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幼馴染に愛を込めたお弁当を〜隠し味は私で絡めて〜  作者: 花月アイコ
粗塩薫るスープ

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第10話

 ゆらり、ゆられ、ゆりかごのように揺られて、電車に乗った私達は目的地へ運ばれていく。


 左耳に()したワイヤレスイヤホンから流れる曲は懐かしいものばかり。


 これらの曲はマカナが選曲したプレイリスト。八年以上前に二人して聞いて歌っていた、私とマカナの流行(はや)りが詰まっている。


「……ん。到着した?」

「まだ、着いていないよ。もう少し寝ていても大丈夫」

「ん……うん」


 右隣りの座席には並んで座ったマカナが私へもたれ掛かかっている。ウトウトとしているが、昨日の死闘から一日しか経っていない。疲労で眠気もあるのだろう。


 マカナの右耳には、私の左耳と対になっているワイヤレスイヤホンが挿されていることもあり、子守唄(こもりうた)になっていそうだ。


 ……いささか子守唄にしてはアップテンポの曲が続いているので、眠るのにあっていない気もするけどね。


 だけど、裏を返せばそれほどまでに疲れが溜まっていたのだろう。


「朝早くからお疲れ様」


 マカナの頭を撫でながら思わずつぶやく。直接伝える気はそこまでなかった。マカナの眠りを妨げたくなかったので。それなのに、独り言が漏れ出てしまう。



 ……最近の私がいっぱいいっぱいだという自覚はあるつもり。


 レシピノートは今日で十二品目。目標の三十品まで、三分の一がとうに過ぎた。一向に心の準備はできる気がしないけど。

 

 今日はマカナたっての希望でおにぎりを握ってきた。

 このおにぎりは私達にとって思い出の海が見えたベンチで座って食べる予定。


 前、そのベンチに座ったのは小学生のとき。マカナがハワイへ引っ越してしまう直前に並んで座った記憶がある。


 日本とハワイの距離が途方もなく遠くに感じられて、マカナと泣きあってしまったものだ。あの時のほうが、相手に感情をしっかりと伝えられていた気がする。


 マカナのために今も思い出のベンチがあるといいのだけど。八年以上前かぁ……残っているのかな。


 そこのベンチに私は別れのイメージが強くあって、マカナと離れて暮らすようになってから、行きたいと思ったことは一度もない。


 それだけに、昨日の決勝戦の帰り道で、車の中でマカナが思い出のベンチに行きたいと提案されたときは面食(めんく)らってしまった。


 あのベンチは、どうしても脳裏に別れのワードがチラつく。今日の行き先にマカナが、この場所を選んだ理由も見当がつかない。


 ついに、今まで私の髪の毛を食べさせ続けていたことを断罪(だんざい)してくれるのだろうか。そうして、別れを惜しんだあのベンチで、お別れを告げられて――


「……いと」

「どうしたのマカナ?」


 夢現(ゆめうつつ)彷徨(さまよ)っているマカナが、私の名前を呼ぶ。


「良かったあ。アウの隣りに居てくれて」

「……うん」


 無垢(むく)な表情に、凝り固まってしまった肩の力が抜ける。


 ……そうだ。今日の目的はマカナの慰安(いあん)。マカナが楽しんでくれたのならそれでいい。私が険しい顔をしては、楽しかったことも気を遣わせてしまう。


 昨日のマカナが記念撮影へ行っていたときに、マカナのお母さんからお願いされたのは、娘であるマカナのこと。


 なんでも、決勝戦で負けたときに見せたマカナの表情が、初めて見る顔つきで夫婦ともに戸惑ってしまったらしい。


 どう接していいのか分からず、昔からマカナと仲が良くて試合会場にいた私を頼ってしまったと、謝罪の言葉を口にしていた。


 マカナのご両親からも、マカナのことを託された今日一日。具体的な金額は知らないが、マカナに予算として、お小遣いも多く渡しているらしい。


 私とマカナはバイトをしていないので、お金はあったほうがいいのだけど……この予算は思い出を作るためのお金。


 節約のために普段からケチな生活を送っている私は、お金の使い方を知らない。マカナも浪費(ろうひ)しているイメージがないので、揃って持ち腐れにしそう。



「マカナ、目的地の一駅前まで来たよ。そろそろ降りる準備をしないと」

「んー、おぉ。海が見えるぅ!」


 眠気が完全に覚めたマカナは、車窓(しゃそう)一面(いちめん)に広がる海へ興奮を抑えきれないご様子。


 マカナがうつらうつらしていた三十分ぐらい前から、海は見えていた気はするが、私も「すごいね」と相づちを打つ。


 こうして、マカナと一緒の景色を見られるのは私も嬉しいからね。


 まもなく目的地へ到着するので、左耳に挿していたワイヤレスイヤホンをマカナへ返す。


 そして、座席の上の荷物棚に置いていた、弁当が入っているカバンを取ろうとする。座席から立ち上がり、荷物を取ろうと、つま先を伸ばして――


「はい、カバン。中身……それなりに入っているね。持とうか?」

「カバン取ってくれてありがとう。持つのは大丈夫だよ。右肩を痛めているケガ人よりは、ギリギリ、パワーはあると思うの」


 力こぶを作って見せるが驚くほど平坦(へいたん)。腕立て伏せを一回もできないので、驚く要素は一つもないが。


「そうだね、いつだって糸はカッコいい」

「カッコいいのはマカナでしょ?」


 バレーボールをしているマカナは論ずるまでもなくカッコいいが、普段の生活でもスッと荷物を取ってくれたりと、社会性が成長してカッコよくなった。


 おどおどと私の後ろにくっついていた昔が懐かしいが、今は今でいいことだと思う。


「糸がカッコいいと思うのは、アウに目標となる人がいたからだよ」

「……へぇ、誰なの?」


 マカナが目標としている人物……両親? 学校にいる人? バレーボールの関係者?


 いくら考えても、当てはまりそうな人物が分からない。幼馴染なのに……


 折悪(おりわる)く、電車は目的地に到着し、ドアが開かれた。


 マカナはくるりとこちらを向いて左手を差し出す。その左手を取って、電車を一緒に降りる。


 六月の中旬で梅雨の時期なのに、空も、海も、透き通った青色をして快晴(かいせい)


 あまりの絶景に、ついマカナの顔を見たら、笑いかけられてしまった。これでは、さっきの車窓から海が見えていたときと反対だ。

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