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第5章 帰還

 ――フラグタルの、第肆章(だいよんしょう)からの続きです。――

         《第伍章(だいごしょう)











        【人歴(じんれき)4351年】






――3月1日――


露往霜来(ろおうそうらい)鳥飛兎走(うひとそう)烏兎怱怱(うとそうそう)一寸光陰(いっすんのこういん)光陰流水(こういんりゅうすい)光陰流転(こういんるてん)光陰如箭(こういんじょぜん)光陰矢(こういんや)(ごと)しに(とき)()ぎた。


気が付いてみると、(しん)は、ルフの所で一冬(ひとふゆ)を越していた。


そして、春の季節が(めぐ)ってきた初春(しょしゅん)(ころ)である。



――――『会者定離(えしゃじょうり)。』

出会いがあればどうであれ、必ず別れの時がくる。――――



――いよいよ(しん)は、故郷の倭国(わこく)へと帰還をする決意をして、旅立ちの時となった。


(しん)は、旅立ちの前、ルフに挨拶(あいさつ)をした。




「この半年間、大変、お世話になりました。ルフ様。」


「ご奉仕(ほうし)重畳(ちょうじょう)

good job!!

本当にご苦労様でした。(しん)。」



「はい。ルフ様。ありがとうございました。」



ルフは、何時(いつ)になく、万感(ばんかん)の思いを込めて言った。


「これで『サヨウナラ。』、とは言わないわ。(しん)

これは私からのあなたへのお礼よ。」


(しん)は、ルフから地図や、羅針盤(コンパス)や、中剣(ラージソード)のファルシオンや、エルフの鎧や、それに、銘槍(めいそう)、『グングニル』の槍と、名馬、『スレイプニル』と、驢馬(ロバ)一頭と、それと、充分(じゅうぶん)な水と食糧等(しょくりょうなど)を受け取った。



「…………またね。(しん)

こちらこそ……今まで本当にありがとう。

道に迷わない(よう)道中(どうちゅう)、気を付けてよね。」


「はい。ルフ様。

では……また何時(いつ)か。」



「バイバイ。ボンボヤージュ!!

see you again!!!!

――(しん)っ!! good lack!!!! 」


「ルフ様こそ、good lack! です!! 」


ルフは、名残惜(なごりお)しそうにして手を振った。

そして(しん)も、名残惜(なごりお)しくも馬に(また)がり、倭国(わこく)へとその方向を東雲(しののめ)に向けて、意気洋(いきよう)々と()った。


(しん)の、英姿颯爽(えいしさっそう)(たくま)しくなった(うし)ろ姿が段々と、地平線の彼方(かなた)に向かって(ちい)さくなってゆき、すると(やが)て消えた。











――4月20日――


――――雲行雨施(うんこううし)雨絲風片(うしふうへん)雨絲煙柳(うしえんりゅう)。――――


しとしとと、糸の(よう)(こま)やかなる春雨(はるさめ)と、薫風(くんぷう)(ただよ)う、微風(そよかぜ)(けむ)(たたず)まいの雨奇晴好(うきせいこう)、春の景色(ヴィジュアル)倭国(わこく)であった。


(まさ)に、


十日(とうか)の雨の糸、風片(ふうへん)(うら)濃春(のうしゅん)煙景(えんけい)残秋(ざんしゅう)に似たり。』


である。





紆余曲折(うよきょくせつ)()(しん)は、倭国(わこく)(みやこ)であり城塞都市の、『漢東(かんとう)』にある、自宅の前に着いた。

そして(しん)は、一つ深呼吸をすると、感慨(かんがい)(ぶか)げに(いえ)の扉を開いた。


「た、ただいま帰りました!! 」



――すると、(しん)の妹である、『()』、がいた。



「や、やあ。()。ただいま。」


()は、(しん)の姿を見てビックリ仰天(ぎょうてん)、一瞬だけ(かた)まり、目をまん丸にして、いきなり大声をあげた。


「お、お母さーん!!!! あ、兄貴(あにき)がっ!! 兄貴(あにき)が!! 帰ってきたよーっ!! し、(しん)兄貴(あにき)が生きてたよーっ!! お母さーんっ!!!! 」









