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幼馴染に愛を込めたお弁当を〜隠し味は私で絡めて〜  作者: 花月アイコ
熱闘のオードブル

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7/21

第7話

「糸〜お待たせ。先輩達に練習休むことを、あらためて伝えてきたら少し話し込んじゃった」


 放課後、学校最寄りのバス停でマカナと落ち合うことを約束。先に私がバス停で待っていると、十分ほど遅れてマカナも到着した。


「そこまで待っていなし、別に大丈夫。まだまだ待てたよ」

「えぇ、せっかく糸と一緒じゃん? 一秒だってもったいないよ」


 そう言ってくれるのは嬉しい。たとえ、リップサービスだとしても。


「昨日の準決勝からの今日でしょ。良かったことも、反省すべきことも、バレーと関係ないことだとしても、回り道をしても。きっと、大事になるよ」


 この言葉は誰かの受け売りではない。大嫌いな母と真逆の精神論。あの人は、目先のことしか考えていなかった。


「やっぱり、糸は優しいね。小言一つもない。アウなら文句を三回ぐらい言うよ」

「そんなの、お父様による教育の賜物(たまもの)でしょう。あっ……でも、内心で文句を(わめ)()らすときもあった……ような」


 該当する人は案外いない気がする。あの人以外で、嫌いなのは……あの人と一緒に蒸発したお父様の部下。それと、マカナを汚そうとする私自身。


「糸は真面目だからね。糸はもっと、アウに甘えてもいいんだよ」

「これでも、だいぶ甘えているつもりなんだけど……」


 私からしてみれば、マカナのご厚意に甘えてしまっている。


「甘えてないでしょ。どっちかと言えば、アウのことを甘えさせようとしている〜。ハッ! もしかして……甘えさせることを甘えることだと思っちゃっているぅ?」

「……うん。考えたことはなかったけど、根本的なところではその考えが近いのかも?」


 振り返ると、私が一方的に有利な条件で、人に甘えたり、お願いしたりした記憶があんまりない。


 マカナの弁当を作るために和泉(わいずみ)家にお願いしたときや、料理同好会を設立したときも、相手側のメリットも提示して頼み込んだ。


 遠い昔、母がいたときはどうだったか覚えていない。お父様に聞けば喜んで教えてくれそうだが、恥ずかしいので遠慮する。


「甘えるのも大事だよ。今日の糸が作ってくれたお弁当。本当に全部が美味しくて、感謝しても感謝しきれないの」


 料理を褒められるごとに心が痛む。そして……


「いいマカナ、よく聞いて。料理だって、私は食べてくれる人がいるからモチベーションになっているの。マカナが食べてくれるから、料理にやりがいを感じるのよ」

 

 カッコつけて、それっぽいことを言う私が気持ち悪い。


「……糸」

「おっと、バスが見えてきたね。乗り遅れないようにしないと」


 バスに乗るのは久々。通学では利用しないし、料理同好会で、学校から他校や公民館へ移動するときは先生の車で移動していた。


 はたして、今持っているICカードは使えるのだろうか。スマホで残高を確認できたから、問題ないとは思うのだけど……


 杞憂(きゆう)はしっかり、杞憂で終わってくれた。バス車内は席が空いており、一人だけで広々と座ることもできる。


「アウの隣り、空いていますよ」


 先にバスの窓際の席へ座ったマカナが、座席をポンポンと二回、隣りの空いているスペースを控えめに(たた)く。


「それではお隣失礼します」


 マカナの体に当たらないように、通路側に体を寄せて座る。それを、マカナは許してくれなくて、身を擦り寄せてきた。


「温かいね」

「梅雨だからジメっとしているよ」

「それでもいいよ。糸と一緒なら」


 何度も通った道だけど、マカナと一緒のおかげか見覚えのない道が続く。席が空いているとはいえ、他に乗客もいて、おしゃべりする気にはなれない。


 私には、マカナと一緒に並んで座っているこの時間だけで充分。充分……だ。



「お待たせ。いや〜予約は良い文化だね。三十分もしない内に会計も全て終わるとは便利べんり」

「すぐ終わるとは聞いていたけどその通りだったね。本屋にいたら、もうメッセージがきてビックリだよ」


 最初にレシピ本を見て、話題作、ちょっと変わった文房具を見ていると、お呼びがかかる。


 プロのバスケやサッカー選手も利用しているスポーツクリニックなので、予想よりも早く終わってしまい、小走りで集合場所へ向かった。


 料理をしていると指の付け根に痛みを覚えることが時々ある。腱鞘炎(けんしょうえん)だと思って、病院に行ったことはないが、私も自分のメンテナンスをしたほうがいいのかも。


