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Dream&Devils  作者: 昼の星
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041,知人と友人の境界線、その在り処

 あの後、時刻を確認し、目覚めまでに猶予があることを知ったおれは、先輩に夢の世界のことを説明した。といっても、NPCと呼んできた、夢を認識せず、ふだんと変わらないみたいに行動している人たちのことなど、基本的なことはあまり変わらないので、どうやらそういった世界が展開しているのは学校の中だけじゃなかったらしい、という話が主となった。


「そうか、だからスミレは消えなかったんだな」


 先輩は、あの黒い刀を手にしたとき、確かに自分があの夢の世界の学校という閉鎖空間を支配していたことを実感したのだと言う。そしてタガメ先輩を解放すると同時に、校内に残っていた影響下の人たちを全て、同様に解き放ったらしい。だが、


「おまえの気配は消えなかったんだよ」


 いると知っていなければ見逃すほどの微細な感覚だそうだが、説明は難しいそうだ。

 つまり、あの夢の学校内に存在した人間の中で、おれと先輩だけが、本来この夢の世界を知覚する人間だったということか。リンドウ先輩やアガサ先輩、タガメ先輩に、五味先生までもが、イセ先輩の干渉によってこの世界を知覚していたに過ぎないのだと。

 種明かしみたいにこれまでのことを話しているうち、うっすらと空が白み始め、眠気が襲ってきた。現実世界での目覚めが近いらしいと覚った。

 おれは先輩に何と言って別れたらいいのか、迷っていた。おれは元々先輩とは顔見知りですらなかった。そして今でも、友人と呼ぶには、あまりに付き合いが短いのではないかと気後れしてしまう。結局、ただの後輩に過ぎないのでは、そんなふうに思っていた。漂う沈黙に、先輩も同じように迷っているのだと感じた。


「すみません、おれもう目が覚めるみたいです」


 そう言って、屋上に身を横たえた。見上げた空には疎らな星。空が明るくなってきたせいで、輝きの届ききらない星たちはもう目に見えなくなってしまったのだと、沈みゆく意識の中でぼんやりと思った。

 まどろみに身を任せ、知覚が途絶えようとしたとき、「またな、スミレ」と、そんなイセ先輩の声が聞こえた気がした。





 眠くて眠くて眠ったはずが、次の瞬間には目が覚めて、眠気を覚えることもない。この、夢の世界からの帰還にはいまだに慣れることがない。

 あちらの世界で何があろうと、現実に戻ればそこにあるのはただの日常であり、おれは普段どおりに支度を整え、学校に登校した。

 やがて見えてくる、学生生活二年目にしてそろそろ見慣れたと感じる校舎の姿。最近は昼も夜も学校だと、うんざりする思いで眺めることも多かった。

 おれはまっすぐに教室へ向かい、自分の席に腰を落ち着けた。やがて教員が入室し、ホームルームが始まる。

 何も変わらない。おれの日常だ。

 最後の瞬間、先輩は「またな」と言ってくれたような気がした。それに、でなくともリンドウ先輩やアガサ先輩には挨拶なりをしなくてはならないような気がしているし、五味先生のことも気にかかる。だが、一体いつ、どんなタイミングで行動を起こせば? そんなことで迷っていたのだ。

 やがて午前の授業が終了し、昼休憩の時刻となった。時間的な余裕を考えれば、いまか放課後かの二択になるだろう。

 しかし、やはり日常に埋没したおれはただの臆病者で、迷った末に鞄から弁当を取り出し、もそもそとつまみ始めた。

 そのとき、


「スミレ?」


 件の明るい男子生徒がおれの名を呼んだ。ビクつきながら顔を上げると、


「先輩が呼んでるよ」


 そう告げた男子生徒の向こう、教室の入り口あたりには、なんだか妙ににやにやとした笑顔を浮かべたリンドウ先輩の姿があった。


「昼飯いっしょに食お!」


 そんな分かりやすい言葉で連れ出された先は、例の屋上手前のスペースだった。先日も訪れたばかりの場所に、妙な懐かしささえ覚える。そこには、イセ先輩にアガサ先輩の姿があった。

 先輩たちは同じ学年でもあることだし、イセ先輩はどうやらすでに粗方の説明は済ませているようだった。


「タガメ先輩は……?」

「ちゃんと目を覚ましたってさ。登校は精密検査の結果を見て、退院してからってことらしい」


 イセ先輩の言葉に、リンドウ先輩も「あ、そうなん?」と食いついた。


「さっき連絡もらった。もうすっかり元気だと」

「へー、んじゃまあ、後は五味先生くらいか? 気になるの」

「まだ少しかかるらしいが、じきに復職すると聞いたぞ」


 リンドウ先輩の疑問に、イセ先輩が即答した。


「お、おう、そうなんか……。情報が早いな」

「朝のうちに聞いてきたからな」


 何気ない調子で先輩はそう言った。


「てかスミレ、弁当派だったんだな」

「あ、でもほとんど昨夜の残り物詰めただけですけど……」

「は? 自分で作ってんの? すげーな」

「あんたもちょっと見習ったら?」


 自身も手作りの弁当を食べながらアガサ先輩が言った。


「あ? そーいうおまえだってそれ別に自分で作ったわけじゃねんだろ?」

「う……、うっさいな、手伝ったりしてるし。たまには……」


 語気の削げた後半を耳聡く聞き取ったリンドウ先輩はなおもアガサ先輩に絡んでいった。

 こんなふうに集まって昼食を共にすることは、おそらくはもうないだろう。あるとして、せいぜいタガメ先輩が登校してきたときにあるかどうか。いくら異常ともいえる体験を共にしたとはいっても、そんなごく短い時間で培われるものが、はたしてどれだけあるというのか。おれはやっぱり蚊帳の外で、先輩たちのやり取りを眺めていた。寂しさがないと言えば嘘になる。自分もあの輪の中に混じっていければと、思わないわけじゃない。でも、こうして見ていることも、苦手ではあっても、決して嫌いではない。

 あの日、絶望に飲まれていたおれの目の前に現れた第3のヒーロー、伊瀬鷹明センパイが笑っていた。

 ひとまずここで区切りとなります。お付き合いくださいまして、ありがとうございました。


 こういうことを言うのはあまり良くないことなのかもしれませんが、この話はあんまりうまくいかなかったなぁというのが正直なところです。特に後半は書いていて苦しくて、何度か書き直したりもしました。そんなお話でしたが、少しでもお楽しみいただけたのであれば幸いです。


 それでは失礼いたします。縁がありましたら、またいずれ。

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