――――「…………まったく……………………。

一年近くも前に(いくさ)に出て行ったっきり、消息(しょうそく)が知れずのなんの音沙汰(おとさた)がないんもんで、てっきり、朝国(ちょうこく)で討ち死にをしたんじゃあないかと(かあ)さん、心配をしたよ。」


(しん)(はは)、『(とく)』は、()(いき)()じりに、だがしかしとても安堵(あんど)をした表情を浮かべて言った。

そして(しん)の妹の()も――――



――――「っ本当にっ!! っ(ほん)(とう)っだよっ!! 兄貴(あにき)っ!!

(まさ)さんだけが帰ってきた以来(いらい)、お母さんと私は毎日毎日、毎時間もいつもいつも、(しん)兄貴(あにき)の事をずっとずっと心配をしていたんだからねっ!!!!


――もうっ!! お(とう)さんみたく、行方不明にならないでよねっ!!!! 」



(しん)(はは)は、涙を流していた。



「……す、すまんっ!!!! 本当にすいませんでした。

(ふくろ)()。」


(しん)只只(ただただ)、頭を下げて(あやま)り、そして(はは)()に、(こと)次第(しだい)と事情の説明をした。



――「ったく、兄貴(あにき)(なん)月間(かげつかん)もエルフ族の(オンナ)()と、なーにをしていたんだか⁉

……(れん)さんにすっごい、失礼だぞぉーっ⁉ 」


「べっ!! 別にっ! (やま)しい事なんか何一(なにひと)(ぜん)(ぜん)っ!! 残念ながら(まった)く無いからなっ!!!! ()っ!! 」



「…………(ざん)(ねん)、な、が、ら? 」


「――うっ!! うるさいっ!!!! ()っ!!

だ、だから!! そのエルフの女は女が好きなんだよっ!!

っややっこしい!!!! 」


(しん)殊更(ことさら)に、ルフとの事柄(ことがら)逐一(ちくいち)事細(ことこま)かに、妹の()には説明をした。

(ちな)みに、『(れん)』、とは、(まさ)の姉であり、(しん)の年上の彼女(カノジョ)でもある。



「……ったく、わかっているわよ! 兄貴(あにき)っ!!


――――でも、そのルフさんに、

一度、会ってみたいなぁー!! 」


「――っあーっ!!!! それはやめとけっ!! ()っ!!!! 」



(しん)の妹である、『()』、の性格は、兄の(しん)よりも、さばさばとしていて、活発(かっぱつ)快活(かいかつ)海闊天空(かいかつてんくう)雲烟過眼(うんえんかがん)天真爛漫(てんしんらんまん)所謂(いわゆる)、お転婆(てんば)()の、19歳である。

見かけは母親譲(ははおやゆず)りで、顔は丸顔。

髪の毛は紅緋色(べにひいろ)赤毛(あかげ)で、(うし)ろで2つに()けて(しば)っている。

ツインテールである。

身長は、150cm~155cm位(くらい)の、とても小柄(こがら)な体型で、特技は魔法で、『魔女(ウィッチ)』、である。

そして一応(いちおう)天然(てんねん)、というべきか、天性(てんせい)の、天賦(てんぷ)(さい)というべき格闘能力(かくとうセンス)までも()(そな)えている。

魔女(まじょ)()』、といえばとっても(ひび)きが()えるのであるがしかし、(ちまた)では()は、その魔力の苛烈(かれつ)さから、『魔法の(おに)』、『赤鬼(あかおに)』、『赤い悪魔』、の異名(いみょう)で知れ渡っていた。

