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虹風のアルカンシェ  作者: ムク文鳥
勢能市の魔法少女編
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第2章 1話

第2章 とある異邦人の目的


 目を開けると、目の前にとびっきりの美少女がいた。

 亜麻色の髪は人工の灯の元でもきらきらと輝き。

 その髪と同色の瞳は生き生きと生命力に溢れ。

 小柄ながらもすらりとした肢体は躍動感に満ち満ちている。

 真夏の太陽がよく似合う、美人というより可愛い系のとても元気そうな美少女だった。

 ただ、なぜか顔が真っ赤だったが。


「にゅ──?」

「あ、あああ、き、気がついた? え……っと、日本語判る? それともやっぱり英語?」

「あ、えと、大丈夫です。自分、こっちの言葉は判りますです」

「わー、上手だね日本語。ボクは赤崎潤。君は?」

(こんな美少女がボクっ娘っ!? こ、これはギャップ狙いですかっ!?)

「あれ? もしかして、どこか痛い? なんなら薬、持ってこようか?」


 目の前の美少女が心配そうに見詰める。自分の問いに返事がないことに気を悪くする素振りもないようだ。


「い、いえ、どこも痛くないです。自分の名前はクルル・ミルル・パルルっていいます。クルルと呼んで下さいです」

「じゃあ、ボクのことも潤って呼んでね」


 と、にっこりと笑う潤。クルルはその瞬間、潤の背後に華が咲き乱れる幻覚を見た。


「そ、それで、ここは一体どこです?」

「ここはボクの家。見た通りちょっと古い家だけどね。ところでクルル、お腹減ってない?これからボクたち、ご飯なんだけど良かったら──」


 潤のその一言に、クルルはまるでバネ仕掛けの人形のように、寝ていた状態から上半身をむくりと起こしてきっぱりと言い放った。


「もっっっっのすごっっっっく、減ってますっっっっ!!」


 この時、クルルの頭頂にある一房のハネ毛が、嬉しそうにひょこひょこと揺れた。




 時間は少し巻き戻る。


「ど……どうすんだ、これ……?」

「どうするって言われても……どうしよう? やっぱり救急車とか呼んだ方がいいかな?」


 公園で発見した、倒れた金髪の少女を前に途方に暮れる潤と鉄心。

 背丈は潤よりも若干低いぐらいだろう。

 身に付けている物は、淡いピンクのワンピースの上から、若草色の春物のカーディガン。

 その他の持ち物といえば、肩から下げられた小さなポシェットのみ。

 海外からの旅行者だろうか? それとも留学生か? しばらく考えたが、解答が得られる筈もなく。

 そして鉄心は考えるのはもう終わりとばかりに、行動へと思考を切り替えた。


「取り敢えずおまえの家まで運んで、師匠に相談してみようぜ。ひょっとするとこいつ、腹が減って倒れてるだけかも知れねえし」

「いくら何でもそれはないでしょ?」


 まさか潤も、鉄心の言っていることが的を射ているとは思いもしない。


「ともかく俺がこいつを運ぶから、悪いが俺の鞄を頼むわ」

「うん、了解」


 鉄心は潤の手を借りて倒れている少女を背負うと、鞄を潤に預けて歩き出す。


「うっわ、軽。ひょっとすると潤と同じくらい軽くないか?」

「あのね、鉄心。いくらなんでもボクと同じってのは、この人に対して失礼じゃない?」


 鉄心に背負われた少女を心配そうに見詰めていた潤が、鉄心の言葉に異を唱える。


「ボクだって、こう見えても──」

「あー判った、判った。俺が悪かったから。あまり騒ぐとこいつが起きちまうぞ?」

「あ……ごめん」

「でもよ、この場合って起きた方がいいんじゃね?」

「うーん、どっちだろう?」

 公園から赤崎家まで僅かな距離ということもあり、二人はあっという間に赤崎家に到着した。


「ただいまー。お母さん、いるー?」


 母屋の玄関を開け、奥に向かって潤は声をかける。そして暫くすると、潤の声に応えて奥から初穂が姿を見せた。もうすぐ夕方の稽古が始まるので、彼女は胴着姿であった。


「お帰りなさい潤、鉄心。おや……?」

「あ、あのね、お母さん。そこ公園でこの人が倒れてて……」


 初穂は潤の言葉に一つ頷くと、鉄心に背負われたままの少女の様子を子細に調べる。

「目立った外傷はなし。脈も正常。おそらく、疲労が溜っているのでしょう。しばらく寝かせてやって、それでも目を覚まさないようなら改めて病院へ連れて行きましょう」

「そうなんだぁ。良かったぁ」


 母親の言葉に、潤は大きく安堵の息を漏らす。


「じゃあボクのベッドへ運ぼう。鉄心、お願いできる?」

「おう、任せろ」


