第73話 新商品
ダストシティの中位区画にある銃器を専門に取り扱う『ミッドブルック』という武器屋。ダストシティの中でもかなり名の通った優良店として知られており、連日客で栄えている。二階建てで一階が銃、二階がアタッチメントを含めた銃以外のもの、という具合だ。
傭兵から企業部隊まであらゆる客層が来る店だ。取り扱っている銃の幅も広い。大企業から小規模な企業が売り出す銃器まで様々。中々手に入らないような逸品も倉庫には保管してある。
朝ということもありミッドブルックに客は少ない。
店内が忙しくないということもあり、常連客と店主が会話に一花咲かせていた。
「デバさーん。何かいい武器知らないですか?」
「うるせーなミルコ。前に話した通り、新商品はあれですべてだ」
店主であるデバに新人女性記者のミルコが話しかける。聞いていることは主にミルコが次に書く記事の内容についてだ。
「でも今季、まだ売り出されるのは幾つかありますよね」
「そうだな。アタッチメント類に関して言えば数え切れないほどある。銃本体は……細かく見れば幾つもあるんだろうが、うちで扱う予定なのは四種類だな」
「ほら、前に言ってた企業があるじゃないですか。あれも今度新商品売り出すらしいんですけど、四種類の内の一つってことですか?」
「……ああ。前に言ってた企業ってネクストセル・コーポレーションのことか?」
「はい!」
店主は前にミルコの取材を受けた時にネクストセル・コーポレーションについて話題に出した。
デバがネクストセル・コーポレーションを知ったのは最近だ。きっかけはバトルシステムズの新規採用装備のコンペティション。その結果を見た時だ。バトルシステムズは大手傭兵派遣企業ということもあり、デバのような業界関係者はコンペティションの行方を気にしていた。
五大企業の一つに数えられるマンティス社がコンペティションに参加してはいなかったが、コーテン社を筆頭にポンペイウス社やキクタ工務店、それからアイアンフレーム・ダイナミクスなどのイロモノも参加していた。
果たしてどこの企業が採用されるのか。
従来の予想ではもとより採用されていたM-MI2を製造したコーテン社の新装備か、キクタ工務店のような革新的であり堅実な技術を基にした確かな銃か。様々な選択肢があった中でコンペティションを勝ち得たネクストセル・コーポレーションはまったくのノーマークだった。
デバの中では、銃器のアタッチメントやシステム補助などを専門に最近頭角を現し始めた企業というのがネクストセル・コーポレーションのイメージだった。確かな技術力と手厚い保証をもってして業界に切り込んだ新進気鋭の企業。それがネクストセル・コーポレーションであったはず。
まさか銃を作り、それがバトルシステムズに採用されるなどとは思ってもいなかった。
そしてネクストセル・コーポレーションのN-KO3がバトルシステムズに本格採用されると共に、二つの銃器を売り出した。一つは散弾銃、もう一つは拳銃。どちらもバトルシステムズに本格採用された武器を作ったメーカーが製造した、という事実が追い風となり売り上げは好調だ。
事実、性能も優れている。
そして今度、そのネクストセル・コーポレーションから新しい武器が売り出される。
事前の説明を聞く限りで、それは小銃だ。
「まあ……あれだ。今度の新商品はうちでは取り扱わない」
「え、なんでですか」
デバはネクストセル・コーポレーションの新商品を店で取り扱わない。いや、取り扱えない。
「販売は今のところ公式で締結している店舗かホームページのどちらかってことになってる。俺らが卸せるとなっても、数か月は先になるだろうな」
「へぇ……でもなんでそんなことを?」
「俺だって聞きたい。マンティス社のような大企業ならまだしも、小規模な企業なら店に卸した方が売れると思うんだがな」
とは言っても、ネクストセル・コーポレーションは規模の割に名が売れている。独自路線での販売でも十分売り上げが見込める。しかし店頭に並べた方がいいはずだ。
店に並べられるだけの在庫が無いのか。
しかし受注生産というわけでもなかったはずだ。
「おそらく、保証の関係で面倒なんじゃないか」
デバは一つの可能性を指摘する。
「今度売るって銃は……これは噂で聞く話なんだが、なんでも結構特殊らしい」
特別な機構が用いられていたり、新技術が組み込まれている場合、保証の関係で面倒な問題が発生することが多々ある。不具合が出たとしても買った店では修理できない、だなんてことが頻発するし、直接本部に問い合わせても修理して戻って来るのが一か月後、だなんてこともザラだ。
そのため店が締結している企業での販売にすることで窓口を制限し、不具合が起きた時の回収や事後対応を単純明快にする意図もある。
「ただ、ここまでするってことはかなり特殊だ。事前の情報もほぼ出てねえしな。発売日まで分からねえってことだ」
通常ならば、販売日がある程度近づくと品物の性能について情報を開示してもおかしくはない。しかし今度ネクストセル・コーポレーションが売り出す銃に関しては一切の情報が無い。
秘匿されている。
理由はあるのだろうが、ここまで来ると売り上げに響きそうだ。
「ま、販売されてからの評価次第ってところだな。一応、俺も個人で予約してる」
「私もした方がいいですかね」
「それは知らん。ただ予約に締め切りと人数制限があったはずだ。早めにしておいた方がいい」
「うーん」
「記者さんは自腹購入か?」
「フリーなので」
「残念だな。俺は経費だ」
「えぇー」
◆
「さて、今日が発売日だ。ここからは眠れないから覚悟しろよ」
「分かってますよ」
ミカとダンテが出来上がった工場の前で笑い合う。工場に従業員はほとんどおらず、ウィンドウのAIで回している状態だ。AIに休みはいらず、機械の点検だけしていれば半永久的に稼働させられる。
それでも今度発売する新商品の発注量に対応できるかは怪しい。
この新商品のために一から金型を作り、整備し、システムを変えた。正直、売れなければ大量の在庫を抱えたまま死ぬ未来しか見えない。しかし売れればネクストセル・コーポレーションは飛躍する。
(エネルギーパックの開発が間に合って良かった)
今度の新商品にはエネルギーパックが使われる。ミカが持つ最大の手札を明かす。
売り出した瞬間から各企業がエネルギーパックの研究・解析を進めるだろう。
そしてエネルギーパックの技術を使って製品を発売する。
特許は取った。
しかし安全とは言えない。
各企業が研究を終え、エネルギーパックを活用する前にミカたちが市場を支配する。当然、それだけの力は今のところない。たった今から、今日この発売日から急速に成長し展開し、強固な地盤を固める。
エネルギーパックを用いた新製品の発売だ。
「エマに言っておいてくれ」
「ミカさんはどちらへ?」
「気晴らしに歩いて来る」
「……あなたのような人でも緊張するんですね」
「失敗したら死ぬ賭けだぞ? 緊張するなって方が無理ある」
「それもそうですね」
二人は笑い合う。
確かな未来を思い描いて。




