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Selfish  作者: greed green/見鳥望
工藤瑞枝
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(4)

「おもしろいか、おもしろくないか。人間関係の判断基準なんてそんなもんでしょ」


 会社での飲み会。私の嫌いなイベントの一つ。形式ばってかたっ苦しくて、何も面白くないし誰も望んでいない空気。その癖「みんなの気持ちを一つに」なんて名目で、このイベントがいかに大事かを上司たちはのたまう。

 気持ちを一つにしたいのなら、部下たちの意見を取り入れて、こんなくだらないイベントをまずやめればいい。そう思っても直接それをぶつけるものなど当然いない。だから私は、被害を最小限に抑える為に、自分に近しい同志のような存在達とテーブルを囲う。そしてそこにはたいがい、安藤君がいる。


「こりゃまた乱暴な持論だな安藤」


 私と同期の男性社員である神城がアルコールで上気した赤ら顔で安藤君と向き合っている。でも神城は決して安藤君の意見に否定的ではない様子だった。にやついた頬がその証拠だ。


「だって、人が人に興味を持つ理由なんて、おもしろいからだけでしょ? おもしろくない人間とわざわざ一緒にいる必要なんてないじゃないですか」

「うわー辛辣―!」


 安藤君の横に座る彼の同期の女性社員の瀧ちゃんは大げさに自分の顔を掌で抑えながら絶望を表現して見せるが、ひょうきんな彼女にとってはまるで必要のない心配だし絶望もいらないし、本当に絶望していればこんな反応はしないから、やっぱり彼女はおもしろいという点に関して心配などしていないのだろう。

 しかしそうなると、安藤君の持論でいけば私は不合格だろう。そんなふうに思っていると、


「いやいや、ここにいる三人は全員問題なしだから」


 と、きっぱり言い切ってしまう。


「え、私も?」


 意外な答えに私は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。


「何言ってんすか工藤さん。俺結構工藤さん好きですよ」


 なんて言うもんだから思わずドキっとしてしまうが、もちろんそんな意味ではない事をすぐに理解する。


「きゃー! 安藤大胆すぎー!」

「よし、工藤。結婚式はいつだ?」

「しないわよ!」

「しないですよねーやっぱり」


 くだらないけど心地いい。だからいつも私はこの場でひと時の安心を得る。


「工藤さん、俺と結構似てますからね」


 どこがだ。

 その時の疑問は解消されずに終わり今に至るが、直感で感じるものは確かに私にもあった。

 誰からも好かれ、ひょうひょうと生き抜く安藤君。人を見ず、人の生み出す空気だけを見て、それに合わせて生きてきた私。比べると圧倒的に違うし、私という人間がいかにくだらないかを強調させてるだけにも見える。

 でも、何故だか彼にシンパシーを感じる自分がいた。

 特に今、私の横にいる安藤君を見て、私は改めて強くそう思っていた。


「やっぱり変だわ、あんた」

「ですかね」


 今彼の目の前で飛び降りたとしても、彼はきっと驚かない。仕方ないで済ませられるのだろう。だったら私ははじめから、彼に邪魔などされていない。


「死ぬ前に、聞いていい?」

「どうぞ」

「私の死を止める権利なんてないって、どういう意味?」

「答えた方がいいすか?」

「もやもやして死ねない」

「そりゃいけないっすね」


 責めてるわけではない。単純にその思考の意味が私には掴めなかったから。


「俺の人間関係の判断基準は、おもしろいかおもしろくないか、ただそれだけなんです」

「その話覚えてる」

「良かった。とにかくほんと、それだけなんですよ。それ以上の興味がないんです。男とか、女とか、趣味とか嗜好とか、どうだっていいんです。そいつがおもしろけりゃ、俺は話したいと思うし、ずっと関わり続けたいって思うんです」

「やっぱり乱暴だけど、分かる気はする」

「似てますからね、俺と工藤さん」

「そこは疑問だけどね」

「そうですか? だって工藤さん、何も信用していないし、人に興味ないでしょ?」


 思いのほか、ぐさっと来た。こうもはっきりと人に言われたのは初めてだったかもしれない。


「どうでもいいんですよ、たいがいが。自分が楽しけりゃそれでいい。だから楽しいと思える人としか、俺はいたくないんです。だから俺は力を入れたくないんです。面白くない人と一緒にいる時まで、わざわざ言葉や時間を消費したりしたくなんてないんです」

「清々しいね」

「面倒なのが苦手なんです」


 そう言いながらも、彼は難なく人と接する事が出来ている。でもそれは、本人にとっては私が思うよりずっと苦痛なものなのかもしれない。外側からじゃわからない、彼だけの苦労があるのかもしれない。


「俺も同じようなもんなんですよ。人に深い興味なんてないです。だからそんな奴がですよ、死ぬかもしれないって人に踏み込んで言える言葉なんてないんですよ。それだけの判断基準で人を見ている人間が、そんな偉そうな事は言えない。だから、俺は全力で工藤さんの死を止める事は出来ないんです。何か理由があって、工藤さんは死ぬわけですから。それは、工藤さんにとって必要な事なんでしょ?」


 必要な事。というより、それが分からないから私は死を選ぼうとしている。

 安藤君の言葉は一見すればひどく、そして寂しいものだ。でも私は彼の言葉をそんな風には思わなかった。何故なら、逆の立場なら私もきっと同じだからだ。


「すんません、がっつり邪魔しちゃって」

「いいよ別に。最後に安藤君の話が聞けて良かったわ」

「自分の中じゃ最高に面白くない話でしたけど」

「面白くは、なかったかもね」

「辛辣だなー」


 私も安藤君も笑顔だった。自殺する前の空気にしてはあまりにあっけらかんとして、朗らかだ。


「私ちゃんと死ねるかな」

「いやーほんと邪魔してすんません」


 安藤君が襟足をぽりぽりとかいた。


「すんませんと思いながらも、もうちょっと邪魔していいすか?」

「何よそれ。邪魔されていい事なんてないわよ」

「まあまあ、せっかくなんで、ついでで」

 

 ぽりぽりぽりぽり。

 何がせっかくだ。あんた今度は何を言うつもりなのよ。


「一応言っときますけど、今から言う事は工藤さんの為に言うわけじゃないです。工藤さんにとっては邪魔でしかない言葉です。これはあくまで、俺自身の為に言うだけですから」

「何よもったいぶって。さっさと言いなさいよ」


 すうっと安藤君は大きく息を吸い込んだ。


「ぶはーっ!」


 そして吸い込んだ以上の空気を吐き出した。


「工藤さん」


 安藤君の目は、真剣そのものだった。


「死なないで下さいよ」


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