量は、その人の魔力量で変わってくるけど、まあ少ない人でも、このソファー2つとテーブルを仕舞うことが出来る位は、容量があるだろうね」
「へー、凄いですねぇ」
「ちなみに、魔力が多い人だと、このリビングと同じ位の広さの異空間を作れるみたいだよ」
「えっ!? そんなにですか!?」
アイリスが驚いて、リビングの中を見回す。
この家は、前は貴族が住んでいたということもあり、普通の家と比べ、かなり大きい。
リビングも相応に広く、20人位は入れるスペースがある。高さも3メートル程あるので、ほぼ無尽蔵に物を仕舞えると言っていいだろう。
(その反応、なんか懐かしいな)
俺も、かつてコンビを組んでいた魔法を専門とする冒険者からその話を聞いた時は、アイリスと同じようなリアクションをしたものだ。
もっとも、そんなデカいスペースいるか? と、すぐに思ったが。
俺の『収納』のスペースが普通の部屋1個分位なのだか、正直それ位で充分だと思っている。
「まあ、便利な分、習得難易度も高いんだけどね。普通に覚えようと思ったら、数ヶ月はかかるだろうね」
「うっ!? そんなにですか…………」
「うん。だから、便利な割には、使える人は少ないんだ。…………でも、実はすぐに覚えられる裏ワザがあってね。それは後で教えるよ」
「本当ですか!? 楽しみにしてますね!」
習得にかかる時間を聞いた時には、その大変さに目に見えてテンションが下がったアイリスだったが、楽に覚えられる裏ワザがあるという事を教えると、途端に笑顔になり、嬉しそうにしている。
(まったく、調子の良い子だな)
アイリスの様子を見て、そんな事を思うシンだったが、その思いとは裏腹に、口元には笑みが浮かんでいる。
「それじゃあ、次は属性魔法について説明するねーー」
アイリスの様子に微笑ましいものを感じつつ、俺は続いて、属性魔法の説明を始めるのだった。




