第3章 青年シン
――フラグタルの、第貮章からの続きです。――
《第參章》
【地歴2014年】
――――有為転変、有為無常、栄枯転変、栄枯浮沈、栄枯窮達、栄枯盛衰、盛者必衰、易姓革命−−−−
――――往時渺茫、往事茫々――――往古来今の長い年月が過ぎ去り、戦乱の時代は今は昔。遠いい遥か彼方昔の事。
かつては、栄耀栄華の黄金時代を極めて、永久不滅、永遠不滅、永遠不変、永遠偉大、永遠無窮、永垂不朽、永劫無極かと思われた、神聖ガリアニア帝国が栄華の夢と滅び去ってからおよそ、2000年余りの時が過ぎたこの現在の世界は、一定の秩序と平和がもたらされていた。
人類にとって有害なモンスターどもは、ほぼ、駆逐をされていて、そして人類は神を忘れ、魔法の能力を忘れて久しく、円首方足、円顱方趾、人類の文明は産業革命を成して、科学の力を手に入れ、文明の利器を発展させて、科学の時代を謳歌していた。
――12月4日――
倭国改め、ここ、『日本国』の首都、東京の街の雑踏、喧騒の片隅に、青年『シン』が住んでいるアパートがあった。
青年シンの年齢は、二十歳前後。
中肉中背。
一見では、何処にでも居そうな今風な、ありふれた感じの青年である。
だがしかし、青年シンにとっては、とある、重大な悩みがあった。
シンは、所謂、ニート、『引きこもり』であったのである。
シンは、人との関わり合いによる、柵によって引き起こされる、いざこざなどがとても煩わしく、面倒臭く感じていて、有象無象の世の中が、社会が厭で厭でたまらなくて、ちょっとした厭世的な気分に、憂鬱な気分に落ち入っていて、一種の、隠遁生活を決め込んでいた。
――――シンの部屋ではテレビの映像が、無造作に、適当に、無意味に、無機質に、たれ流されていた――――
およそ、20年間も生きてきたそんなシンにとって、己の存在理由、世界の存在理由が未だに全然、全くもってわからずに理解が出来ずにいて、そして、将来、未来に対してなんの希望も目的も目標も志も見いだせずにいて、漠たる不安を抱えつつも目下、毎日のように『存在』についてを思索して悩んでいるのであった。
いや、実はいうと『思索』、などという大それたそんな大仰な、大袈裟な事などではなくて、これは只たんに、シンは引きこもりの生活なので時間がたっぷりとあり余っているからがこそが故に、余計に、自分の存在についてや、宇宙の存在についてなどに、思いを巡らせ過ぎているだけの事でしかないのかも知れないのである。
青年シンは、またいつものように、ソファーの上で仰向けで、だらりとしながら、答が出ない問いを、禅問答、一意攻苦といえば、格好のいいが、堂々巡りの考えにふけっていた。
――――(…………しかし俺は一体、なんの為に生きているんだ? )
(俺は何故、存在をしているんだろうか? )
(そしてこの宇宙は一体、なんの為に在るんだ? )
(世界は何故、存在をしているんだろうか? )
(……いや、それよりもまず先に前提として、そもそも、本当に俺は、そして世界は確かに、確実に存在を、実在を、実存をしているのであろうか? )
(ルネ・デカルトの有名な言葉、
『我思う故に我在り。』
ともあるが、しかしそれでも尚、思考をしていると思われる自分は本当に、存在をしているのかさえも、甚だしく疑問なのである。俺は完全に自分で、自己の存在に対する疑心暗鬼に落ちいってしまっているのであるのだ。)
シンは、己の存在がとても不確かで、とても漠然としていて、ふわふわ、ふらふらと、全く地に足がついておらずに、とにかくとにかく、不安で不安で仕方が、仕方がなかった。
シンはもう、何に対して不安になってしまっているのかさえもわからなくなっているほどに、不安と混乱の中に包まれて押し潰されそうにでもある。
(こんな俺は只の杞憂なのか?)
(……いや…………なんだかとても息苦しい。)
(生きていて息苦しい。)
(なんか、只、存在をしているだけでも息苦しい。)
(生きていてとても辛い。)
(存在をしていてかなり辛い。)
(これが、この辛いのが、『存在』、というヤツなのか? )
正直、シンは只ひたすらに、生きているだけでも、それだけでも、とてもかなり、しんどかった……………………。
只ひたすらに………………………………。
ひたすらに。
ひたすらに。
キツイ…………。
キツかった…………………………。
(……これが…………。これが、現実なのか……………………? )
シンは、ソファーの上で、ゴロゴロと寝返りをうった。
(……いや、話しはまた元に戻るけれども、この俺は、この世界は、本当の本当に、存在を、実在をしているのだろうか? )
(…………中之国、改め、『中華人民共和国』の古に、こんな逸話がある。
『とある人が、蝶になった夢を見て、そして目が覚めて想った。
私は果たして、蝶になった夢を見た、人間なのか?
