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幼馴染に愛を込めたお弁当を〜隠し味は私で絡めて〜  作者: 花月アイコ
再び動き出したアミューズ

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2/19

第2話

 ――私とマカナの時が再び動き始めたのは、ちょうど一週間前。


 その前日の夜に、腹の虫がおさまりきれなかった出来事のせいで、一晩明けた今日もそれを引きずったまま学校へ。


 いつもよりも遅い登校時間になったが、朝練終わりのマカナと下駄箱(げたばこ)でばったり会えた。それで、不機嫌だった腹の虫もどっかへ飛んいく。


 クラスが別になってしまったのでマカナに挨拶できるチャンスを生かさないと。


 マカナが私のことを忘れるとは思いたくないが、昨日のせいで今の私はセンチメンタル。


 今のクラスメイトも良い人ばかりなのだけど、どうしても私はマカナを求めてしまう。あぁ、私に必要な栄養素はマカナなんだ。


「マカナおは――」

「マカナァ! 体育館の片付けお疲れさん」


 私の声は(さえぎ)られ、マカナは私に気付けない。部活で鍛えられたでだろう、力強くハキハキとした声の持ち主によって、私の声は空中で散っていった。


御櫛原(おくしはら)さんもおはよう!」

「……米沢(よねざわ)さん、おはようございます。マカナもおはよう」


 マカナへ労いの言葉をかけた彼女は、米沢(よねざわ)風香(ふうか)さん。マカナと同じバレーボール部で、去年は同じクラスだった。


 米沢さんは熱血的な人で、全ての動作がキビキビしている。そのせいで、周りからヨッフー軍曹と呼ばれていた。


「あっ……おはよう、糸」


 なんとかマカナも私に気付き、挨拶を返してくれる。

 申し訳なさそうな顔をしているがそんな心配はないのに。


 マカナがすぐに気付くことができるように、料理同好会でも発声練習をしようかしら。


 ……そうすれば、せっかく集まってくれた同好の士が減りそうだ。名義だけのメンバーもいるが、十名も在籍してくれている。大変ありがたい。



 マカナ、米沢さん、私の三人で教室に向かう。

 私は二人と別のクラスだけど。


「マカナはさぁ、英語の宿題終わった?」


 マカナ達のクラスは英語の宿題があったようだ。大体米沢さんがこう尋ねるということは、宿題をやっていなかったのだろう。


「もちろん、秒だったよ」

「さっすがハワイからの帰国子女。バレーでも頼りになるけど、英語も調子いいね!」

「えっ? ヨッフーのを手伝うとは一言も言ってないよ。アウが手伝うとしたら、糸の宿題オンリー」

「私のクラスは宿題がなかったから大丈夫だよ」


 英語は嫌いじゃない。成績は他の教科と比べてちょっとだけ低いが、安定して八割は取れている。いつか、ハワイに行ってみたいのでモチベはあった。


「マカナァぁ、お願いだから宿題を手伝ってぇ。御櫛原さんのクラスは宿題がないし。手伝ってくれたら、菓子パンあげるからさぁ……」

「う〜ん、しょうがないなあ。今回だけだよヨッフー」


 米沢さんが「ありがたや〜」とマナカを拝み倒す。去年から何度も繰り返された光景。変わったのは、私が二人の会話に入りづらいだけ。


「マカナ、菓子パンは美味しいしエネルギーも取れるけど、野菜も食べている?」

 

 小言を言いたくはなかったが、つい、言葉にしてしまう。


「まずまずかな。我が家は果物も野菜として扱っているから、糸の基準でセーフか分からないや」

「それは、青いバナナやパパイヤとかでしょ。ハワイの伝統食な側面もあるし、その点はいいんだよ。問題はスパム」


 そう、問題なのは、マカナのお昼はスパムを食べていた記憶しかないこと。ハワイの地域性か、和泉(わいずみ)家としての方針、どちらかは分からない。


 月曜から金曜日のお昼ご飯に偏りを感じしまう。

 スパム、サンドイッチ、スパム、スパムサンドイッチ、スパムおにぎり。


 朝や夜だと、マカナのお母さんが違う料理も作ってくれるらしい。私ならお昼だけだとしても、スパムばっかり続くと厳しい。


「確かに、マカナの家はスパムばっか。土日でも部活がある昼はスパム食っているよね」

「スパムは白米なんだよ。……待って! アウ自身でもズレているの分かっているんだけど、それぐらい毎日食べても飽きないの」


 毎日、スパムは……人間の身体の構造上厳しくないかしら?


