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Dream&Devils  作者: 昼の星
26/42

025,ダンジョン

「……もうあの女子生徒も生徒会室にはいないかもしれないし、この世界に来ていない生徒を確認する線もあるか。そういえば三年生はどうだったんだ?」

「あと一クラス残して二人確認したよ。私たちの記憶ではどっちも現実であんまり学校に来てなかった先輩だった。まぁ三年のことなんてそんなに詳しく知らないけどさ」

「ひとりはあれだろ? あの、なんつーかあんまいい話聞かなかった先輩」


 うなずきを返すアガサ先輩。


「そういえば教師のほうは?」

「悪い、確認できていない」


 リンドウ先輩がひらひらと手を振りながら、「サトウのこと助けてたんだろ? しゃーねえしゃーねえ」とおどけてみせる。


「じゃあそっちから確認するのもアリかな? 五味のこともあるし」

「そう、だな……」


 方針が決まったようで、先輩たちは廊下を引き返して階下へ向かった。当然、おれもついていく。

 先輩たちの会話を聞くなかで気づいたことがあった。それはおれの素性がまだバレていなかったのだということ。五味先生やタガメ先輩に名乗ったことで、すっかりセンパイ方全員に素性は知られてしまったのだと思いこんでいたみたいだ。

 職員室までは何事もなくたどりつけた。しかし、


「またこれかよ。もしかして全部こうなってんのかね?」


 リンドウ先輩はいかにもうんざりといった様子でおおげさに肩を落とした。ほかのふたりも気持ちは同じだったようで、とくに咎めたりはしない。


「いくしかないな」


 腕に纏わせた青いもやを振り払うようにして刀を手にしたイセ先輩。リンドウ先輩やアガサ先輩も同じようにしてそれぞれ槍と銃を手にしていた。ちなみにもやの色もそれぞれ違っていて、リンドウ先輩は赤、アガサ先輩は灰色っぽいもやだった。

 それぞれが武器を手に、職員室へつながっていたはずの扉をくぐっていく。おれは心臓が保つぎりぎりの距離まで近づいて待ち、なんとか三人に続いて扉のなかに入りこんだ。おれが滑りこむのとほとんど同時に扉は勝手に閉まり、危うく髪の毛やスカートの裾を挟まれるところだった。どうやら扉は勝手に閉まるらしい。最後に入室したアガサ先輩の背中が目の前の通路の先にあり、すこし離れている。もし扉が閉まるまでに入室できなければ、保健室のときのようになにごともなく職員室に行けたのかもしれない。最終的に先輩たちと合流できるのならそれでもいいような気がしたが、校内がどうなっているのかいまいちわからない現状、ついていきたいのなら離れないほうが無難そうではある。

 それにしてもここはいったいどこなのだろうか。窓のない学校の廊下めいた通路だが、それなりに広い幅に高さもあり、おまけに遊園地などのレジャー施設にある迷路のように道が折れたり、分かれていたりしている。

 窓がないため明かりは当然、天井に設置されている電灯が頼りなのだが、それがところどころで切れ掛かっているかのように点滅していてどことなく不気味な雰囲気だ。すでにLED照明に交換されている現実の校舎の電灯がこんなふうに点滅するようになるのはいったいいつごろのことになるだろう。そこだけを見てもやはり現実とはちがう、夢の世界なのだと感じた。

 そしてなにより異世界的なのは、この迷路に入ってから度々先輩たちに襲い掛かってきている化け物の存在だろう。


「せい!」


 リンドウ先輩はまるで投合でもするみたいに槍を突き出し、件の布オバケを貫いていた。


「おーらよっと!」


 そのまま穂先とは反対の、石突のある側を握って槍を持ち上げ、オバケを下から上に向かって切り裂いていた。いつか校舎の裏手で見たのと同様に、切り裂かれたオバケの中から黒い塊がはじけ飛び、霧散していく。

 出てくるのは何も、もはや馴染み深さすら感じる――といっても、呑みこまれたときのことを思えば決して親しみは覚えない――オバケだけではない。ほかにも、小人、というには少し人間味に乏しく、マスコットの人形かなにかのようでもある小さな剣や槍を携えた小型の化け物や、大型のコウモリのような化け物、そしてどちらかというとリアル志向なスライムまで様々な化け物が出没していた。ファミレスで分かれる寸前にシュウゴさんが言っていた「モンスター」とは、こういったものだったのかもしれない。たしかに、当時の透明化すら会得していないおれがこんなものと出会っていたら、かんたんに殺されていたかもしれない。夢での死の先がどうなるかはわからないが、どうせロクなものではあるまい。

 先輩たちについて歩くうち、おれはイセ先輩の「ダンジョン化している」という言葉を思い返していた。たしかにこれはもうダンジョンといって差し支えないのではないだろうか。なぜ校内のあり得べからざる空間にそんなものが接続されている、もしくは生成されているのかは不明だが、先輩たちの様子からして、これを突破すれば本来接続されているはずの場所にたどり着けるらしい。今回でいえば、それは職員室だ。