()(おも)得物(えもの)は、打撃系の、棍棒(こんぼう)や、ロッドや、(スタッフ)、モーニングスター(など)である。

どうやら、()の魔法能力は母親譲(ははおやゆず)りであり、そして、(しん)の剣術は父親譲(ちちおやゆず)りの(よう)なのである。




――――(しん)は、自宅で久し振りの母親の手料理を食べ終わると、妹の()から倭国(わこく)を取り巻く(くわ)しい現在の情勢を聞いた。



倭国(わこく)は現在、女王、『火巫女(ヒミコ)』が(おさ)めている。

倭国(わこく)は、神聖ガリアニア帝国の隷属国(れいぞくこく)となる前までは、火巫女(ヒミコ)は王の(くらい)では無く、(みかど)(くらい)()いていた。

だがしかし、神聖ガリアニア帝国の隷属国(れいぞくこく)となって以来(いらい)火巫女(ヒミコ)(みかど)の地位を剥奪(はくだつ)され、王の(くらい)に格下げをさせられてしまった。

(みかど)』・『皇帝』の(くらい)を名乗る事が出来るのはこの()では唯一人(ただひとり)、神聖ガリアニア帝国の『聖帝』、『エピデスクロス三世』のみである。


倭国(わこく)は、去年の朝国(ちょうこく)と神聖ガリアニア帝国連合軍との戦争の敗戦以来(はいせんいらい)(なん)とかギリギリの外交努力によって、神聖ガリアニア帝国に対して、多大(ただい)なる貢物(みつぎもの)や、人質等(ひとじちなど)を差し出す事で(なん)とか首の皮一枚で、存続(そんぞく)をしているという状況下(じょうきょうか)であった。


そして、(しん)の親友の(まさ)はというと、一年前の夏の朝国(ちょうこく)との(いくさ)からの数少ない帰還者として(なん)とか無事(ぶじ)倭国(わこく)に帰ってきて、朝国(ちょうこく)と神聖ガリアニア帝国連合軍との(くわ)しい戦いの状況を、(しん)の母親と妹の()に知らせて、(しん)銘刀(めいとう)、『虎鉄號(こてつごう)』を(しん)の家族に届けにきてくれたというのである。


(まさ)と、その姉でもあり(しん)の彼女でもある(れん)家柄(いえがら)は、女王、火巫女(ヒミコ)の遠いい血筋(ちすじ)縁者(えんじゃ)なのであり、高貴な家柄(いえがら)なのである。


それで(まさ)(じき)々に、女王、火巫女(ヒミコ)にも、朝国(ちょうこく)と神聖ガリアニア帝国連合軍との(いくさ)の状況の報告をしたのであって、そしてそれからは、(まさ)と姉の(れん)は、女王、火巫女(ヒミコ)の、近衛兵(このえへい)の部隊に所属をして、女王の身辺警護(しんぺんけいご)の職に()いているのであった。


あと、そして、隣国(りんごく)朝国(ちょうこく)の情勢なのであるが、此方(こちら)もかなり状況が変化をした(よう)なのである。


暗愚魯鈍(あんぐろどん)朝国(ちょうこく)の王に対して、なんと、軍師であり、宰相(さいしょう)でもある、阿衡(あこう)()帷幄(いあく)(しん)の、あの、諸馬(しょば)孔達(こうたつ)が兵乱を起こして、軍の実権を完全にその手中(しゅちゅう)へと簒奪(さんだつ)をすると、朝国王(ちょうこくおう)と、その血脈(けつみゃく)一族郎党(いちぞくろうとう)や、関係者(かんけいしゃ)(もろ)々を全員処刑、根絶(ねだ)やしにして、(さら)には、朝国王(ちょうこくおう)(くみ)した街々、村々を徹底的に(すべ)て焼き討ち、大虐殺、破壊をして、禍根(かこん)(たね)、反抗の(たね)を一つ残らずに(つぶ)すという、恐怖の血の大粛清(だいしゅくせい)の嵐が朝国(ちょうこく)に巻き起こったのである。

孔達(こうたつ)による、冷酷(れいこく)冷徹(れいてつ)冷淡(れいたん)冷断(れいだん)冷血(れいけつ)鉄血(てっけつ)残忍(ざんにん)残酷(ざんこく)残虐(ざんぎゃく)な鉄拳制裁の処断によって、血という血が流されて、()(こうべ)の山、衣薪(いしん)()死屍累(ししるい)々の山が(きず)かれた。

