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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第三章 ネクストセル・コーポレーション編

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第76話 全力の装備

 ダストシティの郊外、廃れた工場区画でミカが待機していた。手にはエネルギーパックを用いて強化されたヴォルトハイブ。腰に取り付けたホルスターにはマグボルトが収められている。

 軍用の強化服をさらにエネルギーパックによって強化した新装備を着用していた。前にミリアが使っていた耐爆スーツよりも遥かに耐久性と機動性が高い。これだけの重装備をもってして行われることは限られて来る。

 ミカはあくまでも待機しているだけ、もし《《あっち》》で何かあった時のために準備しているだけに過ぎない。

 心配が杞憂となってくれるのか、現実となってしまうのか。 

 結果はミカの通信端末が鳴ったことがすべてだ。


『どうした』


 通信端末の向こう側からはダンテの無理矢理落ち着かせたような声が聞こえた。


『オートマン・ラボおよびアストラ製薬の企業部隊がそちらに向かっています』

『やっぱそうなったか。すぐ終わらせる』

『大丈夫ですか?』

『俺には金ないのに無駄な出費重ねて用意した装備があるからな、取り合えず証拠品ぐらいは届けられる』

『分かりました。では時間をかけるのも』

『ああ。ぱっぱと終わらせていく』


 通信端末を懐に仕舞ってマキアはすぐに歩き始める。もう後数分で現場には企業部隊が到着する。普通に考えていくらミカが重装備を整えようとも大企業の資本力をそのまま使って開発・購入した装備と同等程度でしかない。

 技術などはミカに劣るかもしれないが、やはり数の差がネックとなる。

 囲まれたらまず勝てない。

 だから死ぬことも想定に入れて、あまり時間をかけずに任務を遂行する。


「M-2PIKか……」


 特別部門時代に追っていた事件のことを思い出しながら、ミカが工場地帯の中に足を踏み入れると警報のような音が鳴り始める。

 この土地は私有地、三十秒以内に出て行かなければ武力行使も辞さない、警報に続いてそのような警告が工場地帯に響き渡る。この土地はもともとダストシティの実質的な行政権を握るアストラ製薬が作ったもの。

 工場地帯建設自体は数十年前に凍結され、跡地が広がっているのみ。普通ならば浮浪者が寄り付きそうだが誰一人として姿は無い。今もまだアストラ製薬が厳重に警備しているためだ。

 そもそもとして、なぜアストラ製薬が工場地帯建設計画を凍結させたのか。ここまで作って稼働あと一歩手前まで来て。何かしら理由があるはず。その理由は、地下にある。


「さて……」


 地下への入り口をミカはすでに《《把握している》》。

 あとは向かうだけなのだが、そう簡単にはいかない。工場地帯各地に設置された防衛設備がミカの排除に動く。

 組み立て途中の建物の鉄骨に擬態していた自動機関銃ターレットがミカに狙いを定める。

 EMP手榴弾が放たれる。

 耐爆スーツを越える耐久性能があろうとも一気にその攻撃を受ければひとたまりもない。

 ミカは瞬時にボルトハイブを建物に向かって引き金を引いた。

 

「ふぅ。いいねぇ!」


 ヴォルトハイブによって建物は鉄骨ごと薙ぎ払われ完全に抉れていた。

 これが電磁機構とエネルギーパックを組み合わせた新しい機構の威力。これこそがエネルギーパックの真価。

 本当ならばここで無駄撃ちでもして威力を楽しみたいところだが、時間が迫ってきている。

 ミカは地下への入り口に向かって走り始めた。


 ◆


 ジャンクヤードのごみ都市ゲルグでゴードンは変わらず店を営んでいた。ここ最近ゲルグは支配者が目まぐるしく変わっていること以外は、とても平和だ。街並みは前とあまり変わらず、住んでいる人たちは僅かに多様になった程度であまり差異はない。

 雰囲気は柔らかくなった気もするが。

 やはりゲルグを覆い隠していた天蓋がすべて取っ払われたからだろうか。上を見上げてると少し曇った空が見える。今まではところどころに亀裂の入り、機械油が滴る灰色の天井が広がっているのみ。

 エルドファミリーが統治したことをきっかけに天蓋の一部が取り払われ、ミカがやってきてネクストセル・コーポレーションが新しい支配者となってからは完全に取り払われた。

 今では上を見上げれば空が見える。


「……あ? なんだあれ」


 空を意味も無く見上げていると二機のホバー型飛行機が目に映る。


「ミカたちか?」


 ホバー型飛行機は空中で停止したまましばらく動かない。数分ほど経った後、突如側面の扉が開きロープが垂らされる。


「いやありゃ……違う」

 

 ロープを伝って全身を強化服で武装した者達が降下する。

 あれはミカたちではない。

 あそこまで悪趣味な装備はつけない。


「アストラ製薬だ……」


 彼らの腕に刻まれたロゴはゴードンの記憶の中に確かに残っていた。ゲルグが出来る前、まだここがごみ収集場として機能していた頃の雇い主。それがアストラ製薬だった。

 

「何が起きてんだ……」


 ゴードンは何も手に付かず彼らが降下するのをただ眺めることしかできなかった。


 ◆


「そうですか、やはり来ましたか」


 部下からの報告を受けたダンテが険しい顔で呟いた。ミカが工場地帯に立ち入ったことですでにオートマン・ラボ並びアストラ製薬にも伝わったのだろう。彼らはすでに行動に移している。