「さぁて、どこに行きましょうか? 中途半端になった本屋? 服でも見る? それとも……アウにする?」

「……マカナに任せるよ。せっかく駅前に来たから、最後にお惣菜(そうざい)は見たいかな」


 見ているだけで学べることが多いし、実際に買ったお惣菜の味を再現できたら嬉しくもなる。


 お父様も私が作った料理を、「これは駅前で買ってきたものか?」と間違えてくれたこともあり、それで、料理の腕が上がったと実感できる。


 最近はお父様の舌が肥えてきたせいで、そう聞かれなくなった。一回、駅前の惣菜をあえて出すことで、惑わすことも大切なのかもしれない。


「糸の眼力すご〜い」

「そんなに?」


 手も握りしめてしまっていたが、そこまで、眼にも力が入っていただろうか。

 ……手を握るぐらいだから、眼力もあったのかも。


「アウの場合は食べ物に興奮して目からヨダレ。糸は……こう、研究者の眼! 熱意を持ってレシピノートを作るだけあると思うの」

「研究者の眼ねぇ」


 …………実は……実でもないが、料理は苦手に思ってきた。どう考えても、マカナへ作った弁当に髪の毛を入れ続けてしまったせいです。


 嫌なら辞めればいいのは理解している。調理中、今も脳内で理性と本能が辞めさせようとする、か細い声もした。


 でも、でもね。でもじゃないのは分かっているのだけど、()()()()()()()()()()()は、理性と本能を巻き込んで崩壊させる。


「まずは、当てもなくぶらつこうか。歩いていたら、目的ができるかもしれないし」

「いいね、私もマカナの後をつい、ッ!」


 突然、右腕を組まれてしまい声が漏れる。マカナの左腕でガッチリ固定されてしまった。マカナの一歩後ろを歩こうとしたのを見透かしたような一手。投了です。



 二人くっついたまま、時間の許す限り駅前をめぐりめぐる。他愛もなく一緒の景色を見られることが、懐かしくもあり嬉しい。


 お惣菜売り場へ向かおうとし、フードコートの前を通る。粉もんの香ばしい香りが鼻を誘ってきた。


「お惣菜を見る前に、ちょっとお腹空いたから、フードコートで何か買ってきてもいい?」

「私もついていくよ」

「アウだけで大丈夫。糸はフードコートの席取りをお願い!」


 ……席取りといっても、普通に空いている席しかない。全席空いているわけではないが、フードコートの半分は席が空いていた。


 フードコート内のウォーターサーバーで、二人分の水を汲み、適当な場所に座る。さっきまでいたマカナがいなくなって、寂しさのあまり肩がキュッと縮む。



「ぉ待たせ! たこ焼き一舟!」

「あぁ美味しそうな匂い。かつお節も踊っていて……見た目もいいね」


 ……今、かつお節に髪の毛を混ぜても口当たりを誤魔化せていいな、と思ってしまった。重傷どころか、重体。自覚症状があるから、なおのことたちが悪い。


「糸、あ〜んして」

「私はいいよ。先どうぞ」

「あ〜ん、ほらっ、あ〜〜ん」

「……あ、あ〜ん」


 マカナに口を開けるのが恥ずかしくて、目を逸らしてしまうが、なんとか羞恥心に打ち勝ち口を開け、たこ焼きを迎え入れる。


「ア、アツッ! はぅ、はう……」

「い、糸! ゴメン。そ、そりゃ、熱いに決まっているよね。水は、水はどこ? あったわ。落ち着いて、どうぞ」


 ゴクリ、ゴクリと喉を鳴らして、命の水が私に恵みをくれた。比喩(ひゆ)表現(ひょうげん)()きで、ゴクリっと本当に喉が鳴るんだね。

 

「ぷはぁ……助かったよ」

「ごめんなさい、拷問だったよね。とりあえず、糸の分の水を汲んでくるよ」


 ウォーターサーバーへ走っていくマカナをぼんやりと見つめる。たこ焼きが熱かっただけで、こんなにも心配してくれて申し訳がつかない。


 マカナには悪いけど、心配されて嬉しい自分もいて、客観視すると腹ただしく感じる。


 ……そっと、マカナがウォーターサーバーだけを見ているタイミングで、たこ焼きに刺さった爪楊枝(つまようじ)を入れ替える。


「こちら、お冷になります」

「マカナおかえり。さぁ、たこ焼きが冷めない内に食べましょう」


 しょうもないことに、マカナを巻き込む自分が嫌。

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