その()朝国王(ちょうこくおう)となり()わった孔達(こうたつ)なのだが、しかし()(さま)、その王位(おうい)を神聖ガリアニア帝国にへと返上をして、そして孔達(こうたつ)は帝国より総督の地位(ちい)と、新たなる領地を与えられて、旧朝国領(きゅうちょうこくりょう)は帝国の直轄地(ちょっかつち)となり、その(よう)経緯(けいい)によって、朝国(ちょうこく)(ほろ)んだのである。






――「そうだ! 俺は()れから()ぐにでも(まさ)(れん)に会いに行くよ!! 」


(しん)は、そう妹の()に言い残すと、ルフから餞別(せんべつ)(いただ)いた銘槍(めいそう)、『グングニル』の槍を持って早速(さっそく)(まさ)(れん)が住む(いえ)へと向かった。




――――(しん)は、(まさ)(れん)(いえ)に向かう道の途中(とちゅう)に、雨がさやさやと降る街中(まちなか)で、恋人である(れん)と、ぱったりと、出合(であ)った。――――



――「あっ!! 」――



――――「え? し、(しん)⁉ 」


(れん)っ!! 」



――――「!! 」――――



「――――今から(れん)(うち)に行く所だったんだ! 」



――――「(しん)!!

(しん)無事(ぶじ)だったの!!!! 」


雨の(なか)(れん)は傘を投げ出して駆け寄り、(しん)の手をその両手で、ギュッと、包み込んだ。


(しん)の手から、ぽとり、と傘が地面に落ちた。


(れん)はそれ以上、(なに)も言わずに、只只(ただただ)、涙ぐんでいた。


――冷たい雨の(なか)(れん)の手はとても(あたた)かかった。――




(しん)の親友の(まさ)の姉でもあり、(しん)の年上の彼女(カノジョ)でもある(れん)(いえ)は、倭国(わこく)の女王、火巫女(ヒミコ)の家系に(つな)がる高貴なる血統の家柄(いえがら)であり、そして(れん)は、回復術師(ヒーラー)なのである。


(れん)の性格は、(いた)って真面目(まじめ)で、おしとやかであり、顔立ちは、明眸皓歯(めいぼうこうし)にて、とても美しく(ととの)っており、目はぱっちり二重瞼(ふたえまぶた)で、(まゆ)遠山(えんざん)(まゆ)(ごと)くであり、睫毛(まつげ)が長い。

髪の毛は腰の(あた)りまでの長さのあるストレートのロングヘアの黒墨色(くろすみいろ)である。

体型は、すらりと、細身(ほそみ)(あし)が長くて、身長は160cm前後。

(れん)のファッションセンスは、衣香襟影(いこうきんえい)

()伊達(だて)眼鏡(メガネ)なのか、()れとも、本気(ほんき)眼鏡(メガネ)なのか、一体どっちなのかは(いま)だもって(しん)にも不明なのであるのだが、(れん)はたまに、眼鏡(メガネ)をかけている時がある。

髪の毛のスタイルは、そのまま、ストレートのロングヘアスタイルとして下げている時もあれば、カチューシャをしたり、ポニーテールにしたりしてアップをしたり、三つ編みにしている時もある。

そして(れん)(おも)な服装は、こちらもかなり()え的なとても可愛(かわい)らしい、ふりふりのフリルや()ったレースのデザインのある、純白色(ホワイト)桃色(ピンク)(など)のフェミニンな服装や、黒色(ブラック)のゴシック調の服装で、ビシッと、決めている時もあるのである。


(れん)が得意とする得物(えもの)(おも)に、飛び道具系の弓や、ボウガンや、銃火器類(じゅうかきるい)である。

(おさな)い時は、(しん)()兄妹(きょうだい)と、(れん)(まさ)姉弟(しまい)(たち)の4人で、探険ごっこや、冒険ごっこや、雑魚(ザコ)モンスター退治や、秘密基地作り(など)をしてよく遊んだ。

それは()()め、何時(いつ)(しん)が勇者の役をやって、(まさ)は戦士か騎士(ナイト)の役で、(れん)は僧侶の役で、()は魔法使いの役、という王道中(おうどうちゅう)の王道のパーティーを編成して遊び、そしてそれがそのまま、(みんな)大人(おとな)となった、という感じなのである。

