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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第一章 ジャンクヤード編

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第8話 相対する敵

「本当に大丈夫なんだろうな!」


 商業組合の拠点のある一室で幹部の一人が叫んだ。

 すでに送った傭兵はすべて殺され、残されたのは一人のみ。そして自らを殺しに来ようとしているミカが拠点のすぐ近くで戦闘を行っている。このような状況で安心できるはずもなかった。


「大丈夫だ」


 幹部の中でもリーダー格の男が静かに、しかし説得力のある声色で制する。

 

「わざわざこのためだけに借りた貴重な戦力、負けるはずがない」


 今、ミカと戦闘しているのはもしもの時に備えて、後ろ盾から借りている戦力だ。装備も経験も知識も実力も、商業組合が保有している傭兵の比にならない。本来ならばいつかは来るエルドファミリーとの抗争に備えるために借りていた。

 しかしミカを殺すにあたって、少しだけ早めに借りることとなった。

 これで、後ろ盾には大きな恩を売ることになってしまったが、仕方ない。ここで借りていなければここにいる幹部全員が殺されていた。


 ミカに対する最大限の警戒が功を奏した形になる。


「それに、このことはもう報告してある。もし後ろ盾(あっち)が勝手に動いてくれるのなら、安全だ」 


 男は雄弁に話す。

 

「必ず殺せるとも」


 ミカの未来を。

 下から響く銃声の音に耳を傾けながら。


 ◆


(——ッチィ。こいつ)


 商業組合の拠点内は中心に巨大な建物があり、その周りに幾つかの小さな建物が並べられている。

 巨大な建物に幹部たちがおり、その下でミカが戦っている状態。


 ミカとしてはヴォルトハイブの火力さえあれば外からいつでも幹部たちを直接叩ける状態。対して相手はそれを防ぎながらミカを殺さなければならない。しかしミカは度重なる戦闘で負傷を負っていることもあって、状況は拮抗している。


(誰だ? クソ)


 ミカが今戦っている相手は顔も名前も知らない。体格さえも薄っすらと確認できただけ。

 だが別に知らなくても、相手が強いことぐらいは分かる。

 負傷具合や装備などを鑑みてミカと敵とは拮抗した状況にある。


「これでも死なねえか」


 ミカが背中を預けていた建物の壁に向かっていきなりヴォルトハイブを打ち込む。青色の閃光が飛び散って建物内を一瞬だけ照らした。見えたのは敵の足。ミカはその影を追うように続けてヴォルトハイブを連射する。

 建物の一階部分は一瞬にしてはじけ飛び、基礎が無くなったことで二階部分がガタつく。

 それでもミカは後先考えずに引き金を押し込む。


 しかし、敵は殺せない。それどころか居場所すら分からなくなった。

 

(弾切れか)


 ヴォルトハイブに弾を詰める。 

 その瞬間、次はミカに向かって数十発にも及ぶ弾丸の雨が降り注ぐ。ミカは弾倉の交換を後回しにしてすぐに遮蔽物の後ろに隠れた。


(突撃銃か?)

 

 ミカが推測をした瞬間、背にしていた障害物が吹っ飛ぶ。

 

(手榴弾だぁ?! クソが)


 砂埃が舞い上がり、付近は煙に包まれる。

 崩れた建物の付近。開けた場所で両者は相対する。

 

 弾丸がミカの元に向かって飛ぶ。その時点でヴォルトハイブの弾倉の交換は諦め、ミカは一直線に煙の中を走り抜ける。敵は熱源によって相手の居場所を特定するゴーグルを装着しているものの、幾つかの要因によってミカの存在を知覚するのが難しい状況に陥っていた。

 濃い土煙は赤外線の透過を妨げ、手榴弾の爆発によって高温のガスや破片が周囲に広がり、一時的に熱源が乱れた結果、瞬間的に誤検知や視界の混乱が起こっていた。


 敵からはミカの姿が揺らめく赤い霧の状態のようにしか見えず、銃口は定まらない。一方のミカは暗闇と砂塵で一寸先も見えない状況だが、発砲音の方向に向かって地面を這いつくばるようにして移動することによって、一瞬で距離を詰めた。

 近づくごとに暗視ゴーグルはミカの姿をより鮮明に捉え、同時にミカも至近距離にまで近づいたことで相手の姿を視界に収めた。


 敵は拳銃の弾丸程度であれば衝撃を吸収しきる防護服を着て、頭部装甲を被っている。

 

