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Selfish  作者: greed green/見鳥望
矢下 景
7/28

(2)

 初めてヘイリーの歌声を聴いた時、これが神の啓示なのだと思った。

 もともと音楽は好きだった。両親がそうだった事もあり、家にいる時には常にどこかの誰かの音楽が生活を彩るBGMとしてオーディオ機器から垂れ流されている、そんな家庭だった。


「世界は音楽で輝くものなの」


 母は音楽の道へ歩んだわけではなく、何か楽器を演奏出来るわけでもなかったが、楽器を触らない代わりにか、音楽への愛をパンパンに頭と心に詰め込んで生きているような人だった。

 父も音楽への情熱は母に負けず劣らずだが、加えてギターが弾ける人だった。学生時代にはバンドを組んでたりもしたのだそうで、ライブの時の写真を見せてもらった事もあった。正直言って古臭くて格好もダサかったけど、切り取られた一瞬の場面だけでも、ライブに籠った熱量はしっかりと伝わってきた。


 音楽は身近なもので、必然と私にとっても不可欠なものだった。音楽にまみれる事で、逆に娘が音楽嫌いになってしまうんじゃないかと両親は心配していたが、そんな二人の音楽愛はちゃんと私にも受け継がれた。

 小学生の頃までは親の持っているCDを聴くぐらいだったが、中学生になり、レンタルショップに一人で出入りするようになったあたりから貪るようにCDを借りるようになり、私はいろんな音楽に触れた。そして私はその中でもロックに傾倒していく。激しいバンドサウンドを聴くと、その瞬間世界から自分という存在が分断され、音の洪水へと埋もれていった。頭も心もぐちゃぐちゃにかき乱されていく感覚はトリップするかのような危険な感覚でもあったが、それがたまらなく気持ちよかった。


 そして高校生の時、私はヘイリーと出会った。

 それまで邦楽中心だったが、幅を広げ洋楽にまで手を出すようになり始めていた。そこで出会ったのがParamoreパラモアだった。

 アメリカのロックバンドで、ボーカルを務めているのがヘイリーだった。たまたま手に取たアルバムは私のその後を決めてしまうほどの衝撃を与えた。

 Misery Business。私に鮮烈な一撃を食らわしたA級戦犯の一曲。自分とさほど歳も変わらない女の子であるヘイリーのパワフルな歌声と骨太なバンドサウンド。曲にやられ、更にPVを見て私はいよいよ取り返しのつかないレベルで完全に彼女の虜になった。


『だってこれってホント、ホントいい気分だから』

  

 歌い上げる彼女は、こんなにも可愛らしいのに歌声はとても力強くて、自信に満ち溢れていて。この世界のくだらない部分をすべてなぎ倒して足蹴にしてしまう程の勢いに私はただただ圧倒された。

 音楽の素晴らしさは知っているつもりだった。

 とんでもない。まだまだ私は小さい世界で生きていた。世界のスケールをまざまざと見せつけられ、私は一瞬で彼女たちにTKOを取られてしまった。


 世界は音楽で輝くもの。


 その瞬間、確かに世界の輝きが変わった。

 そしてそれは私自身の変化でもあった。


 輝きを与える側にいきたい。そう思った瞬間でもあった。





 夢と志は十分だった。ずっとその勢いのまま走り続ける、続けられると思って歌い続けた。

 でもあの頃の自信と気力は、最初から嘘だったかのように消失していた。


『私、もう』


 一人で抱えきれない何かがある時、人は結局人にすがりたくなる。

 でも、携帯に打つ文字がぴたりと止まった。

 打ってしまっていいのか。いつもとは違うのだ。軽々しく打っていい内容ではない。これをあなたにまで抱えさせていいのかと辛くなる。

 それでも、それでもやっぱりあなたしかいない。

 それでも駄目なら終わらせるだけだ。


『会えないかな』


 迷惑極まりない私からのSOS。


『いつ会えますか?』


 式部友香梨しきべゆかりから返信が来たのは、送信してからものの十秒程度だった。


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