 法律に違反しているわけではないけど、道徳としてはダメな気がしてならいない。いくら、マカナの運動量は多くても、限界はあると思うの。


 でも、マカナにはマカナの家のルールがあるし、家族仲も良好に思える。部外者がスパム問題に口を突っ込むのも違うのだろう。


 それでも、余計なお節介になるのも分かるが、気になってしまったのだからしょうがない。


「もし、マカナが良かったら、私がお昼――」

「あっ! マカナようやく見つけた!」


 またしても、言葉を遮られる。今度は、私も見覚えがあまりない顔。ええっと、同じ学年の子だった気がする……


「どうしたん、マカナの英語の宿題目当てなら私が優先ね」

「ヨッフー軍曹それはどうでもいい。マカナへ匿名で言伝(ことづて)があって、『放課後、体育館裏にきて』だって。それじゃあ、ワシャお花をむしりにいざ参らん」


 言伝を伝えたからか風のように去っていってしまった。

 

「これって決闘か? まぁ、要件は大体察しがつくけど。どうせなら、最初から私へ直接言えばいいのに」


 ――ドブんと、胸の海に投げ捨てられた岩が一つ。

 落ちた場所から波紋を広げ、確実に私のメンタルを削りにきている。


「それで、返事はどうするつもりなの? 私はマカナが部活に集中できるならどうでもいいけど。多少は目をつぶってあげるよ」

「私は……」


 どう言えば正解なのだろうか。私はマカナにとって幼馴染でしかない。米沢さんのようなことは到底言えないよ。


「まだ、告白だとは決まっていないでしょ。二年生になってから、もう片手で数える回数を超えたけど。今回こそはアウへ決闘の申し込みかもしれないよ」

「どっちでもいいけど今日の部活遅れるよね」

「ヨッフーさん賢い。お手数ですが一年組と部活の準備お願いします。……待てよ、呼び出される場所が体育館裏だから……体育館まで徒歩五秒じゃん」


 二人はどうってことない雰囲気を醸し出しているが、私はネタにできない。頭の中で言葉が巡り回っていると、教室まで着いてしまった。


「それじゃ糸、また」

「御櫛原さんまたね〜」

「ええ、二人ともまたね」



 マカナ達と別れてからも一日中、悶々(もんもん)と時間は過ぎていく。放課後は私も料理同好会の活動があったというのに、全てがあやふやに包まれる。


「糸ちゃんお疲れさま」

「…………」

「もしもし〜糸ちゃん。起きて!」

「ハッ! ここは……調理室? 麦島(むぎしま)さん、私は今日何をやるって言っていたかしら?」


 同じクラスメイトで料理同好会創設メンバーの麦島(むぎしま)理保(りほ)さんに、今日のやるべきことを確認する。


 私の記憶が正しければ、今日の目的は来週のために打ち合わせだった覚え。来週は老人クラブとの料理交流で、その事前準備をしないといけなかった。


「……かなり深刻みたいだね。いい、糸ちゃん。まずは深呼吸。ふーはー」

「そ、そうね。ふーはー。ふーはー」


 昨日の夜から、心が落ち着く暇はなかった。落ち着くことは大事だ。柄にもない。今の私に大事なのは冷静さだろう。


「うんうん、それじゃ落ち着いて聞いてね。糸ちゃんの意識が浮いている間に、もう、料理同好会の活動は終わったよ」

「本気で言ってる?」


 私を(だま)そうだってそうはいかないよ。

 だってさぁ、ほら……ほら?


 窓の外は日が沈みきり、調理室に壁掛けられた時計の針が二つとも真下を向いて重なっていた。

 十八時半……


 本来ならこの時間は学校を出て、スーパーに寄って、夕飯のための食材を買っていたはず。


 明日は土曜日で弁当を作らなくていいので、家にある常備菜(じょうびさい)も尽きてしまった。お父様ごめんなさい、今日の夕飯は白米しかないよ。


 お父様へ一報を入れておこうと、スマホを出そうと鞄の中に手を入れる。いくら探しても、想像する手応えがない。教室に忘れたのだろうか?


「今日はご迷惑をかけてしまったようだね。こんな調子では大変だったでしょう?」

「話し合い自体は順調に進んで、来週の料理交流の打ち合わせも無事に終わったから全然だよ。メモも、糸ちゃんがしっかりと書き残しているから見る?」


 備忘録として残したメモノートを麦島さんから手渡される。字は雑になっているが私の書いたときに酷似(こくじ)していた。


 書いている内容は初めて見ることに感じられたが、話し合いの結果もまとまっている。意識の浮ついた状態でも、案外なんとかなるもんだね。


「だいぶお疲れみたいだね糸ちゃん。調理室の片付けも終わっているから、後は帰るだけだよ」

「麦島さんありがとう。調理室の鍵は私が職員室に返してくるから、先に帰ってくれて大丈夫」


 私は自転車通学できる距離だけど、麦島さんはバスで通学している。これ以上遅くなってしまったら、バスの本数もほとんどなくなってしまうのでは。


「今の糸ちゃんの方が心配だよ」

「忘れ物を取りに教室へ戻らないといけないので、そのついでだから、ついで」


 心配そうに見つめる麦島さんへ、半ば一方的に「さようなら」と伝えた。そして、無事に鍵を返却し、教室に忘れているであろうスマホを取りにいく。


「あれ?」


 教室の扉を開けようと手をかけたら、教室内は電気がついていなくて暗いのに、教室中からガサゴソと音が聞こえる。


 不審者か泥棒みたいな雰囲気を感じ取ってしまったが、引き戸にかけた私の手は止まってくれない。


 こうなったら、思いっきって扉を開ける。ヤバい人がいるならダッシュで逃げよう。勢いで教室の電気もつけた。


 すると、私の席に……


「マナカ?」

「……糸」


 ――隣りクラスのはずなのに、マナカが座っていたのだった。

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