第3話 第二王子
今日も投稿できました。
このペースが維持できればいいのですが……。
今俺は王都の中心部にそびえたつ城の中の一室に居る。使いの人間に呼び出された俺はこの部屋で待たされているのだ。
大きなソファーが向かい合わせに一対とその間にテーブルがあり、応接室って感じか?
部屋広さはM&Mの店舗部分ぐらいで、色々飾られてる調度品なども『アイテム鑑定(M)』のスキルを使った所、結構な値段の物ばかりだ。
ただ、シーナのボロ小屋やマユさんのM&M店舗兼住居の家具などに比べればはるかに高価なものなのは判るのだが、王都の城としてはどうなのかがいまいち判らない。
ゲーム内の店売り最強装備と比べれば全然安い。それにゲーム内の知り合いで、持ち家に凝っていた奴の内装はこの場所よりずっと豪華だったしな……。
う~ん、この世界の一般常識が足りないのかもしれない、このままいくとそのうち何かトラブルを引き起こしそうな気がするな……。
そんな事を考えて時間をつぶしていたのだがどうやら相手が来たようだ。数人が連れ立ってやってくる気配がする。
「またせたな」
そう言って偉そうに向かいのソファーに座るのは比較的細身の文官と言った感じの男だ。少なくとも戦士系の職ではない気はする。ただ、それにしては目の光が強く、態度に威厳がある気がしないでもないのだが……。
あと他に特徴は……20台後半から30前半ぐらいの年齢だろうか? 服などはそれなりに値の張るもののような気もするし、指輪などはマジックアイテムっぽいな。
それはともかく、誰なんだろう?
もしこれがゲーム内なら『人物鑑定(M)』などを使って調べてみたい所ではあるんだけど……。
俺はゲームの時は、ソロや幼馴染のアイツとのペアがメインだった。
PT組むとしてもゲーム内の知り合いとたまに行くことがあるくらいで、勢力戦やギルド戦などのPVPはその知り合いのつてで数回参加したぐらいだ。
PKなんかはもちろんやってない。ペナルティもめちゃくちゃでかいしな。
そんな訳で、対人系のスキルは全然育ててない。あったとしても転職したい職業に必要な前提を埋めるためぐらいだった。
それで今問題になるのは諜報系のスキルやその補正だ。
諜報系のスキルには、自分に対しての鑑定にダミーの情報を流したり、鑑定された事を察知したり、カウンターでダメージを与えるような物すらあったはずだ。
当然諜報系の能力が高ければ回避できるのだがそこまでの自信はない。
城の中で自分から厄介事を起すリスクは避けるべきだな。鑑定を察知されたら悪感情をもたれるような気がするし。
それ以外の奴は……偉そうな男の後ろに執事の男……いや秘書や副官と言った感じの人物がいるな。助言や苦言を言って主をたしなめる苦労人というイメージが浮かぶ。
あとは兵士が4人左右に二人ずつ直立している、俺が何か怪しい動きをしたら即座に動くくらいは訓練されてそうだな。装備品から見ると……ゲーム内では最初に到達した大都市の普通の店売りで1番目か2番目ぐらいの装備か。俺の感覚からすると相当ランクが低いのだがこの世界ではどうなんだろう?
「それでは時間もない、早速話しに入ろう」
「ちょっと待ってください。話も何もそもそも貴方誰ですか?」
俺の言葉に目の前の偉そうな男は凄く驚いた顔をしている。他の奴らを見ても同様だ。知ってなければまずい事なのか?
