第3話 ここはどこだ?
次々いくよ第3話!
「ここはどこだ?」
気がついた時、俺は見たことも無い木々が生い茂る不思議な森で倒れていた。
どこの森だ?
森のフィールドは今までに色々行っているが、多分ここには来たことが無い。
試しに、【ビキナー】のマスタースキル『現在地・取得(M)』を使ってみる。
世界:????
国:????
地名:????
「やっぱり来たことはないか」
このスキルを使えば知っている地名が表示される。
つまり、????と表示されているということは知らないという事だ。
国や地名はともかく世界まで????なのは少しおかしい。
通常の移動手段なら、移動先として世界:○○、国:○○と示されるのは当然として。
ランダム転移やトラブル系のイベント、例えば移動手段の不具合などで移動する場合でも。
世界名だけは世界間を移動した時に表示されるのだ。
「これはバグにでも遭遇したか」
う~ん、バグとすると何が原因だ?
飛ばされる前は何をしていたんだっけ?
…………。
……。
ああ、レアモンスターをテイムにしてる途中だったんだ。
って、ちょっとまて、もしかして、バグで失敗なのか?
飛ばされたことよりもそっちの方がショックだぞ!
あの子悪魔モンスターはどこだ?
捕縛できてないのか!?
周りを探してみるがあのモンスターの陰も形も無い。
そんなばかな!
どれだけの散財したと思ってる!
責任者出て来い!
ひとしきり心の中で罵詈雑言を叫んだあと、今回の被害についてはいったん忘れることにする。
少なくとも、文句を言うなり抗議をするなりは町などについてからでいい。
ここは未知の場所だ、どんなモンスターやトラップが在るかもわからない。
この上デスペナでも食らおうものなら目も当てられない。
まずは安全の確保を優先しよう。
まずはアイテムの確認だ。
特に無くなったりしてるものは無い。
まあ、触媒として色々使いまくったから残り少なくはなっているが……。
装備と回復薬には問題が無い。
魔法やスキルも一部の触媒を使うものでなければ普通に使える。
ひとつ問題があるとすれば食料か所持品の中には一応入れているが2~3日分といった所か。
まあ、あのダンジョンは何度ももぐっているのでそこまで準備はしてなかったのだ。
普段であればアイテム倉庫にアクセスする所なのだが……。
何処に飛ばされたか解からない現状ではそれもうまくいかない。
ホームタウンに戻ったら設定のしなおしが必要かもしれないな。
現状はまず食料の調達もしくは、街への到達が最優先だな。
あとは……。
何が起こったのかを考えておく方がいいのか?
探索途中でまた飛ばされたりしたらそれこそ食料が不足する。
回復アイテムだってあると言っても潤沢とはいえない。
長期間補給なしで戦える準備は出来ていないのだ。
う~ん、バグだとしたら……。
やっぱりあれか?
『クリエーターズ・バグ』
このWMO特有のバグをあらわす造語だ。
世界そのものから職業やスキル、魔法はては、モンスターまでユーザーが作り出すことが出来るこの世界だから起きるバグ。
このバグを説明するのにすごい有名な話がある。
”矛盾”この言葉はだれもが聞いたことがあるだろう。
商人の売ってる最強の矛と最強の盾を戦わせたらどうなるかと言う故事からくる熟語だ。
『クリエーターズ・バグ』の説明はこの故事がそのまま引用される。
つまり、最強の矛と最強の盾を最強の攻撃スキルと最強の防御スキルに読み変えるのだ。
防御無視の攻撃スキルと絶対防御の防御スキルぶつけたらどうなるか?
この世界の答えは”バグる”だ。
まあ、この例のバグは、もうすでに塞がれていて今はおきる事は無いが、まれにスキルなどの組み合わせで、矛盾を引き起こす状況が発生する事があるのだ。
う~ん今回だと、大量のバフの競合かレアモンスターの何らかの特殊効果との矛盾といった所か。
となると、現状では心配はしなくて大丈夫そうだな……。
他のバグの可能性も考えるがそっちはまったく解からない。
ここの運営はバグを意欲的に潰すので(バグ報告で報奨金すらでる)めったに遭遇しないのだ、唯一の例外が『クリエーターズ・バグ』だ。
たとえ遭遇したとしてもその原因を追究するのはまず無理だ。
あとは……他の可能性としたら何かあるだろうか?
う~ん……。
まったく逆の発想で、今回の件がバグで無いとするならば……。
あのレアモンスターが隠しダンジョンの入り口だったという可能性もあるのか。
攻撃を受けることで怒ったレアモンスターが隠しダンジョンに転送するイベント。
う~ん、聞いたことは無いが、そんな性質の悪いモノも作れなくは無い。
だがもし本当にそうならば、現状は最悪といっていい。
隠しダンジョンは基本的に高難易度だ。
その上、そのダンジョンの中に入り口がある隠しダンジョンなんて難易度は推して知るべしだ。
考えに没入していたからか突然俺の『危機感知(M)』スキルが発動した。
咄嗟に回避行動をとりながら、俺の高レベルの索敵スキルに反応が無かった事に、驚愕を覚えていた。
回避しきれなかったのか腕にピリっとした痛みが走る。
腕を見ると一筋の赤い線が走っている。
ピリっとした痛みに赤い線?
そこで違和感を覚える。
現実世界なら何の問題も無い。
紙で指を切ったぐらいのかすり傷だ。
だが、ここはWMOの中のはずだダメージエフェクトはあったとしても、血が流れたりリアルな痛みを感じることは無いはずだ。
ペインアブソーバーという仕組みで痛覚などの過剰な感覚を制限してるからだ。
なんて、悠長に考えてる暇もなかった。
戦闘態勢に移行した俺の体は反射的に転がる。
先ほどまで居た場所には10~20本ほどのナイフが刺さっている。
さっきの攻撃は投げナイフだったか……。
それにしても、この体の鈍さ、本来なら転がるまでも無く移動して避ける事もできたはずなのだ、それが反応が鈍くて転がるしかなかった。
まさか……毒か?
だが、『自動解毒S(M)』スキルは持っている。
徐々にシビレが引いていくのを感じる。
そんなことよりも、ナイフの飛んできた方向に意識を向ける。
「おとなしく有り金全部渡すなら命だけは助けてあげるわよ」
音も無く近づきながら、そんな事を告げてきたのは、
猫のような雰囲気を持った、気の強そうな少女だった。
次回は少女と戦います!