それと、勉学(べんがく)も、4人共々一緒の学校、一緒の私塾(しじゅく)にも(かよ)った仲でもある。





――――雨の(なか)(しばら)くの(あいだ)、手を(つな)いでいたお互いは、傘を(ひろ)った。


そして、(しん)(れん)は、近くにある(いえ)縁側(えんがわ)の屋根の下へと移動をした。




――――雨の街の通りにはこの二人以外、誰の姿も見え無くて、(いえ)の屋根の(ふち)や、雨樋(あまどい)鎖樋(くさりとい)(つた)って落ちる雫石(しずく)雨音(サウンド)が、(ひそ)やかに、ぽつぽつと、風景にとけこんでいた。――――



――そんな(なか)(しん)は、朝国(ちょうこく)での戦いの経緯(いきさつ)や、エルフ族のルフとの出来事等(できごとなど)(れん)に話した。




――――「そう。

そうだったんだ。

――でも(なに)よりも(しん)が無事に帰ってきて本当によかった。」


「心配をかけてしまってゴメン。」



(まさ)だけが(しん)(かたな)を持って(いくさ)から帰ってきた時は一瞬、ショックだったけれども――――でも私は(しん)は必ず生きているって、信じていたわ。」



「――俺も――――(れん)(まさ)や、そして家族がいたからこそ――――

――希望があったからこそ、(あきら)めないで帰ってこられたんだと思うよ。」


「――うん。」





…………そして(れん)は、(なに)かを思い出したかの様子(ようす)で、少し(あわ)てて言った。


「そうだ! (しん)

実は今、国はものすごく危機的状況なの!! 」


「え⁉ どんな感じで? 」



(つい)にとうとう、もう()ぐに帝国軍がこの国にまで()め寄せてくるのよ!! 」


「ええっ!! 本当っ⁉ 帝国軍、(みずか)らがっ⁉ 」


「――そうなのよ。

(なん)でも、あの、朝国(ちょうこく)(ほろ)ぼした、孔達(こうたつ)っていう総督が聖帝に、帷幄上奏(いあくじょうそう)をして、それで聖帝(せいてい)(みずか)らが指揮を()って、この東方(とうほう)の地域までにも帝国の力を知ら(しめ)すらしいみたいなのよ。」



「……そうか。

ガリアニア帝国の聖帝(せいてい)(じき)々に、(みずか)らが来るのか!!

それでその、孔達(こうたつ)も来るのか⁉ 」


「――ええ。総督の孔達(こうたつ)も指揮を()るみたいだそうよ。」



「……………………。」 (――――っ孔達(こうたつ)めっ!!!! )



――「それで私と(まさ)は、火巫女(ヒミコ)様の近衛兵(このえへい)部隊(ぶたい)に所属をしていて、これから私はお城へ向かう途中だったの。」



「……()(ほど)

――で、(まさ)は⁉ 」


「あ、(まさ)(すで)に先にお城へ行ったわ。」



「…………そうか……。

(れん)。ではこれを、(まさ)に渡してくれ! 」



(しん)は、一振(ひとふ)りの槍を、(れん)(たく)した。



――「(しん)。これは? 」


「ああ、それがエルフ族のルフから餞別(せんべつ)にと、(いただ)いた、『グングニル』の槍だよ。

それは(まさ)に渡してくれ。」



「――――こんな大切な槍、本当に(まさ)に渡していいの? (しん)。」


「俺がその、グングニルの槍を持っていてもどうせ宝の持ち(ぐさ)れだから、それは槍名人の(まさ)が使うのが相応(ふさわ)しいよ。」



――――「うん。わかったわ。(しん)。――――


――――本当はまだゆっくりと、(しん)と一緒に居たいのだけれども。」――――


「――わかっているよ。(れん)。」



――――「……じゃあ、私。

もうそろそろ、お城に行くね。」


「じゃあ。」



そして(れん)は、()(れん)々ながらも、傘をさして急ぎ足で、女王、火巫女(ヒミコ)がいる城へと向かって行った。











――5月8日――


神聖ガリアニア帝国軍は、倭国(わこく)領土内(りょうどない)に、侵略を開始していた。

そして神聖ガリアニア帝国軍は次々と、倭国(わこく)の城や街々を落としていって、降伏は一切(いっさい)(みと)めずに、手当たり次第(しだい)に、倭国(わこく)の将兵や民達(たみたち)(ほふ)り、帝国軍から(のが)れた倭国(わこく)難民(なんみん)(たち)は各地に散らばり、流出をしていた。


