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虹風のアルカンシェ  作者: ムク文鳥
勢能市の魔法少女編
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第3章 1話

第3章 とある町興しの方法


 その日の業務を全て終え、勢能市市長の室町正義はふぅと溜め息を零し、市長室の自分の椅子へと深々と身を預けた。


「──今日も何ら打開策は見当たらず──か」


 今日も会議に次ぐ会議。何とか町興しのための方策を絞り出そうとしたが、これといった起死回生の策は出てこなかった。


「焦ってどうなるものでもありません。今は現状維持に務めるが得策だと思いますが?」


 傍らに控えた秘書の女性が、書類に眼を通しながらもそう進言する。


「確かにそうだが……だが現状を維持するだけではいつかじり貧となる。そうならないためには今から手を尽くさねば」


 秘書の女性は内心で溜め息を一つ。

 確かに室町市長は真面目に政務に取り組み、些細な問題もないがしろにしない。

 市長として極めて優秀と言えるだろう。だが、少々真面目過ぎるとも言えた。


「ところで次のオフのご予定ですが……」


 だからここは何か気分転換でも、と考えて女性秘書は話題を変えた。


「ああ、いつも通り参加するつもりだ。その方向で手配を頼む」

「はい。畏まりました」


 女性秘書は一礼すると、市長室を後にした。市長がいつものようにあれに参加することで、少しでも気分転換になればと願いながら。




 え?

 今、この目の前の美少女は何て言いました?

 オトコノコ? この目の前で可愛くうーって唸ってる美少女が? 嘘だぁ。

 オトコノコってのは、もっとごつくて乱雑で、こう──ねぇ?

 決して目の前の存在のように、可愛くてちっちゃくて、笑うとバックに花が咲いちゃいそうなのは、オトコノコとは言いませんよ。美少女って言うんです。自分だって、それぐらいはちゃんと判るんですよ? あははは。

 だって、潤さんがオトコノコだなんて、そんな馬鹿な……えっと、オトコノ……コ?

 ──と、脳内で何やら葛藤があった後、何とかクルルの思考は再起動を開始。結果──


「にゅううううぅぅぅぅぅっ!? じゅ、じゅじゅじゅ潤さんが男の子ぉっ!?」


 叫びました。

 その叫びに、いまだにむーって感じで睨みつけていた潤が、こっくりと頷いた。


「え、だって、その、潤さんは、えー? ってことは……あれぇ?」


 クルル、絶賛混乱中。

 潤ははーっと諦めの混じった溜め息を吐くと、混乱中のクルルの両手を掴み、そのままぐいっと引き寄せた。自分の胸に。

 ぺたんこ。

 潤の胸に押しつけられたクルルの両の掌。しかし、そこには何の起伏も感じられない。

 クルルは思わず掌をにぎにぎしたり、わさわさしたりしたが、それでも結果は同じ。


「………………」

「どう? これで理解した?」

「そ……それじゃあ……本当に潤さんは……」

「うん。だからボクは魔法少女にはなれないよ」


 確かに、男である潤は魔法少女にはなれない。ようやく見付けた『象徴カリスマ』の有資格者が、まさか男性だったとは。クルルは目眩を感じて、思わずぺたんと床に座り込んでしまった。


「大丈夫? 魔法少女になるのは無理だけど、ボクにできることなら協力するから。だから元気だして。ね?」


 呆然と座り込むクルルに、潤は心配そうに語りかける。


「で……ですけど……潤さん程の乙女力を持った人なんてそうそういる訳が──にゅ? 乙女力?」


 その時クルルの脳裏に閃光が走った。その閃光は細く弱々しい光でしかなかったが、徐々に彼女の中で、眩しく強烈な光へと変化する。


「そ……うです……重要なのは乙女力です……」


 『象徴』となるために重要なのは乙女力の強さであり性別ではない。ならば魔法少女でなくとも『象徴』にはなれる筈である。そこまで考えた瞬間、クルルの真紅の双眸に生気が宿る。


「潤さんっ!!」

「は、はいっ!?」


 それまでの呆然とした状態とは打って変わり、生気を漲らせてクルルは潤へと迫る。

 逆に潤の方が怯えて後ずさりしてしまう程だ。


「やっぱり、潤さんには『象徴』になって欲しいです!」

「だ、だから、ボクは男の子だから、魔法少女にはなれないって……」

「『象徴』が魔法少女でなければならないとは限りませんっ!! 昔っから『象徴』=魔法少女って図式が鉄板だったから、自分もそれに固執してしまいましたが、要するに乙女力が高ければ『象徴』になれる筈ですっ!!」

