ぐちゃぐちゃ
逃げても逃げてもついてくる彼女を初めて正面から見据える。彼女はモナリザのような顔をしていた。
「たとえば願いがなんでも叶うなら? 私あなたが望むことなら何でもしてあげる」
「気持ちの悪いストーカー女」
吐き捨てた僕の言葉なんか聞こえなかったみたいに、彼女はさっきと同じ台詞を繰り返した。「あなたのことを愛しているから」さらに気色悪い言葉を付け加えて。気が狂いそうだ。
「全部ぐちゃぐちゃにしたい」
叶わないならば何を答えたっていいだろう。そんな軽い気持ち。目の前の彼女は頷いた。分かった。あなたが望んだものはなんだってぐちゃぐちゃになる。私あなたの願いなら全部叶えてあげるから。彼女の笑顔があまりにも恐ろしくて僕は目を閉じて願った。彼女がぐちゃぐちゃになりますように。僕の前に二度とその笑い顔を見せないでくれ。
目を開けると目の前にはぐちゃぐちゃになった彼女がいた。一瞬驚く、がすぐに思い直す。当たり前だ彼女は僕の願いなら全部叶えてくれるのだから。家に帰る。玄関を開くと母親が出かける準備をしている。母親が口を開く前にそっと願う。一瞬で彼女は肉塊となった。父親についても願う。目の前にいなくても大丈夫なのだろうか。大丈夫。僕の願いなのだから。外に出る。目があった人々を続けざまにぐちゃぐちゃにする。楽しい。悲鳴が上がる。不快。考える間もなく静かになる。
どれだけ歩いただろうか。畑。そこには掘り起こされた土。新しい芽がある。そしてほりおこされたのだろうモグラが一匹、二匹転がっている。醜い。一匹をぐちゃぐちゃにする。もう一匹もぐちゃぐちゃにしたい。とともに石を手に握る。
ぐちゃ
石がモグラに突き刺さる。手に嫌な感触が広がる。今までつぶしてきた肉塊が脳裏に浮かぶ。こうやってつぶされたのか。彼女は僕に何をさせたかったのか。分からない。もう一度腕を振り上げモグラの脳天をかち割る。