「おお、自己紹介はしてなかったな当然知ってるとばかり思っていたのだが……。私はこの国の第二王子セルベルト・ウォン・セントリナだ!」
「俺は……冒険者のクロです」
自分の自己紹介は少し迷ったが冒険者と言う事にしておいた。この世界では冒険者ギルドに加入してないのが少し不安だがまあ何とでもなるだろう。
それよりも目の前の偉そうな男だ。まさかこの国の第二王子だとは……いきなりこんな奴が現れたと言う事は厄介ごとの匂いしかしないぞ。
「話は聞いているな?」
「いえ……ただ連れてこられただけで説明などなにも無かったですが……」
俺の答えに第二王子は後ろの秘書? に視線を向ける。
「情報を知るものを最低限にしたかったので」
「ああ、確かにあいつらにはできるだけ知られないようにしたいな」
う~ん、ますますきな臭い……このまま帰ってもいいだろうか……ダメだろうな、はぁ。
「先日、私の所の商人にエリクサーを売りに来ただろう? 残り全部を譲ってもらいたい。褒美の方はある程度用意する」
確かに、マユさんの店のために王都の店でエリクサーを1つ売り払ったな。あれがこの国の御用商人だったのか、情報は筒抜けだった訳だ。
それにしても王族だな、要請のような言い方をして、実の所は命令か……。
どうするか? この世界では材料的に作成はきついから温存したいところではあるんだが……。
「申し訳ありません。エリクサーはあれ一つだったもので……」
「いや、嘘をつくな! まだまだいくつか持っているという情報はつかんでいるんだぞ」
何処からそんな情報を手に入れたんだ!?
もしかしてあの店でエリクサーを取り出す時か? 諜報系のスキルにそういったものがあるのかもしれない。
となると、所持個数まで知られてる可能性があるな。1~2個渡してお茶を濁すってのは無理っぽいな。”残り全部”と言っているしな。
かと言ってエリクサー全部は無理だ。あれはこの世界での命綱の一つだ。そうそう手放すわけには行かない。材料がある程度手に入るならともかく、材料を手に入れる事は無理っぽいからな。
あと問題は、この国の王族の事をまったく知らない事だな。
俺の世界の歴史なんかだと、必要な物を手に入れたら用済みとして殺されるなんて事はざらにあるしな。
まあ、国と敵対しても周りの被害を度外視して全力でスキルを使いまくれば何とかなるとは思う。
となると、エリクサーを全部失った上で戦うのか、エリクサーを全部保持したままで戦うのか、王族を信じてエリクサーを全部渡すかの選択肢になるか……。
他に細かなことを言えば取り入るとかこの国に雇われるとかはあるだろうけど……その前提には信用が必要だからな……。
第二王子に目を向ける。
応じて当然という傲慢な態度だ。これが王族として普通なのかもしれないが……とても信じられそうにない。
最低限交渉カードがなければ信頼は出来ないだろう。交渉カードを使った牽制を信頼とよんでもいいのかは議論になりそうではあるけどな。
ここは断る方がよさそうだな。ちょっと牽制しておけば戦いの準備ぐらいの時間は稼げそうだしな。
「すみませんが、他人に譲れる分はもうないのですよ。あとは自分で使う分だけなので……」
俺の言葉に第二王子の目つきは鋭くなる。周りの兵士も剣に手をかける。
「聞こえなかったな。もう一度言ってもらえるか?」
「申し訳ありませんが譲る事はできません」
「とても残念な結果になるがいいんだな?」
第二王子からの殺気混じりの最後通牒だ。
「そうですね……『オートポーション』と言うスキルを知っていますか?」
「何の話だ?」
俺のまったく会話が繋がっていない言葉を発した事に、バカにされたとでも思ったのだろう第二王子はもちろん周りの兵士の殺気も高まる。
秘書? の男だけが俺の言いたいことが理解できたようだ苦い表情を浮かべている。
「『オートポーション』と言うのは、薬師系の職業では比較的簡単に取得できる回復スキルで、一定条件下で自動的に薬を使うスキルです」
「それがどうしたというのだ?」
「その名の通りポーションしか使えないと言うわけではなく、熟練していけば回復量に多少のペナルティはでますが、高価な薬も使う事ができるようになるんです。そう……どんな高価な薬でもね……」
「だから……それがどうし……くっ……」
