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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第三章 ネクストセル・コーポレーション編

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第74話 急速に飛躍する

 ネクストセル・コーポレーションの新商品の売り上げは好調だ。消耗品で買い替えることを前提としたエネルギーパックの機構が埋め込まれながらも、基礎的な性能の高さやほとんど過熱しないという特異性も相まって最初は面白がった富裕層が買った。

 値段は高かったが、バトルシステムズが採用した装備を作ったという前評判もあり爆発的では無いにしろ、売れ行きは好調。従来の銃と違い弾丸だけでなく、エネルギーパックも消耗したら買い替えなくてはいけないため、整備に金がかかる。そのため買っているのは金に糸目をつける必要が無いほどの富裕層の護衛や企業部隊など。

 最初こそエネルギーパックそれ自体の安全性を問う指摘をされていたが、その声も無くなってきている。今のところエネルギーパック由来の事件は起きていないし、元々不具合が起きにくい。

 雪山でも、泥の中でも、水にぬれていても、燃やされていようとも、エネルギーパックは外装を破壊されない限り機能を保つ。継続性こそ低いものの一瞬の爆発力だけでいえば破格の性能と値段。


「よーし、次はプロモーションムービーだ」


 今度、新しくエネルギーパック搭載型の散弾銃が発売される。同時にウィンドウに載っていたアタッチメントの類も順次発売していく。

 だがまずは発売する前にプロモーションムービーが必要だ。

 小銃を売り出した時とは違って、エネルギーパックを隠す必要もない。撮影を行うのはバトルシステムズの訓練施設。可変式で自由に地面を隆起させることで地形を作り変えられる仕様と拡張現実を用いた仮想の敵を表示。

 散弾銃のプロモーションムービーを撮るには適任の場所だ。

 プロモーションムービーの撮影に協力するついでに、割り引きや優先販売権、試用の感想も兼ねてバトルシステムズの隊員に行ってもらう。

 そしてそこに加えて。


「じゃあよろしく頼む」


 ミカが隣で待機していたミリアとウォルターを見る。

 ミリアはいつもと変わらない楽し気な顔をして、ウォルターは困惑気味だ。


「お前から話を聞いた時は何してんだって思ってたが、まさかこんなのとはな」


 偽レオンに掴まされた情報のせいでミリアとウォルターは解雇に近い状態だった。そこにミカが話をしてネクストセル・コーポレーションに来るよう頼み込んだ。結果は今ミカの横にいる通り、首を縦に振って貰った。

 ウォルターは快諾というわけではなかったが。

 ただミリアが頷いたことを説明したら、しぶしぶだが承諾してくれたのは特別四課の仲間らしい。


「私は取り合えずバトルシステムズの隊員さんとやり合えばいいんですね」


 ミリアが手を上げて活発に事前確認を行う。ミカはその変わらない様子に苦笑しつつ説明した。


「ああ。プロモーションムービーってことで、一応段取りはあるが、基本的にその認識で構わない。支給される散弾銃は今度売り出すやつを象っただけだから、引き金を引いてもらって構わない。演出はあとで編集でつけるからな」

「分かりました!」

「じゃあよろしく頼む」

「はい!」


 持ち場へと向かうミリアの背中を一瞬だけ見て、ウォルターはミカの肩に手を置く。


「自分が危険な賭けをしてるってこと分かってるよな」

「分かってる」

「その賭けに俺らを巻き込んでるのも分かってるよな」

「巻き込んだって言い方は人聞きが悪い。選択権はそっちにあったぞ。それと課長とクロも勧誘してる」

「ったく、お前って奴は」


 ミカに勧誘されても、されていなくてもどうせ特別四課は消えていた。どこかへと職場を移すのは分かり切っていたのだから、ミカが作った楽しい職場にいくというのも考えてみれば悪くない。

 彼が危険な賭けをして、どのような結末を迎えるのかも見てみたい。


「巻き込んだんだから、成功させろよ」

「ああ。当たり前だ」


 ウォルターとミカは拳を軽くぶつけあった。

 そしてミカは建物の外へと向かって歩き出す。


「おい、どこへ行くんだ」

「もし《《あっち》》で何か起きた時の為に、あらかじめ準備しておきたいことがある」

「……分かった」

 

 それだけ言って歩き去っていくミカを引き留めず、ウォルターはただ返事だけを残した。


 ◆


「さて、今度は俺らの番か」


 同時期、ダンテとケルンがある建物の前にいた。ケルンは当然ながら、バトルシステムズから引き抜いた、という形で予定通りネクストセル・コーポレーションの下で働いている。

 ネクストセル・コーポレーションは将来的には機械類全般にエネルギーパックを組み込んでいく予定だ。ただどうしてもエネルギーパックは消耗品ということもあって継続的な運用は望めず、冷蔵庫や照明などとは相性が悪い。しかし一時的な馬力を賄うための別電源として活用——という道ならば使い道がある。

 例えば、建設用重機の一時的な馬力を向上させるためのアイテムとしてエネルギーパックを組み込む。ありえる未来だ。

 ただ、それを実現させようとすると新しい機構を組み込んだ重機を生産しなくてはいけなくなる。それに重機の製造は莫大な費用と専用の工場が必要になる。さすがのミカでもそこまで用意することは難しい。もし重機にエネルギーパックを組み込むとなれば大手製造メーカーとの連携も不可欠。

 エネルギーパックは革新的な新技術であるが、既存のすべてを書き換えられるほどの名声と信頼を得ているわけではないし、それに足る機能もない。しかし最大限力を発揮すれば確かな成果を得られる。 

 どのように扱い、喧伝し、信頼を集め、行き渡らせていくかはミカたち次第。

 実現するために多くの大企業と話し合うことになる。その際にどのよう条件をまとめるか。

 突如として世界に現れたエネルギーパックという新技術。その大きなうねりの中心にいるのはミカたちだ。舵取りを間違えば一瞬にして食われる。

 選択、選択、選択。

 一つでも間違えれば後の無い決断を幾つもしなくてはならない。


「来たか」


 ビルの前でダンテが自らに言い聞かせる目的も込めて呟く。

 たった今から間違えれば死ぬ商談だ。

 相手は、オートマトン・ラボ。神経系インプラント、義体、電脳、クロームギアなど幅広く扱う大企業だ。

 軍事事業と彼らの事業は重なるところが多い、というより重なる場所しかない。

 エネルギーパックが銃器の性能を引き上げるのに優秀なパーツであったように、クロームギアや義体の性能を引き上げるためにも有用な手段となるのは分かり切っていた。


「予想していたよりも早いが、やるしかない」


 最初はちょっかいをかけて来るだけ、あるいは無視してくれると淡い期待を抱いていた。しかしどうやら、大企業というだけあって嗅覚は鋭いらしい。一作目となる小銃を発売してすぐに直接問いかけてくるとは。


「なあケルン」

「まだスタートラインから少ししか進んでいません」

「それもそうか」


 気楽に、しかし慎重に、ダンテは足取りを進める。

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