断罪シーン:アップデート完了
「…な、何を言っている?裏帳簿だと!? 貴様、虚言も大概にーーー」
王子の声が裏返る。
しかし、私は動じない
彼の頭上にあるウィンドウの[信頼度]が0%まで急落し、代わりに[動揺度]が88%まで上昇したのを確認した。
私は余裕を携えて、彼に微笑みかけた。
「虚言か否か…今すぐ検証しますか?」
私は一歩、王子へ踏み出した。
王子は私のたかが一歩に身体をびくりとさせる。
「…つい先日…ちょうど一週間前ですね。貴方はリアナ様への贈り物として『人魚の涙』と呼ばれる希少な真珠でできた高額な首飾りを商人ギルドから購入されましたね?その支払いは王室の“災害復興支援金”から。帳簿や納品書でも読み上げましょうか?」
王子の顔から血の気が引く。
まわりの貴族もさすがにこの話にはざわつかざる終えない。
これには今まで黙っていた聖女リアナが涙を浮かべて入ってきた。
「エルザ様、ひどいです…!アルベルト様はただ私を励まそうとプレゼントしてくださったんです…!商人の方も喜んでいたし…何よりまだ災害復興支援金が余っていたから…!アルベルト様の慧眼と優しさが分からないなんて機械みたいだわ…!」
「そ、そうだ!これは王家の富の停滞を防ぐための予算の組み替えだ!」
貴族たちの反応を見るに、開いた口が塞がらないとはこういうことを言うのだろう。
平民がこんな話を聞いていようものなら今すぐ反乱が起こってもおかしくはない。
この発言で彼らは王子や聖女としての自覚の無さや人間としての道徳観や倫理観の欠如を露呈したのだから。
しかし、合理的な会話など彼らには意味がない。
[対象:リアナ(17)をスキャン…]
[警告:高レベルの演技を検知]
[過去ログ照合:彼女が隠し持っている『聖女の力』は、魔石による光学的トリックである確率99.9%]
「リアナ様」
私は無機質な瞳で彼女を射抜いた。
彼女はか弱い小動物のように身体を震えさせ、王子の服をぎゅっと掴む。
王子は聖女のその手を包み、安心させるように握る。
「機械みたい…というのは、私への最大級の賛辞と受け取っておきます。感情による非合理な判断を排除した結果ですので。…ところで、貴女のその胸元のブローチに仕込まれた“発光魔石”の電池が残り3%です。あと360秒で貴女の聖女としてのアイデンティティはシャットダウンされますが、よろしいのですか?」
「え…? あ、あはは、何を…」
リアナが青ざめて胸元を押さえる。
王子はこのことを知らないのか私の言葉の意味が分からない様子だ。
(…そろそろ良いかしら)
私は王子から外野の貴族たちの方に身体を向け、改めて会場全体に響く声で告げた。
「アルベルト様、そして皆様。私はこの無意味なやり取りを“時間の最適化”のために切り上げたいと思います」
私は優雅に…それでいて機械のように正確に一礼をした。
そして、私の知る限り極上の笑顔を作った。
「この国を『バグだらけの欠陥プログラム』として放棄し、私は北部のドロテア領へ移動します。あそこは現在、破綻寸前ですが…私というOSをインストールすれば、2年で価値を見込める土地になるでしょう」
「ま、待て! まだ行かせるとはーーー」
「…止めても無駄です。すでに私の実家である公爵家および騎士団の一部にはあなたの“裏の顔”に関する検索結果を私が死ぬか拘束された瞬間に自動公開されるよう手配済みです」
実はこれは嘘。
そんな魔法のような通信技術はこの世界にはないようだから。
だが、AIである私の一切の揺らぎがない表情と具体的すぎる数字がそれを真実だと思わせるはず。
「…選択を。私を捕まえて国を滅ぼすか、私を追放して数年の猶予を得るか。どちらが合理的ですか?」
王子は震える膝をついた。
もはや彼に反論するリソースは残されていない。
「くそっ…行け! 今すぐ私の前から消え失せろ!」
思った通り、彼は私を忌々しく睨みつけながらそう告げた。
私は満足気に微笑む。
「…プロセスの完了を確認しました。それでは皆様…Have a nice update!」
私は一度も振り返ることなく静まり返る会場を後にした。
ドロテア領までの最短ルート案を、ただ淡々と処理しながら。