「あー……どっち行く?」


 とある分かれ道で、それまで先頭に立ってずんずん歩いていたリンドウ先輩が振り返った。


「てかさ、あんたいままでの道とかちゃんと覚えてんの?」


 これまでにもいくつか分かれ道はあったが、リンドウ先輩はとくに迷うことなく進んでいた。


「いや、全然」


 あっけらかんとしたリンドウ先輩にこれみよがしにため息をつくアガサ先輩。


「まぁそんなことだろうと思ってたけど」

「んじゃおまえ覚えてんの?」


 じっとりとしたリンドウ先輩の視線に、アガサ先輩は微妙に頬を赤らめて顔を逸らしていた。


「……まぁここはこれまでのダンジョンに比べても複雑みたいだから、多少迷うのはしょうがない。今度からはマッピングの用意をしたほうがいいかもしれないな」


 マッピングは大雑把に言えば地図を描くという感じか。昔のゲームなんかでは自前で用意した方眼紙に一マス一マス地図を書きこんだりしたそうだが、実際このダンジョンめいたエリアでは必要な作業かもしれない。ひとしきり歩いた感じでは、このエリアはそういった昔ながらのRPGよろしく、やけに直線的な構成のように見えたので、方眼紙などによるマッピングは有効な手立てに思われた。


「ここからはおれが先を歩くか」


 イセ先輩の申し出に、「さんせー」と軽い調子でついていくアガサ先輩。リンドウ先輩も、


「べつに不満なんかねーけど、アガサに言われるとなんか腹立つわ」

 などと言いながらも、べつだん気にした様子も見せずに最後尾について歩き出した。

「ん……」

「あ、扉じゃーん。やっと職員室到着かね?」


 分かれ道を進んだ通路の先に、学校の廊下にあるような引き戸があった。見た目は現実の学校にあるものそのままだが、上部に嵌めこまれているガラスは不透明になっていて、向こう側を見通すことはできなくなっている。

 イセ先輩が先頭に立って扉を開くと、中はどこかの教室のような広い空間に通じていた。だが教師たちの机も、生徒たちの机や椅子も存在しない、がらんどうの教室だ。


「職員室じゃねえな」


 リンドウ先輩に続いておれが入室すると、扉はひとりでに閉じられた。

 一見したところ何もないただの教室。ただし、おれたちが入ってきた側も、そして対角側も、どちらもが廊下に面したようにつくりになっていて窓がなく、ふだん出入りしている教室よりも閉塞感が強い。


「なにここ? なんか不気味じゃない?」


 声には出せないが、おれはアガサ先輩に賛同した。夢の世界とはいえ、これまで歩き回ってきた学校内の様子は、現実そのままといっていい五感もあわせて、まさしく現実に存在する校内の雰囲気そのままだった。現実で授業中に廊下を歩き回ったことは数えるほどしかないが、それでも”授業の行われているときの学校の廊下”という、現実にも存在する空気感からは逸脱していなかった。だが、ダンジョンに入ってからは違った。見た目は学校のそれであるのに、明らかに空気がちがう。授業中の静謐な雰囲気とはちがう、異質な静寂が漂っていたのだ。それが教室という場に立つにあたり、強調されたのかもしれない。斜陽に照らされた無人の教室を見るのともまたちがう、異質な空気が教室内を支配していた。


「おい、なんか臭わねーか?」


 リンドウ先輩が腕で鼻を塞いだ瞬間、天井の電灯がいっせいに点滅し始めた。


「なになになに!?」


 とたんにホラーな様相を呈した教室に、おれは思わずしゃがみこんでしまった。先輩たちは三人とも武器を手にしてあたりに視線を走らせている。


「お、おい、おれを盾にすんなよ!」

「盾にもなんなかったらなんのための図体なのよ!」


 ぎゃあぎゃあ喚きあっている二人をよそに、ひとり視線を走らせていたイセ先輩がある一点に視線を留めた。


「おい注意しろ、なにか出るぞ!」


 先輩の視線の先、現実の教室であればベランダにつづく扉のある、おれたちが入室してきたのとはちょうど対角に当たる位置で、保健室で五味先生に纏わりついていたような真っ黒なもやがいつのまにか集まっていた。

 バンバンバン!

 次第に耳慣れてきた銃声が突然に鳴り響いた。


「おいなにいきなり撃ってんだよ!」

「はぁ!? いやだってあれどう見たってなんか敵でしょ!?」

「いやだとしても、出てくるまで待つだろフツー!」

「どこの世界のふつうよそんなの! 敵が出てくるまで待つとか馬鹿じゃないの!」


 そう言ってアガサ先輩はガンガン銃を撃ちまくる。

 個人的にはリンドウ先輩の言うこともわかる。しかし現実に脅威が迫っている今、アガサ先輩の言い分は正しいような気がした。

 なんだか寂しい気持ちで文字通りバンバン銃弾が撃ちこまれている黒いもやを見ていると、「キャン!」という甲高い犬の悲鳴が聞こえ、もやの向こう側に何かが飛び出した。

 おれは一瞬、白くて小さくてふわふわの小型犬の姿を幻視したが、教室の床に転がっていたのは全身が灰色をした中型犬だった。

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