第4話 魔力暴走
暴走しています。
俺の魔法のカウンターが直撃し床に倒れた店員さんに駆け寄る。
さっきのメッセージが正しければ彼女がマユさんなんだろう。
うん、ちゃんと生きてる。『手加減(M)』はちゃんと効果を発揮していたようだ。
一応『ハイヒール』の魔法で治療する。このレベルなら『ハイヒール』で十分だろう。
さてと、彼女の治療が終わった所で、色々と話を聞いてみよう。
俺は彼女を起そうとしてふと思いとどまる。
もう一度魔法を食らったら面倒だな。『魔力吸収(M)』のスキルを使っておこう。
『魔力吸収(M)』のスキルは自分を対象にした全ての魔法をMPに分解して吸収してしまう強力なスキルだ。
時と場所を選ぶが、相手によってはたやすく完封できたりする。
その反面、回復系魔法やバフ系魔法はもちろん自分が使う攻撃系魔法すら無効化するデメリットがある。
発動中常時少なくないMPを消費し続けるコストも結構きつい。
ただ、対魔法無効化においてはトップレベルの強力なスキルである。
改めて、彼女を起してみる。
ほほを軽くたたきながら、覚醒を促す。
「う……ううう」
目をうっすらと開けぼんやりとしてたのも一瞬。
すぐに必死になってあやまりだす。
「もうしわけありません、もうしわけありません」
謝罪し続ける彼女を落ち着かせるのにしばらく掛かったが何とか落ち着いた所で自己紹介からはじめる。
「おれはクロだ。あなたの名前を聞かせてもらって良いか?」
一応礼儀として聞いておく。さっきスキルで知ったのでマユという名前はわかっているが……。
「私は、マ……」
彼女が自己紹介しようとしたとたん、いきなりまた魔法が発動する。
今度は『魔力吸収(M)』で吸収して特に問題はない。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
またエンドレスで謝り始めたのでそれを止めて、自己紹介の続きを促す。
「マユです……色々申し訳ありません……」
改めて彼女を見るとおびえた小動物を連想した。
と、そのタイミングで魔法発動。それを吸収。
これは、覚えがある現象だな。
たしか……『魔力暴走』の素質スキル……がこんな感じだったような。
「魔力暴走について何か知っているのですか!?」
俺はどうやらつぶやいていたらしい、それを聞いたマユさんが驚いた表情で聞いてくる。
『魔力暴走』とはいわゆる素質スキルとかキャラクタースキルとかに分類されるスキルの一種である。
素質スキルとはマスタースキルの様に一度覚えたら転職しても消えないスキルで、職業や行動などで覚えるのではなく、キャラメイク時に覚えるかどうかが決定するスキルである。
だからこそ、素質スキルなんていわれたりするのだが。
素質スキルは大別して3種類ある。
1つめはメリットのみの大当たりのスキル。例えば『天才』とか『○○の天才』『幸運の女神』などのスキルだ。
デメリット無しなのが魅力だが、覚える確率がすごく低い、ゲーム内の知り合いで1人も居なかったほどだ。
2つめはメリット2に対しデメリット1ぐらいのスキル。例えば、攻撃10%UP&防御5%DOWNなどの効果のスキルだ。
これは比較的取りやすい、キャラクター毎に何らかのスキル1~5個ぐらい設定されてるのが普通だ。
時々、攻撃200%UP&防御100%DOWNとかとんでもないピーキーなスキルがあったりもするが概ね問題にはならない。
3つめ問題は最後のだ。極端にデメリットに偏ったり、デメリットのみのスキルだ。
弱点などを付与するスキルなど、基本的にそのスキル自体はマイナスでしかない。
ただ、この系統の場合、弱点の克服などといった特定の条件でスキルが変化して非常に有用なスキルになる事があるのだ。
まあ、ただスキルが消えるだけって場合も多かったりするのだが……。
で、『魔力暴走』のスキルは3つめのデメリットのみのスキルにあたる。
このスキルがはじめて出てきた頃は、付いてしまったら詰むといわれるくらい酷い効果で、キャラクター削除すら考えろといわれるくらいだった。
その効果は常時魔力2倍、魔法使用時さらに1~3倍、ここまでは恐ろしく有用なスキルに見える。
問題は最後の効果、PCキャラが射程内に居る時、一定時間毎にランダム(一応モンスター含む)に1人を対象に魔力を直接ぶつける系統の魔法を発動するというものなのだ。
スキルの効果で魔力が大幅に上がった状態で属性軽減の聞かない魔力弾の系統の魔法だ、同レベル帯のキャラクターはほぼ即死になるのである。
そんな地雷を抱えるPTはまずいない。強制的にソロ(ソロでも自動でPKしてしまうのだが……)にさせられるスキルなのだ。
「魔力の暴走を抑える方法って何か知ってないでしょうか? ……知ってるわけないですよね……」
マユさんの諦めきった声が痛々しい。
いや『魔力暴走』には克服方法があるのだ!
このスキルの評価を180度変えることになった方法が……。
「たぶん方法はありますよ」
俺のその一言に希望を見つけたように目を輝かせる
「え? 本当ですか!? 本当なんですか!」
「たぶん、私の知ってる方法で何とかなると思います」
「教えてください!」
マユさんは一瞬の躊躇もなく声を上げていた。
次回マユさんの特訓が始まります。




