日常の中に
晩乃葩第二作目。
三大噺。
1、電柱
2、フライパン
3、ダイヤモンド
ある朝の五時半。耳元で携帯電話のアラームが鳴った。私は眠った脳味噌のまま携帯電話を手に取り、アラームを止め、体を起こす。寝ぼけた頭を覚ますため、カーテンを開くと、そこは一面の銀世界。しかし、これは真冬の北海道では当たり前の光景だ。今日もこの雪の中学校へ行かなければならないのかと思うと、嫌になってくる。窓から伝わってくる冷たい空気が私の頭を覚ましていく。私はカーテンを閉じ、リビングへと向かった。
まだ誰もいないリビングは、ひどく静かだ。私はダイニングテーブルについて、英単語帳を開く。ぶつぶつと唱えながらページを捲っていると、洗面所から水の流れる音が聞こえてきた。時計を見ると、六時だった。いつも母が起きてくる時間だ。
「おはよー。」
寝ぼけた様子でリビングに入ってきた母は、キッチンに立って朝食の用意を始めた。父や小学二年生の妹が起き上がってくる頃には、朝食は出来上がっていた。今日のメニューはベーコンエッグらしい。リビングに焼けたベーコンの香りが漂っていた。父は既に食卓について、新聞を読んでいる。私は立ち上がって、そのベーコンエッグがのった皿をテーブルに運んだ。父は新聞を読むのを止め、そこら辺をうろうろしていた妹も自分の席についた。
「いただきます。」
いつも通りの朝の風景だ。私が起きたときは寂しかったリビングも、今は賑わっている。私はベーコンエッグに箸を伸ばした。すると、裏側が少し焦げていることに気付く。
「あ、やっぱり気付いた? あのフライパン寿命来ちゃったみたいなのよねー。中学の帰りにでも新しいの買ってきてくれない? よろしくね。」
私は怪訝な顔をしたが、母はお構いなしだ。毎日毎日重い荷物を抱えて登下校しているというのに、これ以上荷物を増やされてたまるか。そう思ったが、そういった調理器具を売っている店が私の通学路にあることも事実だ。私は渋々その仕事を引き受けた。
今日もいつも通り中学校へ行って、授業を受けた。そしていつも通りに、同じクラスで帰宅部の綾音と一緒にとりとめのない話をしながら下校する。その途中で、私は今朝母に言いつけられたことを思い出す。
「そういえば、フライパン買って来いとか言われたっけ。」
「ふーん。じゃあ私もついていく。でももうお店通り過ぎちゃったよ?」
確かに、今ファミリーレストランが見えているということは、少し通り過ぎたところだ。私は引き返そうと、踵を返した。すると、誰かと勢いよくぶつかった。
「あ、すみません……。」
反射的に私は謝る。しかし、いつまでたっても返事がない。恐る恐る顔を上げると、そこに立っていたのは、電柱だった。私は自分の顔が熱くなっていくのを感じた。隣では、綾音は腹を抱えて笑っていた。その目には涙が浮かんでいた。
「もう、そんなに笑わないでよ恥ずかしい……っ。」
「い、いや、だってさ……。」
綾音はいつぃまでたってもひいひい言っている。私はそんな綾音を無視して、店へと急ぐ。すると綾音も、
「ちょっと待ってよー!」
とか言いながら、私の後を追って来るのだった。
無事に家に帰り着き、買って来たフライパンを調理器具の棚にしまった。一仕事終えた私は、自分の部屋に無造作にバッグを置き、リビングのテレビをつける。丁度、天気予報をやっている時間だった。天気予報士が言う。
「明日の朝は大変冷え込みます。ダイヤモンドダストが見られるかも知れませんね。」
ダイヤモンドダスト。その天気予報士が言うには、よく晴れた、物凄く冷える朝には、ダイヤモンドダストが見られることがあるそうだ。今まで特に気にしたことは無かったし、今もそうだ。バッグを開けて、宿題でもある日記帳を取り出す。取り立てて書くことも無かったため、私はそのダイヤモンドダストについて書くことにした。いつも書くことがなくて困っていたが、今日は運が良かった。そう思いながら、日記帳にこう記した。
“明日はダイヤモンドダストが見られるかも知れない。楽しみだ。”
勿論本当はどうでも良かったのだが、こんなもの、適当に書いておけばいいだろう。私は日記帳を雑に閉じた。
翌朝。私はいつも通りの時間に目を覚ました。そして、カーテンを開く。そのとき、私は目を瞠った。美しく輝くダイヤモンドダスト。これ程綺麗なものなのか。素直に驚いた。見られると言っても、気付くか気付かないか程度のものだと思っていた。私はその後も暫く眺めていた。日常の中でも、ちょっとした特別があるものなんだな、なんて考えながら、私は静かにカーテンを閉じた。いつも通り起き上がってきた家族にも綾音にも、
「何かあったの?」
と言われた。私は、いつもよりほんの少しだけ高いトーンで
「別に。」
と答えた。その日私は、いつもよりちょっぴり特別な気分で、学校へ向かった。
三大噺、やってみました。フライパン超鬼畜モード也。
頑張ったんですよ、これでも。
許して下さいね。
7/18 誤字修正しました。