そして(つい)に神聖ガリアニア帝国軍は倭国(わこく)(みやこ)、城塞都市『漢東(かんとう)』の間近(まじか)にまで(せま)っていた。


この、倭国(わこく)の首都、漢東(かんとう)の人口、横目(おうもく)(たみ)は約20万人(まんにん)(ほど)

その(うち)軍役(ぐんえき)()ける兵力は(およ)そ、5万人(まんにん)程度(ていど)といった所である。


それに対して、神聖ガリアニア帝国の兵力はというと、聖帝エピデスクロス三世や、総督の孔達(こうたつ)らが指揮を()る主力の、帝国軍の本隊はまだ、倭国(わこく)領内(りょうない)には到着はしてはいないものの、神聖ガリアニア帝国軍の先遣部隊(せんけんぶたい)だけでも(すで)に、倭国軍(わこくぐん)の10倍の、50万という大兵力で()め寄せて来ているのである。


かの、(いにしえ)中之国(なかのくに)兵法家(へいほうか)の、孫子(そんし)兵法(へいほう)によると――


小敵(しょうてき)(けん)は、大敵(たいてき)(きん)なり。』 (謀攻篇)


――所謂(いわゆる)――


十倍の兵力差ならば包囲。

五倍の兵力差ならば攻撃。

二倍の兵力差ならば分断。

互角の兵力ならば勇戦。

劣勢ならば退却。

勝算が無ければ戦わず。

の、(かま)えで帝国軍は()め寄せててきた。




――それに対して、倭国(わこく)方側(ほうがわ)はというと…………。


……残念ながら、今の倭国(わこく)には、他国からの援軍の望みは全然無い。

そして、神聖ガリアニア帝国は、降伏も(まった)く受け入れる気はさらさら無くて、倭国(わこく)を完全に(ほろ)ぼすつもりでいる。


だがしかし、()のまま()をこ(まね)いて(なに)もせずに(ただ)()して滅亡をするか?

()れとも、一縷(いちる)希望(のぞ)みすらさえも無いのかも知れない状況なのだが、せめて、最期(さいご)(ほこ)りを見せて一矢(いっし)(むく)い、戦うのか?

の、選択で苦渋(くじゅう)の決断ながら女王(じょおう)火巫女(ヒミコ)や家臣達は、倭国(わこく)名誉(めいよ)(ほま)れと、信念をかけて戦う道を選んだ。





――――そして(しん)は、女王(じょおう)火巫女(ヒミコ)の親戚であり、火巫女(ヒミコ)の親衛隊でもある、(れん)(まさ)(かい)して、女王(じょおう)火巫女(ヒミコ)謁見(えっけん)をする事が(ゆる)されて、衣冠束帯(いかんそくたい)をただし、(じき)々に女王に具申(ぐしん)をする事となった。



――「(おそ)れながら、女王陛下に申し上げたき事がございます。」



「おお。

そなたが(まさ)(とも)に、あの一年前の(いくさ)で生きて帰ってきた、(しん)とやらか。

遠慮(えんりょ)をするでない。

そなたの作戦とやらを、わらわに申してみよ。」



女王(じょおう)火巫女(ヒミコ)左右(さゆう)には、親衛隊の、(れん)と、(まさ)が立っていた。

(しん)は、女王(じょおう)火巫女(ヒミコ)に、続けて申し()べた。


「――はは。


――――()(ほう)は、帝国軍の兵力に(くら)べますると、あまりにも寡兵(かへい)でございます。

――()れに(おそ)らく帝国軍は、我等(われら)難攻不落(なんこうふらく)漢東(かんとう)の街の城壁(じょうへき)を、()ずは包囲して、兵糧攻(ひょうろうぜ)めを(こころ)みてくるかと(ぞん)じます。