それとも、人間になった夢を見ている、蝶であるのか? 』
……俺は眠っていてこんな経験がある。
夢の中でそこで更に眠りにつき、その中でまた夢を見て、そしてその二段階目の夢の中で更に眠って、そこでもまたまた夢を見る、という…………
………………それで、目が覚める時は、夢の中から目が覚めてもまだ夢の中でいて、そして更にそこで目が覚めてもまだまだそこは夢の中でいて、またそこで目が覚めてもまだ夢の中で…………
……と、いう、まるで夢の無限地獄を味わった事もある。
もう、こうなってしまっては、夢と現実の境界線がごちゃごちゃになってしまう………………。)
だがしかし、シンは一つ、なんだか『答え』のようなものを見つけた。
――(例えば、この世界の全てが偽物、紛い物、夢、幻であったとしても、その、『幻』、という存在が、実在をしている訳なのであるので…………
……この世界は例え、全てが幻だったとしても、何かしらこの世界は、なんらかの形で必ず、確実的に、存在をしているのであろうという事実であると思うのだ………………。)
(…………いや、待てよ。
逆に、この世界が全て幻だったとしたら、それはそれで、それが『現実』、となるのではないのか? )
――(……だがしかし、この世界は一体いつ、出来たのだろうか? )
次々に、シンの脳裏に、疑問がわいて出てくる。疑問が疑問を呼んで出てくるのである。
(現代の科学で、仮定としては、宇宙のはじまりは、約150億年前だか、200億年前だかに、ビッグバン、という出来事からはじまったそうな。)
(そのビッグバンの前の宇宙は、宇宙の全ての、物質や、エネルギーが詰め込まれている、たった一つの、一塊の状態だったそうな。)
(その一塊のものが、ビッグバンとして、弾けて宇宙が出来た、という訳なのだそうな。)
(そして宇宙は今も尚、ビッグバンから続いていて、光の速さだかで、拡がり続けているそうな。)
(……だがしかし、宇宙はこのまま永遠に、拡がり続けてしまうのだろうか?
――それとも、ある程度、宇宙は拡大をした所で、宇宙は今度は縮み、収縮をしてしまい、それでまた宇宙は元の、一塊の状態に戻って回帰をしてしまい、それからまた、宇宙は新たなビッグバンを引き起こして次の新しい宇宙がはじまる、という、永劫回帰、永遠回帰の永遠無限のループの繰り返し、なのだろうか? )
シンの頭の中はまた、雑然と、ごちゃごちゃ、ぐちゃぐちゃ、ガチャガチャとしてきた。
――ここで一旦シンはとりあえず、一息を吐き、テーブルの上に置いてあった1.5リットル入りの、気泡が抜けてしまっていて淡白な味になっている、炭酸飲料のペットボトルをラッパ飲みした。
(あ~あ。っつーか、それにしても、なんで俺は生まれて来たんだろう?
こんなに只、生きているだけでも辛い事だらけの人生なんか、俺は生きたくはねーよ。)
(……かといって、死にたくもねえし。)
(だって、死ぬのはかなり痛そうで苦しそうだし、なんといっても、死んだ後は一体、どうなるのかがわからかいのでとても不安でなんだか怖いし……。)
(……俺は死ぬ事も、生きる事さえもどちらも出来ないジレンマに落ち入ってしまっている只の、落ちこぼれの人間失格者なのか…………。)
シンは、只なんとなく、本当に只なんとなく無意味に、無下に、惰性的に生きていた。
只、『死ぬのが怖いから』、という、とても消極的な理由で生きていた。
はっきりいってシンは、積極的には生きてはいなかった。
(……別に、俺は自分で望んで好んで、此処に生まれて来た訳では無い、と思う。)
(俺は無理矢理に、強制的にこの世界に、生ませられた事について、とても憤慨をしている。)
(俺は、俺を生んだ父親や母親の、両親に対して、ムカついている。俺は、俺を生んだ両親を激しく恨んでいる。)
(そして両親はおろか、なんだか、この世界をも、この社会ですらさえも、とても憎らしく思えてくる。)
(…………あともしも……人間を創造した神……世界を創造した神という存在がいるとしたら、俺は神さえも憎む。)
(……俺は、『赤ちゃんは、愛の結晶だ。』と、いう綺麗言は大嫌いだ。)
(俺は、只たんに、雲雨巫山、男と女の性欲の捌け口の結果として生まれて来たんじゃないのか?