「え……と? それってつまり……?」

「まずは実際に試してみましょうっ! それで上手くいけば問題なしですっ!」


 いや、色々と問題ありそうだなぁ、特にボクが全然理解できていないところとか。

 と潤は思ったが、クルルの迫力に圧されて何も言わないでおいた。

 そんな間にクルルはポシェットから先程とは種類の違うコードを取り出すと、それを乙女テスターに接続しながら潤に尋ねた。


「潤さんって、携帯電話をお持ちですか?」

「携帯? うん、持ってるよ」


 潤は机の上に置かれていたシルバーの携帯を手に取ると、それをクルルへと差し出した。


「最近機種変更したばかりの最新型なんだ」

「にゅ、最新型ですか──」


 クルルはそれを受け取ると、何やらいじり始める。どうやらこの機種の機能を調べているようだが、その手際の良さから見てこの手の電子機械の扱いに強いらしい。


「へえ、これって音声入力機能があるんですね。これは好都合です」

「うん、一応。あまり使ってないけど」


 逆に潤はこの手の電子機器の扱いが苦手だった。

 別にもっとシンプルな機能の機種でも良かったのだが、鉄心に強引に勧められてこれにしたのだ。

 クルルは先程乙女テスターに繋いだコードの反対側を潤の携帯に接続し、そのままの状態で携帯を潤に返す。


「このまま携帯を片手で持っていてください。そしてもう片方の手は、こっちの電極を……そう、そのままじっとしていてくださいです」


 潤は右手に携帯、そして左手に先ほど乙女力を計測した時の電極の片方を持たされた。そしてそれを確認したクルルは、再び乙女テスターを作動させる。


「う──っ?」


 潤の身体の中を何かが流れる。それは決して痛い訳でも熱い訳でもないが、確かに何かが左手から入り込み、身体中を駆け巡って右手の携帯電話へと流れて行く。


「これは……?」

「今、潤さんの乙女力の特性を解析してるです。そしてその解析結果を、潤さん固有のスペルグラムへと変換して携帯へとダウンロードしてます」

「スペルグラム?」

「かつては『魔法の呪文』と呼ばれていたもののことです」

 クルルはにっこりと笑ってそう告げた。




「以前は呪文書スペルブック魔法杖スペルデバイスという形式でしたが、最近では呪文のデータ化が進み、簡素化・高速化が図られました。昔は呪文書や魔法杖を媒体として長い呪文を全部丸暗記し、必要の際に一々口にしなければいけませんでした」


 言われてみれば確かに、本や杖を持って呪文を唱えるというのが、潤の魔法使いや魔法少女のイメージである。


「最近では携帯電話やノートパソコンのような電子機器に呪文をデータ化して登録しておけば、いつでも短縮機能を使って一瞬で呼び出せるようになったんです。以来『呪文スペル』という言葉は使われなくなり、『呪式スペルグラム』と呼ばれるようになりました」


 思わず感心する潤。

 今の世の中、確かにあらゆるものが電子化されているが、まさかそれが魔法使いや魔法少女といったファンタジーな存在にまで及んでいようとは。

 そりゃあついさっきまで、魔法使いや魔法少女なんてものが実在するなんて思いもしなかったけど。

 そんなことを考えていたら、右手の携帯が軽やかな電子音を奏でた。


「あ、ダウンロードが終わりました。やっぱり、『象徴』になるのに性別は関係なかったみたいです」


 クルルは嬉々としてコードを外すと、再び携帯を弄り始めた。


「にゅぅぅ。潤さんの乙女力の特性は『風』のようですねぇ」


 乙女力には一人ひとり独特の特性があり、先程の解析によって潤の乙女力の特性から彼固有のスペルグラムが組まれ、携帯に自動登録された。

 その一覧を表示させたクルルは、各スペルグラムの名称に『風』という単語が多く見受けられることから、潤の特性が『風』であると判断したのだ。

 クルルが潤にも見えるように携帯を操作すると、ディスプレイ上にずらっと何かの一覧が現われる。


「これは何?」

「これが潤さんが使えるスペルグラムの一覧ですよ」

「そ、それじゃあボク、本当に魔法が使えるの?」

「はい、そうです。だから自分は言いましたよね。潤さんなら絶対に『象徴』になれるって。それが今、こうやって実証されたんです」


 もし『象徴』になれないのなら、乙女力を解析してもスペルグラムに変換されることはない。逆に言えば、スペルグラムに変換された以上、潤には『象徴』となる資格があるということになる。

 それを聞いた潤は、興味深そうにディスプレイ上に表示されている文字を眺める。

 実際に魔法──スペルグラムが使える。この事実を前にすれば、誰だって心が踊るだろう。そしてそれは潤といえども同じであった。


「こうしてみ見ると、潤さんのスペルグラムは運動操作系が多いですねぇ」

「運動操作系?」

「その名の通り、物体や生物の運動を操作するスペルグラムです。具体的には車や人間の走る速度を上げたり、一時的に肉体能力を強化したりできるですよ」


 一覧を調べたところ、運動操作系以外では治癒、修復などの回復系が見受けられ、逆に攻撃的なスペルグラムは皆無であった。

 スペルグラムは、使い手の性格にも大きく関係する。それを考えれば、潤の固有スペルグラムに攻撃的なものが見られないのも当然と言えるだろう。

 クルルに説明を受け、何やら嬉しそうにディスプレイを眺めていた潤が、ふと疑問顔になるとゆっくりとクルルへと振り向いた。


「ねえ、クルル。ボクがやるのは人助けだよね?」


 潤の言葉にクルルは頷く。


「それと魔法──スペルグラムだっけ? それが使えるのとどう関係するの? それに『熱情』を集めるのはどうなったの?」

「ですから、スペルグラムを使って、人助けをして、『熱情』を集めるですよ」


 クルルは簡単そうに言ったが、潤にはやっぱりよく理解できなかった。

 次の話でようやく魔法少女が登場します。

 な、長かった……。

 読者の皆様(読んでくれている人がいるのかは置いておいて)、お待たせして申し訳ありませんでした。

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