()れにまともに正面から当たるのは(おそ)れながら、()骨頂(こっちょう)かと、(ぞん)じ上げます。」



――――「…………ならば、(しん)よ。どうするのじゃ? 」


「――は。


――――孫子(そんし)(いわ)く――――


『その無備(むび)()め、その不意(ふい)()づ。』 (始計篇)


()()って不虞(ふぐ)()(もの)()つ。』 (謀攻篇)


()(まも)(もの)九地(きゅうち)(した)(かく)れ、()()むる(もの)九天(きゅうてん)(うえ)(うご)く。』 (軍形篇)


()(たたか)(もの)は、()()つべからざるを()して、()って(てき)()つべきを()つ。』 (軍形篇)


()めて(かなら)()るは、その(まも)らざる(ところ)()むればなり。』 (虚実篇)


(ひと)(およ)ばざるに(じょう)じ、(おもんぱか)らざるの(みち)()り、その(いまし)めざる(ところ)()むるなり。』 (九地篇)


()(へい)(もち)うる(もの)は、(たと)えば率然(そつぜん)(ごと)し。』 (九地篇)


『これを亡地(ぼうち)(とう)じて(しか)(のち)(そん)し、これを死地(しち)(おとしい)れて(しか)(のち)()く。』 (九地篇)――――



――――(など)とあります(よう)に、(なに)しろ、相手方(あいてがた)大軍(たいぐん)でありますので(おそ)らくは、余裕(よゆう)をみせて、()(かず)(おご)り、まずは()(ほう)を包囲をする(かま)えかと(ぞん)じますので、此処(ここ)(われ)々は、其処(そこ)につけこみまして、敵の手薄(てうす)な所を()く事、敵の意表(いひょう)()く事――――――(すなわ)ち、奇襲作戦を(こころ)みる事、ゲリラ戦を展開するべきかと、(ぞん)じ申し上げます。」



――「――()(ほど)、そうで、あるか。」



――――「はい。

それで――――聖帝、エピデスクロスの本隊が到着をするまで、(なん)とか、()ちこたえて見せます!! 」


何故(なぜ)、帝国軍の本隊を待つのじゃ? 」




――――「…………自分には、究極の(おく)()、の考えがございます! 」


「……『究極の(おく)()』――とは? 」



(しん)は、声をヒソめて言った。




――――「…………(すき)あらば――――聖帝を……『暗殺』、で、ございます。」




――「………………そうか。――そうで、あるか…………。


――――それでは、そなたに一部隊を(まか)す。

そなたは、そなたの思うがままに部隊を(ひき)いて作戦を(おこな)うがよいぞ。」


御意(ぎょい)っ!! 」



(しん)は一年前の、(たい)朝国軍(ちょうこくぐん)帝国軍(ていこくぐん)連合戦(れんごうせん)での、数少ない生き残りの一人であり、一応(いちおう)、それが実績(じっせき)、経験となり、この(たび)女王(じょおう)火巫女(ヒミコ)より(じき)々に(しん)は、倭国(わこく)軍の、遊撃部隊隊長に大抜擢(だいばってき)の任命をされた。



その遊撃部隊の隊名は――――


――王に勝利をもたらされるといわれる金色(こんじき)(とび)、『金鵄(きんし)』――


――――『金鵄隊(きんしたい)』、の部隊名を、(あた)えられた。



女王(じょおう)火巫女(ヒミコ)の横にいる(れん)は、ぱっちりと、(しん)にウインクを送り、(まさ)はコクリと、(うなず)いていた。




――――そして、女王(じょおう)火巫女(ヒミコ)は最後に言った。



「兵は国の大事(だいじ)にして、死生(しせい)の地、存亡(そんぼう)の道なり。

(さっ)せざるべからず。


…………委曲求全(いきょくきゅうぜん)

くれぐれも、可惜身命(あたらしんみょう)にな。」

      ――第陸章(だいろくしょう)へと続く――

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