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マキシマム・ザ・クラウン  作者: しータロ(豆坂田)
第三章 ネクストセル・コーポレーション編

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第71話 特別四課の境遇

「クロ、どうですか」


 ミリアとウォルターが持ち替えった情報の一部から情報を抽出していたクロに、ウォルターが問いかける。

 神経回路や一部の義体パーツの解析は特別部門の本部で行われ、残りの数点をクロが独自で解析に当たっていた。

 クロは抽出できた情報を幾つか確認した後に不明点を上げていく。


「まず、一つだけこっちに保管しておいた神経経路を解析したんだよ」


 ウォルターの目前にホログラムを表示させて話を進める。


「したらこいつが出て来たんだよ」


 ホログラムには人の顔が映っていた。


「誰ですか?」

「都市のデータベースには乗っているけど、数年前に行方不明という形で処理されてるんだよ」


 男の名はカームド・ウィル。元々はアカデミーの学生で卒業と共に大手製造メーカーに勤務。二年後に行方不明という経歴だ。神経回路に残っていた情報は確かに、この男のものであった。

 幸いにもカームドは身体強化手術をアカデミー経由で行ってくれていたおかげで、都市データベースに情報が残っていた。偽レオンが意図的に義体や神経回路を残したことを考慮すると、わざわざデータベース上に情報が残っている者を意図的に選んだ可能性がある。

 偽レオンがカームドの情報を見せて、クロたちに何を伝えたいのかは未だ謎だ。


「それと義体からもこいつの神経回路に似た構造が見つかったんだよ。あそこにある義体はこいつのものとみて間違いは無さそうなんだよ」


 数年前に身体拡張手術を受けたカームドだが、義体化は行っていないはず。しかし現場から回収した義体パーツには彼のものとしか思えない波長が記録されていた。行方不明になっていた数年間で義体化手術でも行ったのだろうか。

 ウォルターはホログラムを見ながら答えた。


「じゃあつまり、俺らはこいつを追えばいいのか」


 すでに死人ではあるが、探ればいくつか情報が出てくるはずだ。偽レオンに誘導されているのは気に食わないところではあるが。


「そうなんだよ。私も軽く調べてみた限り、カームドの行方不明事件、かなり闇深いんだよ。調べれば何かしら出てくるはず。ギャングか企業か、どちらかが関わっているとみていいんだよ。ただ、後者だった場合扱い方を間違えると私達にまで危害が及ぶ可能性があるんだよ」

「でしょうね」


 偽レオンが示す通りに動くのも危険だ。しかし情報が無い今、リスクを取らなければならないだろう。

 そして二人がある程度情報を伝達し合ったところで、二人のいる部屋に課長が姿を見せる。


「クロ、ウォルターいるか」


 課長はそう言って姿を見せると部屋の中を見渡す。


「ミリアは外出中か?」


 ウォルターが通信端末片手に答える。


「ミリアなら警察《PCD》の本部にいる」

「何かあったのか?」

「知らないのか? 定期訓練の予定を早めるって連絡があってよ。ミリアは今日がその日だ」


 課長は顎に手を当てて僅かばかりに考える。そしてすぐに顔を上げて面倒そうな表情をした。


「そういうことか。回りくどいことをする」

「どういうことだ」

「クロ、ウォルター、今回の事件からは手を引け。というより、偽レオンの事件の管轄が警察《PCD》じゃなくなった」


 その言葉だけで何が起きたのか気がついたクロとウォルターは目を合わせる。

 そしてウォルターが口を開いた。


警察そっちで調査してもらってた神経回路と義体パーツで何か見つかったってことでいいのか」

「当たりだ。調査の結果、上からこれ以上の捜査停止を命じられた」

「またか」


 アストラ製薬の件といい、偽レオンの件といい。企業からの圧力で捜査を簡単に取りやめる。やはり警察《PCD》は弱い。

 だが、とクロは課長の目の前にホログラムを表示させる。


「小屋で見つかった証拠品の一部はこっちで保管してるんだよ。それに解析も済んだ」

「本当か?」

「ホログラムを見れば分かるんだよ」


 恐らく、警察《PCD》本部が解析して得た情報はクロが得たものとほぼ同じ。クロたちが今見ている情報が原因で、捜査が打ち切られたということになる。

 つまり、クロたちは知ってはいけないことを知ってしまったということだ。


 ◆


「だいぶ出来てきたか」


 ダストシティの郊外にある完成途中の工場で、ミカが作業していた。ミカが行っているのは工場の管理設備に何かしらのウイルスが仕込まれていないか、ウィンドウを用いて調べること。

 そして防衛設備にウィンドウのAIを導入することで迎撃能力を強化すること。

 もしウィンドウが敵になれば工場ごと駄目になる策ではあるが、今更だ。ここまで来てしまった以上、ウィンドウを信用しなければならない。裏切られたら賭けが外れただけだ。


「次……」


 作業が一段落して次の作業へと移ろうと立ち上がったところでミカの通信端末が鳴る。

 宛名は知らない人物。番号は当然身に覚えがない。

 一瞬相手が誰なのか考えて逡巡し、万が一に備えてすぐに出た。


「やあやあ突然悪いね。偽レオンだよ」

「ッチ」


 面倒な相手だと、ミカは舌打ちを隠さない。

 

「何の用だ」

「君に話しておきたいことがあってね。今時間あるかい」

「ねぇよ」

「じゃあ聞いてね」


 ミカの話を聞かずに偽レオンは話を進める。


「特別四課の面々が人体実験の証拠を入手したよ。カームド・ウィルの研究報告書さ。彼らがどのような末路を辿るかは分からないけど、きっと愉快な結末になるはずだ」

「それがどうしってんだよ」

「証拠がないだけで、ある程度は気がついてるんだろ? 僕の目的には」

「知らねえな」

「そうかい? 君と僕、ある程度目的は同じはずだけど」

「それの目的地はそこじゃねえ。あくまでも過程だ」

「はは。そうかい。でも君には頑張って貰わないとね。直接僕がしてやれることはあまりないけど、それでも……まあどうにかなるかな。わざわざ電話かけてまで伝えたかったことはこれだけ、君が成功し続けるなら、どこかでまた僕と会うことになるよ。君ならばできるだろう?」

「なら協力しろよ」

「どうだか。僕は僕の利益のためにしか動かないからね」

「なら手伝えよ」

「今はね」


 通信は一方的に切られる。

 

「ったく」


 通信端末を仕舞いながら首をひねる。


「仕方ねえか」


 作業は一時中断だ。

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