 そのまま鉄心は、少女を背負って潤の部屋へと歩き出す。

 そして部屋の直前まで来ると、潤はとととっと小走りに鉄心を追い越し、自室のドアを開けて鉄心たちを招き入れる。

 潤のベッドは朝起きた時に整えてあるので、そのまま鉄心は少女を潤のベッドへ寝かせ、掛け布団を被せてやる。


「さてっと。これからどうする?」

「ボクと鉄心はこれから夕方の稽古でしょ? それが終わったら様子を見に来るよ」

「ん、じゃあ俺は道場へ行って着替えるとするか」

「うん。ボクも着替えたらすぐ行くから」


 そう言って鉄心を部屋から送り出した潤は、もう一度ベッドの少女の様子を見る。


「まだ気がつきそうにないよね……」


 それを確認した潤は、その場で胴着へ着替えると道場へと向かった。




 赤崎空手道場には、様々な年齢の門下生がいる。

 一番多い年齢層は小学生だが、潤や鉄心たちのような中高生、大学生や社会人といった年齢層の門下生もいる。

 中には初穂の父親の代から通っているという相当のベテランもいる。そのような年期の入った門下生は、初穂に教わるというよりは練習場を求めて赤崎道場を訪れる者も多く、中には小学生たちに教える師範代を務める者もいる。

 特に夕方からの稽古時間は、中高生以上の門下生が集まる。

 この時間帯に集まる者のキャリアは長く、胴着の腰には黒帯を帯びている者ばかりであった。

 もちろん、幼い頃から稽古を積んでいる潤と鉄心も黒帯である。

 今日も母であり師である初穂との稽古に勤しむ潤と鉄心。やがて稽古が終わると、挨拶もそこそこに潤は道場を飛び出した。

 何時もの潤らしからぬ行動に他の門下生が何事かと疑問に思う中、鉄心は自分の腹を撫でさすりながらそっと呟いた。


「はぁ……こりゃ、今日の夕飯はちょっとばかり遅くなりそうだな……」




 静かに自室の扉を開ける潤。暗い自室の中からは、規則正しい寝息が聞こえる。どうやら例の金髪の少女は熟睡しているらしい。


「──取り敢えず、大丈夫そうだね」


 聞こえる寝息には息苦しさは感じられない。そう判断した潤は電気もつけずに手早く私服に着替えると、再び静かに自室の扉を閉める。


「今のうちに、晩ご飯の準備を済ませちゃおう」


 自室を後にして台所へと向かい、五人分の夕食の準備に取りかかる。

 そして準備を終えると、家族や鉄心には先に食べててねと伝えた後、再び潤は自室へと戻って来た。

 自室の扉を再度開けると、そこにはやはり先程同様に闇がわだかまっており、中からはこれまた先刻と同じく穏やかな寝息。

 潤は闇が支配する部屋に入り、蛍光灯の点燈スイッチの紐を手探りで捜す。

 いくら闇の中とはいえ、10年以上暮した自分の部屋である。潤の手はあっさりと蛍光灯の紐を探し当てる。

 紐が引かれた一拍の後、闇は一瞬で消え去り、白々とした蛍光灯の光が部屋を支配する。

 そして蛍光灯の光は、ベッドに寝ている金髪の少女の姿も曝け出した。


「あ……う……え……えええぇぇっ!?」


 数時間前、潤と鉄心がベッドに寝かせた少女は、今もベッドで寝こけている。それは間違いないのだが、問題は先程と今の違いだった。

 少女を寝かせた折、きちんと少女の身体を覆ったはずの掛け布団は、今では派手に蹴飛ばされ、半分以上がベッドの下にずり落ちている。

 しかも布団を蹴飛ばした時の反動であろう、仰向けに寝ている少女のワンピースの裾も大きく捲れてしまっていて、少女の白い太股が左右とも完全に露になっている。

 それどころかもうちょっとで、その奥に隠されているとっても素敵なものまで見えてしまいそうだった。

 更にはその胸に聳える二連峰。小柄な少女には不釣り合いな程の双子山が、呼吸に合わせてふるふると揺れている。


「待って待って待って……っ!!」


 真っ赤になりつつおろおろとする潤。まさか少女がこんな際どい姿で寝ているとは思ってもいなかったのだ。

 取り敢えず潤はぎゅっと目を瞑り、そして手探りでずり落ちた掛け布団を捜すと、何とかそれで少女の身体を覆い隠す。


「ふー、びっくりしたぁ……」


 未だに顔を朱に染めながら、潤ははふうと息を吐くと、ぺたんとベッドの脇に座り込む。


「……ん……む……ぅ……」

「え?」


 ひょっとして、騒がしくして起こしちゃったかな? と潤が確認しようと少女の顔を覗き込んだ時、少女の瞼が開いてその奥に秘められていた真紅の瞳が現われた。


「あ、あああ、き、気がついた? え……っと、に、日本語判る? それともやっぱり英語?」

 頬の熱が冷め切らぬまま、潤は目覚めた少女へと問いかけた。

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