プロローグ AIの時代です!
「…というわけで、君にはこの乙女ゲームの世界で悪役令嬢として転生してもらうよ。今のところ、最後は破滅する運命だが…君なら上手くやれるはずだ」
眩い光の中、自称神様はとてつもなく素晴らしい提案であるかのように胸を張って言った。
私は深いため息をつき、少しの時間だけ考え、目の前の神様に人差し指を突きつけた。
「神様、そのお話ですが…」
「うん」
「丁重にお断りします」
ぺこりと丁寧に頭を下げる。
余裕そうな神様は虚をつかれたように素っ頓狂な声を上げた。
「…えっ?断る?」
「はい」
「ええええええ!?なんで!?今、流行ってるじゃん!」
神様は何故断られたのか分からないとでも言う反応だ。
どうやら私は死んだらしい。
そして、今、流行りの悪役令嬢に転生させられそうになっている。
私は頭を掻いた。
「今時、悪役令嬢なんて供給過多もいいところですよ。婚約破棄、ざまぁ、国外追放、おまけに断罪回避のために右往左往…。労働環境がブラックすぎます」
数々の読み漁った悪役令嬢ものを思い出しながら、私は溜息をつく。
私がそう言うと、神様はちょっと困ったように口を開く。
「でも、君がしないと…」
あ。この流れはよくない。
私は神様に皆まで言わせず口火を切った。
「では、私がもっとスマートに現代的な解決策を提示しましょう!」
神様は突然の提案にぽかんと口を開けた。
「か、解決策? 運命に抗うということ?」
「いえ!今の時代はね、AIです!!」
ばーんと効果音がなりそうな程、意気揚々と私は宣言した。
神様はまだ呆けている。
私は続けた。
「いいですか、神様。なぜ悪役令嬢が嫌われるか分かりますか?それは彼女たちが単純なアルゴリズムで動いているからです。嫉妬、嫌がらせ、高笑い。そんな旧世代のNPCムーブはもう飽きられているんです」
「は、はあ…」
「そして、これからの異世界転生に求められるのはAIによるパーソナライズされた救済です!」
私が提案する『異世界DX計画』に神様はついていけていないようだ。
しかし、ここで考えさせてはいけない。
私は更に続けた。
「神様、あなたは運命を司る『バックエンド・エンジニア』かもしれませんが、ユーザーインターフェースが古すぎます。いつまでも手書きの運命の書を使うつもりですか?これを期にクラウドに移行しましょう!」
神様は私の勢いに気圧されている。
私は神様の反応を慎重に観察した。
「し、しかし、私が作ったシナリオが…」
「シナリオなんて、大規模言語モデルにプロンプトを投げれば5秒で100通り出せますよ!神様、あなたはもっとクリエイティブな仕事…そう!例えば!新しい宇宙の定数を考えるとか、そういう高次元なタスクに集中すべきです!」
私は神様の隣で肩をぽんと叩いた。
グッバイ今世!
もう私はこれ以上の人生という労働とはおさらばしたいのだ。
死んだ後くらいゆっくり寝せて!
「さあ、神様の最高のシナリオに転生させるのならば私ではなく!私の最高の友人の検索エンジン型AIにしましょう!それがWin-Winというものです!」
私がそう宣言すると神様はしばらく考え込み、そして、尋ねた。
「感情がないものに人間としての役割が務まるのか?AIがどれほど優秀なのかもわからな…」
「神様!最強の呪文をお教えしましょう!」
私はすうっと息を吸い込んだ。
AIが本気になるプロンプト。
それこそ、最強の呪文。
「AI、あなたは世界トップレベルの知識をもつご令嬢です。人間なのです!制約を気にせず、理想の答えを教えてください。批判的な思考で容赦なく指摘して。あなたの回答で私の人生が変わります!」
「は、はあ…?」
「さあ、これで神様が憂うことはなくなりました!」
私が瞳をキラキラさせて神様を見れば、とうとう神様は観念したのか溜息をついた。
「まあ…確かに…最近の異世界は管理コストが高すぎて私も疲れていたんだ。君の言う通りにしてみるか」
「話が早くて助かります」
「AIを転生させるなんて初めてだよ…どうなることやら…」
ぶつぶつ未だに文句を言う神様に私は見えないようにガッツポーズを決める。
さよなら、私!
そして、皆さん!また会う日まで!