やっと第二王子も俺の言いたいことに気がついたらしい。
俺に危害を加えるなら『オートポーション』で自動的にエリクサーを使ってやるぞと言う宣言に。まあ、そんな使い方はもったいなすぎるのでただのはったりではあるのだけど……。エリクサーを手に入れたい相手としたら無視はできないだろう。
「そうか……それは残念だ。もし気が変わったのなら言ってくれ。まあ、それまではここでゆっくりとしているといい」
そんな言葉を捨て置いて隠すつもりのない殺気を放ちながらさっさと部屋を出て行ってしまった。お供の奴らも其れについて行く。
さて、あの傲慢な第二王子も出て行ったところで早々に行動に移った方がよさそうだな。
急がないとマユさんやセリカに危害を加えられるかもしれない。あ、ついでにシーナもか……。
まずは部屋の確認。入り口の扉の外には2名ほどの兵士が守っているな……ただ強行突破は可能だろう。
部屋の窓からは……ここは2階ではあるけど、魔法を使えば降りるのは楽だろう。ただご丁寧に窓の下の方に4名ほど油断無く兵士が監視をしている。
強行突破するのは問題ないけど、穏便に外に出るのは難しいな……。
あと、一応『調教』スキルの効果でマユさんたちのステータスを見てみる。三人とも微妙に消耗はしているが、訓練やアイテム作成でも消耗はするからいまいち判断はできない。だが見た感じ戦闘での消耗ではなさそうだ。
となると問題は、どうやって城を抜け出すかだな。
邪魔する者を皆殺しにしていけば特に問題なく突破はできるだろう。でも、ゲーム内ならともかく、リアルなこの世界の人間はできる限り殺したくない。本当に切羽詰ったらやるしかないんだろうけど……。
となると、手加減するなり、気絶させるなりって方法になるんだろうけど、これも避けたいな。『隷属』の効果で奴隷が大量生産されそうだ。そんな事をはじめたらそれこそ戦争で行き着くところまで行かないとだめな気がする。皆殺しで突き進んだ方がまだ死人は少なそうだ。
まあ、やっぱりこっそり抜け出すのが一番よさそうだな。
盗賊系の気配を消す系統のスキルではなく魔法でのかく乱をメインに使っていけば何とかなるだろう。諜報系はともかく、魔法効果ならそう簡単に破られない自信はある。
ただそれでも高レベルの索敵スキルなどを使われたら見破られるのだが、その時は速度で振り切るか最悪、人を殺す覚悟を決めておこう。
よし、方針は決まった早速行動開始だ。
まずはこの部屋を監視してる目をつぶそう。
都合のいい事に質は悪いが昨日手に入れた幻惑石をそのまま持ってきている。
これを触媒にして魔法を使えばこの部屋ぐらいなら問題なくだましきれるだろう。
「『幻惑の霧』よ」
うっすらとした模様のような物が周りをおおったかと思うとすぐに消える。
「よし、成功だ」
監視の目をなくしたところで、次は魔法で自分のダミーを作成する。
これは遠隔でも戦闘は無理だが多少の動きはさせられる、しゃべるとかボタンなど機械の簡単な操作ぐらいになるが……。
ソロで仕掛けを解くのに必須な魔法だったりする。二つのボタンの同時押しとかに……。
「『転写の鏡』よ」
魔法で作られた鏡が現れ俺の姿を写し取る。
鏡の消えた後には俺の鏡像が実体化していた。
これで、途中で誰かが来ても対応させれる、時間稼ぎはできるだろう。
あと魔法で自分の姿を消して、気配や足音などを消すスキルを併用すれば簡単には見つからないだろう。
「『インビジブル』」
魔法で姿を消すと、部屋にはダミーの俺だけが残る。
あとはスキルで広域索敵を使って敵を避けていけば完璧だろう。
『索敵(M)』スキルを広域に使うといくつかペナルティがあったりするのだけど……。
今回問題になるのは索敵した事が察知される事だけのはずだ。ゲームで下手にダンジョンで使うとノンアクティブ(攻撃するまで攻撃してこないモンスター)をアクティブに変えてしまったりする。
まあ、察知されたとしても発動地点を逆探知されて発見されるわけでもないから問題ないだろう。問題は行動開始したと言う事が筒抜けになるぐらいだ。
じゃあ、『索敵(M)』の広域発動。範囲は王都全体っと……。
あれ? 城の中の城壁までしか索敵が出来ないな。うわ結界でもあるのか!? まあ王が住む城なんだからそういうセキュリティも当然なのかな?
