第6話
今日でレシピノートは六品目。
マカナの右肩は湿布を何枚も貼るぐらい痛めていた。他にも負傷はしていると思うが、私にはどこが痛いのか想像もつかない。
なので、効果がどこまであるのか机上の空論になるのかもしれないけど、食事でマカナのサポートをしたかった。
体の痛みに効くタンパク質や他にも炎症を抑える栄養を持っているサケをふんだんに使った、サケづくし弁当。
サケご飯に、サケフレークとほうれん草のごま和え、そして……メインのサケのムニエル。特にムニエルのソースは工夫を凝らしたつもり。
ソースには香辛料を加えて、バターで濃厚なムニエルの味わいを、スパイシーさで引き締めた。
香辛料は口に残りやすくて普段はあまり使わない。まして、お昼の弁当で使おうとすれば、なんとなく抵抗感もある。
今回は、その口に残る感覚を利用させてもらった。刻んだ髪の毛をソースに入れても……気づ――
「このソースは何にかければいいの?」
「サケのムニエルにだね。ムニエルがスパイシーになって美味しい……と思う」
今日もマカナと一緒に昼食を食べることができた。
一緒に食べて六日目、バレー部以外にもマカナは人気。三十という条件付きとはいえ、こんなに独占してしまっていいのだろうか。
目下現在の悩みとして、ムニエルのソースも自信がない。初めて作ったソースなだけに不安が残る。味見もしたのに、自信は時間が経つことに薄れていった。
今朝、髪の毛を入れていないものを、お父様にも味見してもらったが、ボソっと「美味しい」の一言。表情で嘘をついていないのは分かるけど、それでは、私の自信が付くことには繋がらないのだ。
「うわ〜このソース入れ、カメがモチーフでかわいい〜。あれ? ソースをかけると、絵面がカメの口からゲロをは――」
「マカナ、食事前だよ」
「今日も美味しそうな弁当! 糸のセンスも抜群で最高!」
マカナのことをたしなめたが、どう考えても、私のやっている髪の毛を食べさせる行為のほうがダメだろう。
……あぁ、私が悪いのだけど、気分が落ち込む。
気付いてほしくないのに、早くマカナに気付いてほしい。
「……糸、食べさせてもらっていい?」
「いいよ」
箸でサケのムニエルを一口大に切り分け、マカナの口元へ運ぶ。
「はい、あ〜んして」
「あ〜ん。うんうん。おぉ、ソースのアクセントが効いて美味! もう一口いい?」
「ふふっ、それじゃもう一口ね。ほら、あ〜ん」
美味しそうに食べるマカナを見るたび、私は一口も食べていないのに、いっぱいになる。言わずもがな、罪悪感で。胸がはちきれそう。
「右肩は大丈夫なの?」
マカナから薬の匂いがする。湿布の匂いなんて、普段は自覚したことがない。それなのに、今日はマカナの肩から湿布の匂いが漂った。
「糸が食べさせてくれたおかげで大丈夫。肩を温存できたよ」
「そうだといいのだけど……」
マカナは別に箸を使うことができるはず。箸を使うことは苦手だと思っていても、普通に箸を使って食べている。
「それよりも、今日の放課後楽しみ。糸と二人で出かけるのは久々だね」
「部活はいいの? 昨日は準決勝終わって、今度の土曜は決勝でしょ。最後に追い込みをかけるのじゃない?」
決勝戦に向けて、昨日までの反省点を考えたりしていそう。運動部について詳しくは分からないが、昨年までなら部活に拘束されていた気がする。
「本当は今日も練習日だけど、今日は肩のメンテナンスで病院へ行かないといけないからね。自己管理も大事だよ」
「それじゃあ、今日の放課後は駅前へ遊びに出かけて良かったの?」
病院へ行くのに私もついていっていいのだろうか。
「予約していたからすぐ終わるよ。たぶん、湿布をもらうだけだし」
「そうなんだ……」
そんな気軽に病院は終わるものなのか。病院のお世話になったことがあまりない。イメージとして、病院へ行くことだけで大変そうに思ってしまう。
「いや〜楽しみだな〜〜」
マカナは肩を揺らして、本当に今日の放課後を楽しみにしてくれる。私がこんな女なのに……関わらず。どうしたら、マカナと一緒に楽しめる日が来るのだろうが。
マカナの空になった弁当箱を見る。今日も弁当箱の中は全て空。私も含めて、全て食べ切ってくれたマカナに感謝しかないが、何を伝えてもおかしな話だ。