 ミカが彼らの秘密を暴きに行った以上、正面からの衝突は避けられない。

 用意はしてある。

 エネルギーパックを製造しているゲルグの本部はどこよりも手厚い防衛設備が整っている。最高品質の軍用装備を持った企業部隊に敵うかは分からない。しかし未発表なだけでエネルギーパックを用いた武器の幾つかすでに実用可能な段階まで製造し、揃えてある。

 それで時間稼ぎができるといいが。

 ミカがすべて終わらすまで。


「ケルン……私達も準備をしよう」

「はい」

 

 もうこうなったら話し合いではすまない。

 真正面からの衝突。

 企業抗争だ。


「あなたならば無事任務を遂行してくれると信じています」


 ダンテが話し合いの相手ではなくなった以上、身柄を確保するために企業部隊を向かわせるだろう。

 おそらく来るのはオートマン・ラボの企業部隊だ。


「防衛設備を稼働させろ、ミカさんがすべてを終わらせるまでここで籠城するぞ」


 ここまで予測してダンテたちは話し合いの場所を選んだ。ここはダンテたちが所有するビル。今回のことに備えて防衛設備を整えておいた。高級住宅街の中にあるということもあって、爆薬を用いてビルごと潰すことはできない。

 突入してきた企業部隊と戦う。

 すでに交渉にきたオートマン・ラボの担当者は捉えている。引き下がることも、振り返ることもできない。


(実践に身を置くのは久しぶりですね)


 苦笑してダンテは小銃を手に取った。


 ◆


「暗号解析に時間がかかってるな……」


 工場地帯の地下にある研究施設で、死体が散乱した部屋にミカがいた。予想通りというべきか、やはりこの地下に来るまでに予想外なことは一つも起こらなかった。負傷は一つも無く、装備に関してもほぼ故障はない。

 今すぐにでも戦える状態だ。

 現在は地下の研究施設にある基幹システムに解読デバイスを差し込んで情報を取得しているところだ。


「予想通りというべきか……まあありきたりな光景だが……」


 地下施設では人体実験が行われていた。アストラ製薬ほどの大企業であれば人体実験の一つや二つ行っていても不思議ではないため、地下施設に関しても驚きはない。気になったのは人体実験そのものよりも、内容についてだ。


(グリッチャー……やっぱM-2PIKか)


 地下施設は移転が進んでいたこともあって本来の規模から大幅に縮小されていた。しかしそれでも未だに人体実験は行われ、白い壁に囲われた中には被験者がいる。全身を無理矢理機械かさせられた被験者だ。

 常に涎を垂らし、目の焦点は合わず、言葉すらもまともに交わせない。

 そう。 

 被験者はグリッチャーの症状を発症していた。


(加えてオートマン・ラボと……まあ秘匿されてはいるがその他諸々か)


 アストラ製薬はオートマン・ラボを含め複数の大企業を手を組み、グリッチャーの研究を行っていた。当然のように人体実験は行われ、数々の被験者が実験の末にグリッチャーを発症した。

 その時の研究員の一人が国外に逃げ出し別の企業で作り出したのがM-2PIK。だからM-2PIKは麻薬症状に加えてグリッチャーを発症する特別な症状があった。今、デバイスを使って基幹システムの暗号を解読し、情報を読み取っているが、この人体実験程度のカードではアストラ製薬を潰せない。


 せいぜい隠居しているアストラ製薬の社長を表に引きずり出して会見の場で謝罪させることで精一杯。すぐに株価は回復し、また戻る。

 しかし一時的に彼らはネクストセル・コーポレーションに手出しができなくなる。アストラ製薬が今回の暴露で力を弱めるのは長くて一年ほど。その間にネクストセル・コーポレーションは力で潰されないだけの影響力を持つ程度には成長しなくてはならない。

 できる。

 できるはずだ。

 やれる。

 やらなければならない。


 そのために今はこの場を切り抜けなければならない。


「来たか……」


 すでに研究施設は写真やデータに収めダンテに送った。しかしやはり、重要な情報を得るとなる基幹データにアクセスしなくてはならない。アストラ製薬ほどの大企業だ。セキュリティは強固。外部からのハッキングは無理に等しく、こうして直接デバイスを差し込んだとしても解析には時間がかかる。

 ちょうど今、地上にアストラ製薬の企業部隊……その中でも精鋭の部隊が到着した。 

 解析までの時間、命に代えてでもデバイスを守り抜く。

 基幹システムごと破壊しに来るのが最悪の想定。しかしあいつらはその選択が取れない。ミカ一人程度ならば施設に損害を与えずとも殺せると考えている。


(なんでんな研究をしたんだ?)


 敵が来ているというのに研究のことについて思考を割きながらヴォルトハイブを持つ。

 なぜグリッチャーの研究をしようとしたのかまでの目的は不明だ。グリッチャーといういつ発祥するかも分からず治療の施しようがない病気を治す新薬は、完成すればさぞ金になるだろう。

 薬が出来たうえであれば人体実験を行っていたとしても成果があるため非難は緩和される。


「ふう」


 一度息を吐いて意識を切り替える。

 そして地上へと繋がる階段へとミカは歩き始めた。

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