まずは城壁まで行って逃げ出す事を考えよう。
と……目の前に浮かんだ半透明のMAPを良く見てみたのだが……。
これは……どういうことだ?
MAP上には敵対者を示す赤い系統の色のマークがいたるところにある。まあこれはいい。
ただ……敵のマーカーの色が3種類……いや4種類か……あるのはどういう事だ?
濃い赤、赤、薄い赤、オレンジ。オレンジは敵意はあるが積極的な攻勢をかけてこないだったか?
それでも敵対勢力が4つある。その上、勢力同士の同盟関係などの表示はない。
国の王の住む城の中に勢力が4つって……内乱でもおきてるのか? それとも起きそうなのか!?
これは想像以上に厄介そうだ、とっとと逃げよう。
逃走ルートを決めるためにMAPを細かく見ていく。
ふと、MAPがスクロールできたので動かしてみると、城の周辺のMAPから離れた地点にも2つほど索敵範囲が広がっていた。
1つ目はいびつなアメーバのような形の索敵範囲がリアルタイムに変わっていく。
2つ目は小さな円状の索敵範囲だ。
何だこれ? 味方のマーカーの表示が索敵範囲の中心あたりに1つ目の方に1つ、2つ目の方に2つあったので調べてみる。
1つ目はシーナ(奴隷)、2つ目はマユ(奴隷)とセリカ(奴隷)とある。
もしかして奴隷の索敵範囲も知ることができるようになるのか!? ゲーム内でPTメンバーの時、同一MAPならそういう効果もあったしな……。
これは地味に便利かもしれないな。
肝心の状況は1つ目のシーナは障害物の多いところで移動中なのか?
索敵範囲が常時変化し、シーナのマーカーも移動している。周りには濃い赤、赤、薄い赤のマーカーがついたり消えたりしている。
シーナは逃走中っぽいな……まあ、逃げ足だけは速いから大丈夫だとは思うが……。
2つ目の方はたぶんM&Mだろうな。ただ完全に3色のマーカーに囲まれているな。戦いが始まった様子は無いが……。
これは急いだ方がいいかもしれない。
一旦3人の事は置いておいて城のMAPを見ていく。
と……気になるモノを見つけてしまった。
敵対勢力のマーカーばかりのMAPに1つだけ灰色のマーカー……俺とは無関係の勢力が一人ぽつんと居たのである。
うっ……気になる。
ゲームのイベント限定のMAP……特に1度しか入れないような場所に遠回りすると有用なアイテムがわんさかあったり、放置すると仲間に二度と会えないとか良く見るパターンだ。
この世界はゲームではない……ゲームではないのだが……無視してチャンスを逃がすと二度と手に入らない気がする。
位置は城の東側の塔の最上階。その周辺には何故か敵のマーカーが殆ど無い。
少し遠回りになるが、外に出るルートとしても悪くは無いのか?
俺は敵が薄くて都合がいいと自分に言い訳しながら東の塔に向かう。
好奇心に負けたわけではない!
そして、東の塔の最上階で1人の少女に出会う。
「どなたですか?」
長い銀髪にはかなげな表情、そして殆ど日に当たってないのだろう真っ白の肌をした、とても絵になる綺麗な少女だった。
次回は謎の少女の話!