俺は只たんに、それだけの軽い安い存在なんじゃないのか? ……とも思うのだ。
そしてそのせいで、そいつのせいによって、この俺は、こんなにも、チマチマと、生きてもがいて、足掻いて苦しんでいる、という事に、とても腹が立ってならないのだ。)
(……と、まあ、こんな事を思っていると本当に、とてつもなく、両親に対しても、世界に対しても、自分自身に対してすらさえをも、とても激しく、激しく、怒りやら、汚らわしさみたいなものやら、疎ましさみたいなものやらが、涌いてきて、噴き出してきて、渦巻いてきて、なんとも言えない、混沌な、陰鬱な、鬱屈とした気持ちになってきて禁じえないのである。)
(俺を生んだ側はもしかしたら、どうでもいいのかも知れないのだが、しかし、生まれて来た俺の側にとってしてみれば、全くもってして、とても迷惑な話しなのである。)
シンの心の内には、両親に対して、
『この自分を生んでくれて本当にありがとう。』
などという気持ちは全然、さらさら、毛頭、これっぽっちも無いのである。
――――なんだか少し、精神的にイライラとして、倦怠な気分になってきたシンは、テーブルの上にあるチョコレート菓子をいくつかつまんで、口の中に頬張った。そして、シンの部屋でたれ流しになっているテレビ番組が、コマーシャルに移ると、シンは面倒臭そうにテレビのリモコンを手に取り、また適当にチャンネルを変えた。
(……あ~あ、なんか生きてんのがめんどクセーッ!! スッゲー、だりぃ~っ! ……逸その事、死にてーっ!! )
(………………っ死のーかな……? )
――(あ~も~っ、この先、何年、何十年間も、こんなに苦しんで生きてゆくよりかは、この際、逸その事、たったの数分間、数十分間の苦しみだけで死んでしまおうか? )
(…………そう、所謂、自殺を図ろうか?
もしかしたら、うまくゆけば、たったの数秒間で、この世とおさらばを出来るかも知れない。)
――(そう、その方が楽だ………………。楽になれる。)
(たまに、自殺を図ろうとしている人に対して説得で、
『死ぬくらいの勇気があるのなら、それを生きる事に使えっ!! 』
とか、言うような奴がいるけれども、そもそも、生きてゆく事の方が、死ぬ事よりも、よっぽど勇気や労力とかが必要……だと俺は思うのだが………………?)
――――(…………………………う~ん…………。)
(……だが、やっぱり、俺はどうしても死ぬ事が出来ない。やはりなんか、『死』の、『痛み』や、『苦しみ』、を味わいたくは無い……。)
(……でも、かといって、やっぱり、生きるのもヤダし………………。)
(…………だがしかし、いつかは『死』、というものは必ず訪れてくるのも避けられないし……。)
(……う~む。生きるか?死ぬか?
どうしようかが目下の問題だ。)
シンは、八方塞がりの状態になってしまった。
(だけどもしかし、一つ、確実に言える事は、俺はもしも、『永遠の命』を、手に入れる好機があったとしても、俺は、永遠の命、なんか選ばない、という事である。だったら、俺は、永遠に死んでいた方がまだそっちがマシである。)
(あ~あ。っつ~か、誰か、剣術の達人でもいて、その剣術の達人に、ひとおもいに、日本刀の真剣で、一刀両断のもとに、この俺の首を、介錯の、斬首でもしてもらって、一瞬の内に、なんか死にて〜な……。)
(……嗚呼…………。
……『ギロチン』でもって、一瞬で死ぬのもイイかも。)
シンはなんだか少し、うとうとと、うつらうつらと、眠たくなってきた。
(……はあ………………。
…………なんか、一瞬で全く苦しまずに、簡単に痛みも無く、楽に死ねるいい方法は無いものか…………? )
――――(とにかく、俺は只、消えて無くなりたいのだ。)
(俺の身体の細胞が一つも残らずに、跡形も無く消えてしまいたい。)
(俺の身体の細胞の分子もが一つも残らずに、消えてしまいたい。)
(俺の肉体の分子を構成をしている、原子でさえも一つも残らずに、俺は消えてしまいたい。)
(俺は、俺を構成をしている、宇宙で最も最小単位の、素粒子すらも一粒も絶対に残さずに、俺は完全完璧に消え去って無くなりたい。)
――(……いや、それどころか俺は、この世界に生まれてきた、という事、存在をしていた、という事すらも、最初から無かった事にして欲しい。俺は、俺の人生に関わってきた全ての人々の記憶からも、はじめっから、居なかった事にして、消えてしまいたい。)
――――シンは、只、只、『無』、になりたかった。
シンは、『無』、を、望んでいた。
…………すると、シンは眠気で、こくりこくりとしてきて、そしてとうとう遂にシンは、睡魔に負けてしまい、すやすやとそのままソファーの上で眠ってしまった。
テレビを点けっぱなしにして…………………………。
――――夢と現実の狭間でシンは、とある、音だか声ともつかぬものを聴いた。
――「あなたの望みは」――
――「わたしの望みである。」
――「わたしの望みは」――
――「あなたの望みである。」
――「わたしはあなたを選ぼう。」
――「わたしはすでにあなたを選んでいる」――
――第肆章へと続く――