 わざわざこの距離で取り回しのしにくいマグボルトを引き抜く必要はない。

 左手でホルスターから拳銃を引き抜き、敵に向ける――と同時に、敵もまた、懐に入られたミカに突撃銃の銃口を瞬時に定めるのが難しいと判断。突撃銃から手を離す。

 そして膝を付き出しミカの左手と拳銃諸共強引に破壊する。 

 だが、そのおかげで体勢が崩れ、次の一手を出すのが遅れる。一方でミカは左手が後退したことでバランスが崩れるが、まだ片手は残っているし、敵へと向かう推進力は健在のまま。

 

 マグボルトに手をかける。

 その瞬間、先ほど敵が手を離した突撃銃が自由落下でミカの右手にぶつかる。それでも構わずに引き抜こうとするが、僅かながらに猶予を与えた。敵は右足が上がったままの不格好な体勢のまま、折り曲げていた右の足を蹴り出す。

 ミカは瞬時に、マグボルトへとかけていた手を外し、一気に懐に飛び込んだ。

 

 完全に懐に飛び込めば、蹴りは当たらない。

 そして体勢が崩れていたこともあってミカに体をぶつけられた敵はそのまま倒れ行く。

 ミカも共に倒れ行くが、その際にナイフを引き抜くと両手で柄を掴んだ。

 

 そして倒れる勢いも乗せてナイフに全体重を預け振り下ろす。

 だが速度がつき、手が付けられなくなる前に、敵がその初動を抑える。


「クッソが」


 ミカの両腕の手首を、相手も両手で掴み締め上げる。

 同時にミカもナイフに全体重を預け、顔面へと刃を落とす。

 

 馬乗りになった体勢で両者が拮抗していたのは僅か一秒ほど。

 このままではじり貧になることを悟った敵はすぐに手を離す。

 ミカは常に全体重を預けていたこともあり、手を離した瞬間にナイフが落ちる。だが、敵からしてみれば手を離した瞬間に落ちて来ることが分かれば、回避のタイミングも掴める。

 結果としてナイフは狙いを定めることができず、ただ一直線に落ちて刃のすべてを地面に刺した。ミカもまた、体勢が前かがみになって敵の姿を見失う。


 その瞬間、敵は膝をあげてミカの睾丸を蹴り上げる。そして自由になった両腕を使ってミカの腹部を殴った。生身の体ではあるものの、訓練によって屈強な体を手にしている。

 その拳がミカの腹部にめり込んだ。

 

 思わず口から空気が溢れ、ミカが嗚咽を吐き出す。

 瞬間的に力が抜けたミカを、敵は両手で押しのける。


「――っぐ」

 

 押しのけると同時に、今度はミカに馬乗りになって顔面を殴りつける。ミカは何とか応戦しようとするが、体格差もあって厳しい状況だ。

 それにミカはこうした近距離で殴り合うような経験はあまりない。

 この状況になれば不利だと理解しているからだ。できるだけこうならないよう立ち回って生きて来たのが、今になって不利に働いた。


 だからといってうだうだと言ってもいられない。

 幸いにもナイフはある。


 ミカは敵の太腿にナイフを突き刺した。ズボンも同様に防弾仕様であり、ナイフの刃は貫かれない。しかし、衝撃は確かに伝わった。意識が僅かに足へと向いたその瞬間、ミカが睾丸に向かってナイフを突き刺した。

 ナイフの刃は通らない。

 しかし衝撃は通る。


「お返しだ、このクソ野郎」


 男が強烈な痛みでのけ反った。その瞬間、ミカが馬乗りの体勢から抜け出した。そして瞬時に、今度はナイフをこめかみに向けて頭部装甲に突き刺した。

 本来ならば何ら変哲の無いナイフでは貫けぬほどの防御性能を有した装甲。

 しかし度重なる戦闘でヴォルトハイブが吹き飛ばした瓦礫などが衝突した結果、僅かに傷が入っていた。

 

 ミカが意識したわけではない。

 偶然、その傷にナイフの先端が突き刺さっただけだ。

 その衝撃が頭部装甲に亀裂を入れる。男は異常を察して応戦しようとしたが、すでにミカが男の頭部を蹴っていた。亀裂の走っていた頭部装甲はその衝撃で完全に砕け、頭が露となる。

 

 最後、左手に持ったナイフを男に向けた。

 当然、男も応戦の構えを取る。


「ちげぇよ」


 だがミカはナイフを使うことは無かった。

 立ち上がると同時にホルスターから引き抜いたマグボルト。その銃口が確かに男の頭部へと向けられている。


「じゃあな」


 引き金を引くと共に、男の頭部が吹き飛ぶ。

 握られていた拳はそのままに、構えていた腕はだらんと落ちる。そして体は膝から崩れ落ち、ぐしゃという男と共に倒れ伏した。


「はぁ……ったく」


 死体を一瞥する。

 そして今度は拠点の中心にある建物を見た。

 あそこに幹部がいる。


 きっちりと、今までの責任を払ってもらう。

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