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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第三章 ネクストセル・コーポレーション編

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第72話 次の目的地

 一か月後。

 ミカは課長の元を訪れていた。課長の自宅である高層ビルの七階。課長はミカからの提案を聞き入れて自宅に招き入れていた。


「よお、久しぶりだな、ミカ」

「こっちこそ」


 体感で一年ぶりに見たミカの姿は特別四課に所属していた時とは大きく変わっていた。

 明るくなった、とはまた違うがどこか楽そうな、あるいは爽やかな印象を受ける。それでも特別四課に所属していた時や初めてあった時に感じたような肌を刺す緊張感も同居していた。

 いなくなったあとミカが何をしていたのか課長は具体的に把握していたわけではない。

 しかし何かしらのことはしているのだろうとは見当がついていた。


「それで、今日は何のために来たんだ」

「少し話が合ってな」

「通話じゃ駄目だったのか」

「暇なんだろ」

「……ったく。どこから聞いたんだ? よく知ってるな」


 偽レオンに掴まされた神経情報や義体パーツのせいで特別四課は停職中だった。


「ただ、それはあくまでもミリアやウォルターだけだ。私は対応で仕事がある」


 課長は特別四課を取りまとめる者として対応に追われていた。その忙しさの中でもこうしてミカと時間を用意して合っている。


「それはすまなかった。停職中の奴らに聞いた方がよかったか?」

「どうせ面倒なことだろ。こっちに話せよ」

「だろうな」


 雑談もそこまでに、一か月が経って仕事の方が本格的に始動し始めるということもあり、ミカもあまり時間が無く、早めに本題を切り出す。


「今、会社で傭兵として働いてる」

「そうか」


 わざわざ特別四課を辞めてまで会社の傭兵として働くわけがない。たとえ大企業の企業部隊に勧誘されたとしても、だ。つまり、ミカには何か理由があって傭兵をしているのだろう。


「その会社ってのが、昔スラムにいた時の仲間の会社だ。社長は別の人物ってことになってるが、作ったのは俺だ」


 確かに、ミカは表舞台に立つ役割を嫌いそうだと課長はどこかで納得する。


「近々、本格的に事業を始めようと思ってる。それに伴ってうちは今、深刻な人材不足だ。事業規模に対して会社として小さすぎるからな」


 課長は何となく次に紡がれる言葉を予測しながらミカの言葉を聞いた。


「今、暇なんだろ。うちの会社に来ないか」

「やっぱりな、イカれてるぞお前」


 ミカは自分でも「確かにイカれてる」と思いながら続けた。


「停職、とは言ってもほぼ事実上の解雇だろ?」

「なんでそうなる」

「掴まされた情報は過去行方不明になったカームド・ウィルのもの。それに上層部が反応したってことは大企業から指示された可能性が高い。つまり現場に残されていた神経回路や義体パーツは大企業由来の失踪事件に関わっている。企業としては事実を知った奴らを野放しにしておくことはリスクが大きい。飼い殺しにしておくのが妥当だ」

「どうしてそこまで知っている」

「この前……つっても一か月ほど前だが偽レオンから連絡が来た。今話した情報は別個送られてきたメールに添付されていたものだ。あの野郎が嘘をつくとも思えねえし、どうせこれ本当のことなんだろ」


 課長の表情を見れば、今の話が本当のことであることぐらい理解できた。


「この停職が開けることはないし、あんたがいくら対応したところで終わらない」

「だから辞めろと」

「良い提案だろ」

「悪くはないが、少なくとも良くはないな」


 課長の能力であればネクストセル・コーポレーションに来なくとも大企業に入れる。

 ミリアやウォルター、当然クロも同じだ。

 わざわざミカの会社に来る必要が無い。


「まあ……これはただの提案だ。別に強制じゃない」

「待て待て。何十年と働いた今の職場を辞めて、成功するかも分からないお前の会社に入れってのか?」

「そうだが?」

「何不思議そうに言ってんだ。私からすればとんでもない博打だぞ」


 課長の立場は何十年と働いて実績と信頼を積み上げて手に入れたもの。たとえ停職中で先が無いかもしれない今でも、簡単に手放せるものではない。


「前に言ってたろ。この立場になったのは上が空いたからしぶしぶだってな」

「あれは方便だろ?」

「まあそうだろうが」

「ったく、こいつは」


 課長は額に手を当てて首を振る。


「お前、これミリアやウォルターにもしようと思ってるんだよな?」

「課長一人じゃ人材不足は補えないからな」

「クロにもか?」

「うちにはまだニューロダイバーがいない」

「おいおい」


 ミリアやウォルターはともかく、課長やクロは立場上警察の機密情報まで知り得ている。退職するのにも色々と手続きが必要な上に、ダストシティで働くとなったら警察《PCD》に睨まれるかもしれない。


「つまり、特別四課まるごとスカウトしようってのか?」

「そうなるな、結果的に」

「あくまでも、みたいな感じで言うなよ、ったく」


 課長が頭を抱えて深いため息を吐く。


「ミカ、あんたこれ終わったらウォルターのところ行くの」

「そうなるな」

「……まったく」


 邪念を振り切るように頭を揺らして、課長はミカを見た。


「返答は……一週間待って」

「分かった。期待してる」

「勝手に期待しないで」

「そうだな。じゃあこれ以上邪魔しても悪いし、帰るからな」

「そう」

「ああ」


 話が終わったミカが振り返らずに家から出て行く。課長はその後ろ姿を眺め、ため息を吐いた。


 ◆


『ダンテ。準備は』


 外に出たミカが通信端末越しにダンテと通話していた。


『完璧ですよ。いつでも』

『分かった。じゃあ始めるぞ。ここからは一気に行く』

『そうですね。予定通りに』


 今日が記念すべきネクストセル・コーポレーション始動の日だ。

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